ナチスの収容所の後日談を描いたヘビーなドラマの音楽はやっぱりヘビーでした。ルイス・バカロフはこの物語にふさわしいドラマチックで美しいスコアをつけました。これを1位にしようかどうか迷って、CDを聞き直したのですが、その重厚な音楽に改めて聞き入ってしまいました。こういうのが映画音楽だという一つの典型と言ってもいいでしょう。
今年のキーワード「癒し」のドラマの音楽を、「タイタニック」で大ブレイクしたジェームズ・ホーナーがてがけ、彼のいいところの出た音楽となりました。彼の全体を包み込むようなまろやかさは、時に大作では甘すぎてしまうこともあるのですが、この小品では、暖かなタッチにまとまりました。トマス・ニューマンの「モンタナの風に抱かれて」もこの線に近いのですが、丸みのあるピアノの音になんとなくひかれてしまったのでございます。
アメリカの大農家の父娘の確執を描いた重いドラマにリチャード・ハートレーが静かな、でも重厚なサウンドをつけました。オーケストラの厚いストリングスがテーマを奏でて、そこへギターが絡んでくるタイトル曲から、聞きごたえ十分です。ドラマを支える音楽の典型とも言うべきもので、映画ではほとんど気付かないのに、音楽だけ聞くと、「え、こんなドラマチックな音楽が流れていたの?」と驚かされます。
今年のアクション映画の音楽を席巻したのは、いわゆる「ハンス・ツィマー一派」のみなさんでした。トレバー・ラビン、ハリー・グレグソン・ウィリアムス、ジョン・パウエルなどが、いわゆるツィマー系サウンドでアクション映画の典型サウンドを展開していきました。この「ピースメーカー」はツィマー御大が手がけた作品で、シンセで厚みをつけたオーケストラをぶん回すパワフルアクションサウンドが聞き物です。下手をすれば画面が音楽に負けてしまいそうな気もしたこの音楽が、本編ときちんとマッチして映画を盛り上げていたのは、お見事でした。
皮肉なユーモアのスパイスが効いた復讐ミステリーの音楽を手がけたのは、ジャン・フィリップ・ゲードという人、小編成のピアノとオーボエがメインの不思議な音ですが、これが映画の内容とピッタリと一致するのですよ。この映画が復讐劇でありながら、クールなゲーム感覚のミステリーに見えてくるのです。
スタローン主演の刑事ドラマを「ゲーム」のハワード・ショアがロンドンフィルを使って重厚なサウンドでサポートしました。オーケストラ全体をパーカッションのように使ったダイナミックな現代音楽は、映画を離れて音楽だけとして聞いてもなかなかの聞き応えがあります。
洪水の夜の犯罪アクションの音楽を「沈黙のジェラシー」「告発」などのクリストファー・ヤングが手がけました。これはいわゆる典型的なアクション映画の音楽なんですけど、妙に軽すぎず、でもスピード感は十分という大変バランスのとれた音楽になっていまして、画面のアクションをきっちりとフォローしていきます。ハンス・ツィマー一派の音楽に比べると、一段引いたポジションの音楽になってますが、その職人芸はなかなかあなどれません。
意外や映画も拾い物だったSFホラーの音楽を書いたのは、新進のマルコ・ベルトラミという人。オーケストラにコーラスも交えて、ゲテもの映画らしからぬシリアスな音をつけています。ラストに結構感動的な音楽で盛り上げてくれたり、オープニングでリアルな不安感を煽ったりと、画面の上にさらにイメージを上乗せするような音楽がかっこよくきまりました。
もうめっちゃゲテもの映画の音楽を名匠ジェリー・ゴールドスミスが余裕の音作りで楽しませてくれました。オーケストラのパートとしてシンセサイザーを使いきるセンスは毎度ながらお見事です。また、ホーンセクションによるウネウネ怪物の描写などまさにモンスター映画音楽のお手本みたいな出来栄え。「LAコンフィデンシャル」もよかったのですが、こっちの方が聞いてて楽しい(うまさを楽しむという意味で)音楽ということで選ばせていただきました。
映画そのものも、すっごく面白いサイコスリラーな一篇に、ツィマー一派の一人、ハリー・グレグソン・ウィリアムスが渋めのオーケストラサウンドをつけました。全編に渡って不安と緊張を煽る音をつけて、映画のテンションを下げさせません。これはCDだけ聞いて楽しむ類の音楽ではないかもしれませんが、舞台をほとんど取調室に限定した映画を、音楽でサポートしきったのは大したものだと思ったので、ここに挙げてみました。