タガネを使った彫刻は、型から起こしたデザインとは違う独特の風合いがあります。特徴的なのはその鋭い光沢と手加工ならではの微妙なゆらぎです。
原型にパターンを入れて制作した場合には、鋳造の過程で「鋳肌(いはだ)」というざらついた目が付いてしまい、それを落とす為に磨くとパターンのエッジが どんどんダレてしまいます。つまり、繊細だったり、光沢のあるパターンを創りたければ、タガネによる後加工が最も映えるのです。

彫刻の方法には、大きく分けて「和彫り」と「洋彫り」があります。和彫りは、加工品を台に固定し、片手でタガネを持ち、片手でオタフク槌という小さい金槌をもって、タガネを打つことで彫刻を施します。一方の洋彫りは、握りを付けた
タガネを片手に持って加工品に当て、もう片方の手で加工品を動かして彫刻を施します。
洋彫りが「スーッ」と刃が進むのに対して、和彫りは「コンコン」と刃が進んでいく為、仕上がりの風合いは若干違ってきます。どちらかに傾倒している職人の中には「こっちの方が良い!」等という人もいるのですが、
優劣を付けられるものではないでしょう。「どちらの加工を選ぶのか」という選択の問題です。

尚、荒井技巧では和彫りによる加工を承っております。

以下に加工サンプルを掲載していますが、いずれもタガネ彫刻をする前には何の表情もないプレーンな状態だったものです。
専用原型が不要でありながら、オリジナリティ溢れる逸品となります。




■文字
タガネ彫刻で文字を表現する場合には、和文であれば筆文字、欧文であればスクリプト体の様に、「抑揚があって流れる様な書体」が最も向いているでしょう。

ウサギのケージに付ける名札代わりに彫ったものです。「Solu」とあります。

瓢箪のピアスの表面に草書で「酒」と入れました。

結婚式の誓いの成句"Till Death Do Us Part/死が二人を分かつまで"をフラクチャー体で彫刻しました。まさに一生ものの結婚指環です。

滑らかにつながる書体(一応カッパープレート体を目指してます)でローマの格言"Ut Amers, Ama!/愛される為に、愛しなさい"を彫りました。結婚指環にこういった格言を彫刻するのも面白いと思いませんか?

おなじみ花札の「あかよろし」です。

直線毛彫りと平彫りで彫ったローマ数字です。写真だと大きく見えますが、文字高さは凡そ3.5mm、太い線の幅が0.3mmです。



■図案化(イラスト化)した画
動物や植物等を表現する場合に、写実的に描く方法と、図案化する方法があります。図案化の要は、まさに図案のデザインが上手くできているかどうかに尽きます。

縁起物の鳳凰を名刺ケースに彫ってみました。

中央にクロス、その両側に大きな翼を彫刻しました。

具体的な種類を決めてある訳ではありませんが、枝分かれする茎と葉を描いた植物柄です。

和模様の中でも桜文様はとても綺麗だと思います。今回はタガネの運びで花弁の先の割れを表現してみました。

銅板にホルスの眼を試し彫りしてみました。元々護符のパターンですから、ワンポイントに入れると中々良いかと思います。

文字の項でも紹介していますが、周りには和彫りの図案である「梅」が咲いています。

下の「繰り返し図案」にある蓮の花を単独で入れてみました。


■写実的な画
写実的な表現をする場合には、筆で絵を描くのと同様にわざとタガネを揺らがせて抑揚を付けます。

オイルマッチに彫刻した「黒鯛」です。

「メタルマッチ カークス」という、オイルマッチが付いた五徳ナイフに「土煙を上げて走る馬」を彫刻しました。

極細の「鳥獣戯画」です。

薔薇の花です。花弁の波打ちをタガネの抑揚で表現しています。





■繰り返し図案
一般的には加工の種類ではなく、この様な彫刻パターンを指して「洋彫り」ということが多い様です。

全周に月桂樹(リンデンバウム)の図案を彫刻しました。

全周に百合の紋章を互い違いに彫刻しました。

全周に偏行唐草パルメットの彫刻を施しました。(加工方法として)洋彫りのパターンと思われがちですが、和彫りでも綺麗に彫刻できます。

全周にアカンサスの彫刻を施しました。

月桂樹(リンデンバウム)の図案を彫刻したピアスです。小さいものでも加工できます。

【繰り返し図案の例】

【pdf形式】…上記資料を大きくご覧頂けます。是非ご利用下さい。
■テクスチャとして
具体的に「○○の形」とかではなくても、模様を入れる手段としてタガネ彫刻は有効です。

「キリン柄」というか、「敷石柄」というか…



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