展示室/貴金属・宝石[5]


06-042
ステップレミングのペンダントトップ
2006年6月
SILVER925
23(高さ)x10.5(幅)x10.5(厚み)mm
9.02g

今回は思い切り「印象」で作ってみました、ステップレミングです。
今年の3月にうちに来たステップレミングの「たかさん」、そんなに慌てなくてもいいのにひと月程度で天に召されてしまいました。もっとも、ステップレミングって寿命が1年半程らしく、店に1年程いたので、うちに来たときには相当な高齢だったのだとは思いますが…。

今回は結構好きな加工方法、旋盤もどきで原型を作りました。ハンドモータの先にワックスのブロックを付け、回転させながらヤスリや彫刻等で形を作っていきます。最後に裏になる面をヤスリで削り落とします。
カンは後付けです。名前やら何やらを刻印するのに、先にカンが付いていては加工できない為です。全て刻印し終わってからマスクしてカンをロウ付けしました。
実はこの前後に火ムラを綺麗に消す技を身に付けたので(非常に大変ですが)、曇りなくとても綺麗な鏡面に磨き上がっています。銀にありがちな「黄ばんだ感じ」は全くありません。そのおかげでカメラやら手袋やらが映り込んでしまっていますが…。
06-044
ハムスターのペンダントトップ「見返りはむ」
2006年7月
マザー・オブ・パール/SILVER925
19.5(高さ)x19.5(幅)x8.5(厚み)mm
約9.4g

例によってハムスターですが、今回はレリーフで作って見ました。ぽてっと座って「なに?」と振り返った、「見返りはむ」です。小さい石座があるので、例えば毛色に合わせた石等を載せることができます。
前面には名前を(今回のモデルは「ぷーちゃん」)、裏側には誕生日等を入れてあります。
ペンダントトップとして作ったものですが、いわゆる「お辞儀」を防ぐ為のコキをスタンド代わりにし、この様に立てて置いておくこともできます。

ぷーちゃんはしばらくうちで預かっていたこともある子なのですが、全く予期できない事故であまりにも短い命を終えました(裏面の写真を見て下さい)。
そんな訳で、メモリアルジュエリー(ジュエリーという程のものでもないですが)の意味もあっての作品です。
06-043
だにのブローチ
2006年7月
カーネリアン/SILVER925

「だに」、です。
蜘蛛はモチーフとしてよく使われますが、何故あえて「だに」?
疑問に思われる方も多いかと思いますが、これは実は依頼品です。依頼者は獣医関係の方で、だに等の外部寄生虫を専門に研究していらっしゃいます。話に聞くところでは、シンポジウム等の専門家が集まる場では、こういったブローチやタイピン等、各専門分野の「何か」を身に着けている参加者が多いそうで、是非自分もということで話が持ち込まれました。
体の部分は真っ赤なカーネリアンの覆輪留めです。手前味噌ですが、見事にはまったという感じですね。そして、脚は各々を内側に巻き込む様にし、いかにも「つかまっている」雰囲気を出しました。客観的に見ればかなりグロテスクで、こういうデザインそのものが駄目、という方も多いのではないでしょうか。僕自身は作りながら「フェイス・ハガー」(エイリアンの仔虫)を連想しました。
この位の大きさだとピンブローチにするのが適当ではあるのですが、ピンブローチは向きが一定しない、或いは必ず重い側が下に行く、という欠点があります。ラペルの向きに合わせて留めたりということができませんので、あえて普通のブローチピンを選択しました(ピンが短くなり着け外しは多少し難くなりますが…)。
カーネリアンは和名を紅玉髄(こうぎょくずい)といい、カルセドニーの赤色変種です(色は熱処理による場合も多いそうです)。古くからインタリオの材料等として用いられています。
06-046
リング「OUROBOROS」
2006年11月
サファイア/SILVER925
#10

OROBOROSは仮名ではオーロボロス、又はウロボロス等と書かれますが、蛇が自分の尾を飲み込んでいる、無限のシンボルです。
今回はベタな具象ではなく、シンボリックにまとめてみました。斜めのウェーヴなので、リングを上から見るとちゃんと「∞」になっています。

リング本体の部分は地金削り出しで作ってしまうのが一番早いと思いますが、頭の部分の作り込みがあったので、全て一体でワックス原型を作りました。掲載の作品では眼の部分にφ1.5のサファイアを入れていますが、ベースとしては丸い目玉を盛り上げてあり、石を留めなくても形になっています。
こちらがワックス原型と地金原型です。印象が随分と違いますが、上に掲載した写真では眼の両脇をはつってあり、鋭い感じが出ているからだと思います。
2006年11月
CZ/SILVER925
#10

こちらはハーフエタニティっぽく上半分に彫り留めしたものです。この手の留めをやるには、少々アームが細過ぎた感じがあります。彫り留めの練習も兼ねてやったので、使っている石材はCZの1.0〜1.75mm。はっきりいって、留めはへたっぴーですが、こればかりは数をこなして上達するしかないでしょう。
2007年7月
タイガースアイ/SILVER925
#10

タイガースアイ(虎眼石)で眼を作ってみました。虎眼石はその光彩効果を見せる為に、普通はある程度の大きさにカットされ、ここに留められる大きさのものは出回っていません。
ですので、石を再研磨して大きさを合わせました。
又、留める向きを調整して、眼の中に縦の線が浮かび上がる様にしてあります。
カット石を使ったものとは随分違う印象に仕上がりました。
06-048
ウォーターメロントルマリンのアンモナイトモチーフペンダントトップ
2006年11月
ウォーターメロントルマリン(約φ7mm,1.299ct)/SILVER925
2.94g
23x11mm

バイカラートルマリンの一種、ウォーターメロントルマリンを使った、アンモナイトモチーフのペンダントトップです。ウォーターメロンは環状になった模様を見せる為にスライスされることが多いのですが、このルースは綺麗にファセットカットされています。又、ウォーターメロンにありがちなフラクチャー(内部のひび)がなく、透けも少ない大変高品質な逸品です。色もウォーターメロンにありがちな「ド緑」「ドピンク」ではなく、深い緑とオレンジに近い赤という上品な取り合わせです。
「綺麗なトルマリン」、でも「良く見るとバイカラー」という控え目さが良いと思いませんか?
明るい環境だと色が見え難いので、背景を暗くした写真も撮ってみました。「透けが少ない」とは、この様に石の向こう側が殆ど見えず、綺麗に輝いて見えることをいいます。
又、周囲の光を良く受ける様に、そして作品全体としての造形を壊さない様に、「石座」と呼ばれるものは作っていません。右側から見ると、石は殆ど浮いています。


このルースは結晶の軸方向がはっきりしているので、鑑別器具を使うとはっきりと軸が確認できるのではないかと思います。
ルース写真協力:KDYGEMS
06-045
リング「原始植物〜まだ月が大きかった頃〜」/第10回パールジュエリー・デザインコンテスト佳作
2006年9月
アコヤ真珠/ムーンストーン/K18YG/SILVER925
29.11g
60x55x20mm
#10

第10回パールジュエリー・デザインコンテストで佳作を頂戴した作品です。
通常僕が作る作品はあくまでも「使用」を前提としたものですが、このコンテストは参加者が創作を「楽しむ」ことを最大の目的としていますので(と僕は解釈しています)、僕も「使用」を二の次にしてみました。大きさ、構造共に、恐らく絶対に使えません。心を広く、アートとしてお楽しみ下さい。
今回一番のポイント、アコヤ真珠を使った「原始植物の花」ですが、ご覧の通りボールチェーンで樹からぶら「上がって」います。何をやっているかはあえて書きませんが(磁石? 一体どこにですか?)、花弁はくるくる回り、花全体は振動でふらふらと揺れます。
枝の様な触手の様なものの根元には、これまた蝸牛の様なものがいます。リングの中でこの生き物だけはK18YGで作ってあり、殻の部分はムーンストーンの覆輪留めです。真珠→月→月の光→ムーンストーン→青い光→青とバランスの良い金、と、一応全てが関連してます。

この創作は中々楽しみました。たまにはこういうものを作る余裕を持ち続けたいですね。
06-047
ラブラドライトのブローチ/ペンダントトップ
2007年3月
ラブラドライト(22.72ct)/ホワイトトパーズ(φ4.0,φ3.0x3)/K18YG/SILVER925

インターネットが普及する前、NIFTY-Serve時代からの友人に頼まれて創った作品です。
依頼は「ラブラドライトで何か創って」。「何か」「何を?」…実はもっとも困る注文です(笑)。人が手にするものには必ず「気に入る」「気に入らない」があります。例えばアールデコ風のデザインは好き嫌いがはっきり分かれますよね。ですから、「お任せ」といわれても、100%好き勝手をやって良い結果につながるとは、必ずしもいえないのです。

そこで僕が取った手は…
まず、イメージを固める為の数項目の質問を作りました。例えば、
1)止まる / 動く
2)鋭い / 丸い
3)向こうへ / こちらへ
といった具合です。これらの質問に答えて頂き、その線に沿ったラフを幾つか作画しました。
その結果採用されたのが、冒頭のデザインです。場面の大きいラブラドライトと、あえて真正面を見せずに飛び去る鳥の姿から、広い空間を感じて頂けるでしょうか?

当初、全てをSV925で作る予定でしたが、使う中石はラブラドライト。モルフォ蝶の様な綺麗な青が浮かぶ石です。となると、当然金との相性が抜群です。しかしこの大きさ全体をYGにしてしまうとくどくなる上、何より原材料費の問題が出てきます。
そこで、デザイン上のアクセントである「鳥」をYGで創ることにしました。デザインの動きの中心ですから、色で引き立てることができれば、更に効果が上がります。
原型は全てワックスです。隣は鋳肌のみを取った状態で、いかにも「金属を削りました」という感じですね。これを組み立てて磨き上げると、トップの写真の様な「美しい!」姿になります。
裏面はシンプルですが、ご覧の通り石の周りを取り巻いている「流れ」は完全に繋がっていません。あくまでもデザイン的なものですから、物理的に繋がっている必要性はないのです。それに本当にぐるぐると巻いてしまったら、中央部だけが厚くなってしまいます。
ブローチ金具の横に刻印を打ってあります。何故か判りませんが「刻印」が絶対条件として与えられていたのです(笑)。

依頼者のMさんは、最初に書いた通りNIFTY-Serve時代からの友人です。その頃、「通信」といったら「黒い画面に文字だけ」の世界。なにせ通信速度が、速くて9600〜19200bps程度でした。1枚の絵や写真を見るにも数時間掛けてダウンロードする必要があり、モデムとの接続はRS-232C。僕が当時使っていたPCはFM-TOWNSで、時代の最先端を行く(笑)マルチメディアPCでした。
実はその頃Oh!FM TOWNSという雑誌でライターをやってまして、TARとか荒井庵とかいう名前で記事を書いてました。ここをお読みの方で覚えている方がいらっしゃいましたら、是非お便り下さい。
06-049
どんぐりのペンダントトップ
2007年5月
アプリコット・アゲート/K18YG
8.79g
32.5mm(高さ)

アプリコット・アゲートとK18YGで創ったペンダントトップです。
デザインに合わせた石のカーヴィングはずっとやってみたかったテーマで、簡単なものですがようやく実現しました。

アプリコット・アゲートは名前の通り「杏色の瑪瑙」です。硬度はほぼ水晶と同じで、研磨は困難ではありません。タンブル(原石に丸みを付ける程度に研磨した状態)で入手し、それをどんぐりの実の形にカーヴィングしました。
天然石ですので、完全に均質てはなく、部分部分で表情が異なります。又、内部のフラクチャーが表面に達した傷もありますが、それも又面白みの一つですね。
バチカンの形は裏表で少し変えました。写真で左側が作品としての「表」、右側が「裏」です。それに合わせて、石も裏表で表情が変わる様に留めてあり、表面は比較的均質、裏面は模様が沢山見えます。この作品は単純な形状ですが、石の表情を活かしてカーヴィングし、作品に仕立てるのは中々面白いものです。
笠の部分はK18YGで、石に合わせてワックスを加工し、キャストしました。旋盤の様な加工方法を採っているので、同心円状の模様が綺麗にできあがっています。
今回の「カーヴィング」は新しいテーマで、今後はもう少し複雑な形状にも挑戦してみようと思っています。
06-050
月桂樹のリング
2007年7月
ペリドット(φ2.0mm)/SV925
#10

リングの上面2/3程の範囲に月桂樹の葉をタガネで彫りこんだリングです。

ベースにしているのは、至ってシンプルな平甲丸の3mm幅リングです。その内側に向かい合わせで2列ですから、葉1枚の幅はほぼ1mm程度です。
このリングの型を取ってキャスト(複製)することも可能ですが、それをやると全く違う雰囲気になってしまいます。というのは、キャストを使うとタガネという「刃物」で彫った鋭さが失われてしまう為です。数十枚の葉っぱを彫るのは根気の要る作業ですが、その方法以外では、このリングを作ることはできません。
06-053
雪の結晶のリング
2007年12月
ラベンダーカラーCZ(φ2.0mm)/SV925
#10

季節ものです。リングの上面に、中央に大きな雪の結晶を配し、周囲に小さな結晶を散らしました。

元々はφ3〜4mm程度の色石を彫り留められる様に作ったベースなので、リングはかなりごついです。ですので、一回り細くて薄く、指に馴染み易いベースも作りました。こちらはまだ作品に仕立ててはいませんが、同じテイストで作ることができます。
中央の結晶は「はみ出すならもっと大胆にやらないと」という意見も頂いたのですが、あまりやり過ぎると結晶だかなんだか判らなくなってしまうので、この大きさに止めてあります。ご覧になった皆様はどの様に思われますか?




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