夢inシアター
みてある記/No. 81

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シークレット
シークレット

- A Thousand Acres -

ある姉妹の過酷な人生を、意外や淡々と、でも重厚に見せるドラマ。

98/9/15 東京 東劇 にて


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000エーカーの大農場主ラリー・クック(ジェーソン・ロバーズ)は専制的家長である一方その近隣では人望の厚い長老格的な存在でした。彼の3人の娘のうち、ジニー(ジェシカ・ラング)とローズ(ミシェル・ファイファー)は農場で夫と一緒に住み、末娘のマーガレット(ジェニファー・ジェイソン・リー)は街で弁護士をしています。そんなある日ラリーが自分の農場を株式会社にして姉妹に分配しようと言い出します。マーガレットはそこで異論を唱えたため、結局農場の株はジニーとローズで分配することになります。実質引退したラリーですが、その後、言動がおかしくなっていきます。一方、姉妹の方にも父親に対して積もりに積もった感情があるようです。一体、この親子、姉妹の間に何があったのでしょう。そして、ローズとジニーのとる選択とは?

ング、ファイファーという演技派女優に、名優ジェーソン・ロバーズが絡んで、重厚な愛憎のドラマが展開します。絶対的な君主であった父親に耐える人生を強いられてきたジニーとローズ、忍耐を受け入れることで人生を作り笑顔でやり過ごしてきた長女ジニーと、忍耐を怒りのエネルギーに変えて生きてきた次女ローズ、そんな娘に最後まで君臨しようとする父親、そんな3人の確執は、周囲の人間から見たら、人徳のある父親から遺産を奪って、後はないがしろにする娘達としかうつらないのです。でも3人には周囲の人間が知らない秘密があったのです。このあたりを、3人の名優が力演していて、見応え十分なドラマに仕上がりました。

会的地位のある人間が家庭内では暴君だったり、もっととんでもない奴だったりするってのは、どうも洋の東西を問わないようです。そこで、そういう人間に肉親が反旗をひるがえしたりしようものなら、世間の目はその肉親に対してかなり冷たいものとなるのも、ご同様のようです。そんな中で、ジニーとローズはお互いを励ましながら父親への最後のしっぺ返しをしようとするのですが、父親は自分のしてきたことに反省なんかするはずもなく、自分の娘をbitch(売女)呼ばわりするのですから、何をかいわんやということになります。自分のしてきたことが相手とってはどういう事なのかわかっていないのですから、幸せと言えば幸せ、でもこういう奴は日本にもいそうです。奥さんや子供にひどい仕打ちをしながら、そういう認識の全くない人、そんな困った奴をジェーソン・ロバーズが、狡猾さと老いの哀れを併せ持つ人間と演じきりました。彼の人間としての不愉快なほどの説得力は劇場でご確認ください。

方の虐げられてきた姉妹のありようも気になります。3人姉妹の中で上の姉二人がその農場に縛り付けられているように見えます。末娘だけは農場を去っているのですが、そのあたりの事情はあまり描かれないのが残念です。その気になればジニーもローズもこの農場を後にすることができたはずだろうに、それをしなかった、なぜ彼女たちが被害者であり続けたのかが気になります。この映画の邦題にもなっている彼らの「秘密」の部分はちょっと極端すぎて、却ってドラマの奥行きをなくしているようにも思えました。単なる暴君の父親であったとしても、彼女たちは被害者としての立場であったろうと思いますし、にもかかわらず、父親との決別ができなかった理由があったのだと思います。そのあたりの家族のありようが描かれたら、この映画はより深い感銘を呼んだことでしょう。多分、出番の少なかった三女のドラマをもう少し突っ込めば、家や家族に縛られる人間の有り様がもっと鮮明になったのではありますまいか。

ェシカ・ラングは相変らずうまいです。役が彼女の中に入ってしまうという感じで片田舎の農家の主婦をリアルに演じました。何かと家庭内の調停役であり続けた彼女の最後のささやかな選択が深い余韻を残すのも、ラングの名演があってのことだと思いました。ミシェル・ファイファーは彼女にしては珍しい、ちょっとキツめのキャラクターを熱演しています。ラスト近くの病室でのラングとの会話はしみじみとしたシーンなのに、彼女を見ている泣けるものがありました。また、彼女たちの周囲の男性陣はいわゆるロクな連中がいないのですが、そんなロクでなしの中で、ジニーの夫を演じたキース・キャラダインの妙なリアリティが印象的でした。

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000エーカーの農場の相続問題が絡むというかなり生臭い話なのですが、そこらへんはあっさりと流して、姉妹の過去に対する決着の付け方に焦点を絞ったのが成功しています。でも、日本でもそうですが、それまで散々な目に遭っていた娘が年老いた父親、それも社会的に地位のある父親に反旗を翻したら、それは親不孝に見えてしまうのでしょうね、きっと。親の財産もらうだけもらって後は親をゴミ扱いにしているなんていうパターンはどこにでもありそう。でももらった当人にしてみれば、それまでの人生のツケを受け取っただけ、それでも、まだ足りないってこともあるのかもしれません。あるいはそんなもので恩を着せられてはかなわないと思っているのかもしれないのです。そのあたりは当人同士にしかわからないのでしょう。いえいえ、この映画ではその当人の片割れである父親ですらわかっていなかったのです。

ジャックナイフ
64512175@people.or.jp

お薦め度 採点 ワン・ポイント
○ 2点2点2点2点0点 いくつもの何故が出てくるけど見応えありますよ
色々な視点から考えちゃいます
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