ちょっとサントラものジェリー・ゴールドスミス・コンサート


written by ジャックナイフ
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2003/3/12,13の両日に渡って、映画音楽の名匠ジェリー・ゴールドスミスのコンサートが行われました。ゴールドスミス本人が神奈川フィルを指揮するという企画だったのですが、彼の体調がすぐれないことから、「ファウル・プレイ」や「パニック・イン・スタジアム」などで知られるチャールズ・フォックスが代役として来日し、神奈川フィルを指揮することとなりました。3/12のコンサートはJCAAとの共催という形で、日本の4作曲家との競演となりました。ゴールドスミスの作品は、「2001年9月11日」と「スタートレック組曲」の2曲だけでした。私の座った席(前から5列目)のせいか、オケの音があまりよくなくって、何回も演奏している筈のスター・トレックのテーマも今イチ元気がないような印象を受けてしまいました。そして、2日目はゴールドスミス作品オンリーのコンサートに臨みました。初日の東京芸術劇場よりも、天井も高いみなとみらいホールで、かつ席もやや後ろ目のオケの音を正面から聞けるポジションで、演奏を堪能することができました。

1曲め「ネメシス/S.T.X」

この春に公開となるスタートレックシリーズの新作をコンサートの初っ端で聞けるとはうれしい限りでして、おなじみ「スター・トレック」のテーマも昨日よりメリハリのある演奏でした。静かなピアノの旋律へ転調するあたりが聞き物です。

2曲め「ラスト・キャッスル 組曲」

去年の秋に地味に公開された映画なのですが、音楽としての密度は大変高い作品でして、オープニングの静かなストリングスから、トランペットのソロがからみ、パーカッションが締めるという流れが見事でした。そして、後半の活劇調になってからの展開で組曲としてのメリハリがつきました。ともあれ、オープニングの緊張感を描写した演奏が見事でして、その高いテンションのまま最後まで走るので、聴き応え十分の一品になっていました。

3曲め「トータル・フィアーズより 作戦」

ここで、ソプラノソロのサイ・イエングアンと神奈川フィル合唱団が紹介され、ソロとコーラスを交えたナンバーの演奏となりました。昨年公開された政治サスペンスものの映画ですが、そのメインタイトルで流れたこの曲は、叙情的な旋律が印象的でした。まず、イエングアンのソロから始まり、そこへ静かにオケが絡んでいき、最後はフルオケとコーラスが加わるという構成でして、これが盛り上がること。映画は泣けるタイプの作品ではないのに、音楽では泣けてしまうという珍しい一品。聴いてて圧倒される、感動ものの演奏でした。

4曲め「いれずみの男」

どういう趣旨の選曲なのか、またマイナーな作品を持ってきたものだと思っていたのですが、これがイエングアンのソプラノをフィーチャーしたナンバーでした。1960年代の映画で、音楽的には前衛的なアプローチが面白く、こういう実験的な音が映画の中でも使われた時代だったのかと感心しました。考えてみれば、「猿の惑星」だってかなり前衛的と言えますもの。

5曲め「オーメン」

100人を超える合唱隊に、パイプオルガンを加えたフルオケで「オーメン」のライブが聴けるのですから、これだけで何ともめでたい限り。アベ・サンターニに始まり、主要なテーマを全部盛り込んだ組曲の構成になっており、オリジナルよりも思い切ってハッタリを効かせた演奏になっており、中盤の転調で合唱とオーケストラが乱れたのかと思わせる部分もありました(気のせい?)が、盛り上がり的には最高でした。愛のテーマである、「新任大使」の曲がきちんと入っていたのが個人的にはうれしかったです。ああ、今度はこのメンバーで「オーメン最後の闘争」が聴けたら最高だよなあ。

6曲め「映画主題曲メドレー」

休憩後の1曲め、前回のコンサートでも演奏されたメドレーでして、「砲艦サンパブロ」「チャイナ・タウン」「エア・フォース・ワン」「いつか見た青い空」「ポルターガイスト」「パピヨン」「氷の微笑」「風とライオン」と、ゴールドスミスの主要ジャンルを一通り押さえた構成になっています。今回のコンサートは静かなラブテーマ系のナンバーがなかったので、「チャイナ・タウン」や「いつか見た青い空」は聴き所になっていました。こうして聴くと、「氷の微笑」が実験的な作品だったんだなって気付かされたのが発見でした。彼の作品の中でも不思議な音になっているってのがよくわかりました。

7曲め「パットン大戦車軍団 組曲」

これまでのコンサートでは、「マッカーサー」と組み合わせた「将軍たち」というナンバーで演奏されていたものですが、今回は独立した組曲としての演奏です。コンサートの前半であれだけ盛り上がったのに、後半はやけに地味な曲が並ぶなあとも思っていたのですが、オリジナルの音を再現するというよりは、独立した楽曲としてのメリハリに重きを置いているようでして、静かな曲である筈の「病院」「戦場」といった部分もきちんと楽曲が前面に出てくる演奏になっており、地味なナンバーではありますが、オリジナルの再現に留まらない、退屈させない音に仕上がっていたように思います。

8曲め「ザ・ワイルド より、メインタイトルとフィナーレ」

これまた、地味な映画のスコアを持ってきたものだなあ、と思ってしまいました。この曲は前回のコンサートでも聴いたのですが、今回は同じ曲のはずなのに、ずいぶんと印象が違っていました。このあたりが、ゴールドスミス自身の指揮と、チャールズ・フォックス指揮によるものの違いのようでして、ゴールドスミスがオリジナルの音に忠実なのに対して、フォックスの指揮はコンサート用楽曲としての音を重視しているようなのです。地味めの曲でも、メリハリのある音にすることで、初めて聴く人にもとっつきやすい音になっていると思いました。オーケストラで演奏すると、ぼけてしまいがちなメインのメロディが、きちんと耳に残ったのも、フォックスの指揮によるところ大だと思った次第です。

9曲め「ソアリン・オーバー・カリフォルニア」

これはディズニーのアトラクションのために作られた曲だそうで、空を飛ぶイメージをそのまま音楽にしたという感じの楽しい一曲でした。空の広大なイメージやうねりながら飛ぶイメージなどが、次々から次へと登場します。ドラマチックな曲が続いたので、ラストでこういう曲が出てくるのは構成上うまいと思いました。

アンコールその1「やさしく歌って」

アンコールの1曲目は、ゴールドスミス作品ではなく、チャールズ・フォックスのヒット曲をオーケストラ用にアレンジしたものでした。もともとが名曲なのですが、アレンジがよいのかオーケストラとの相性もピッタリでした。また、今回のコンサートは硬派の曲が多かったのでこういうロマンチックなナンバーが聴けたのもうれしいところでした。

アンコールその2「スタートレック」

これはもう定番というべきもので、意外性はないものの、最後を飾るにはふさわしいナンバーだと申せましょう。神奈川フィルの演奏も手馴れた感じで、安心して聴けるといったところでしょうか。ただ、今回は1日目でも2日目でもクリンゴンのテーマが聴けなかったのが少々心残りではあるのですが。

と、全部聴いてみるとかなりのボリュームのあるコンサートになっておりました。作曲家を統一してある分、コンサートとしての構成もメリハリがあって、これまでのゴールドスミスのコンサートの中では、最高のプログラムだったのではないでしょうか。サントラオタクの私としましては、「ラスト・キャッスル」がコンサート用の曲としても十分聴き応えのあったこと、そして、「トータル・フィアーズ」は映画以上に音楽が感動モノだったことがうれしい発見でもありました。ゴールドスミスが来日するか否かは置いといても、またこういう企画をやって欲しいと思った次第です。

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