written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
えー、春の向こうからそろそろ初夏の風が吹き始めた今日このごろですが、またまたのサントラものでございます。今回は最近観た映画のものに、未見のものと新旧あわせて一つ。
■「チキンラン」
大変ゴキゲンなクレイアニメーションの音楽を手がけたのは、メディアベンチャーズのジョン・パウエルとハリー・グレグソン・ウィリアムズです。西部劇のファンファーレを思わせるオープニングから、期待させるものがあるのですが、全体をオーケストラによる活劇音楽にまとめていまして、このチームの定番である、オーケストラぶん回しサウンドはやや控えめになって、その分60年代の戦争映画風の音になっています。特にホーンセクションの使い方は、当時の戦争映画や西部劇のそれになっていまして、パロディの一歩手前できちんとドラマを支えているあたりがうまいところです。ところどころに、カートゥーンを思わせる音や、50年代風ジャズタッチのコミカルな音も入るのですが、全体としては戦争映画の音になっています。クライマックスに向けては、イギリス民謡風ミリタリマーチが効果的に使われ、最後の脱走シーンでは、フルオケによる大盛上げを聴かせてくれます。この音楽のおかげで脱走までのハラハラドキドキが、さらに感動モノのレベルにまでなりました。
■「キャラバン」
ヒマラヤの山岳地帯を舞台にしたフランス映画の音楽をブリュノ・クーレが担当しました。チベット僧のうなるようなマントラの声や民謡風なコーラスを入れてはいますが、基本はオーケストラによる現代音楽という印象です。とはいえ、最近の西洋音楽とエスニックサウンドの融合という見方をすれば、これも一種のニューエイジミュージックという範疇に入るのでしょう。山々を縫って移動するキャラバンを描写する音楽は、NHKのドキュメンタリーに出てきそうな幽玄でかつドラマチックな音になっています。ですが、どこかフランスらしさというところも感じられ、内面的な精神世界を描写しようというアプローチが、聴いているとヒーリングミュージックのようにも思えてくるのが面白いところです。一応ドラマの音楽なんですが、CDだけ聴くと、映画音楽という感じがあまりしませんが、聴き応えは十分ですし、劇場では、この音が素朴なドラマに見事にマッチしていました。
■「スターリングラード」
ジャン・ジャック・アノー監督が「薔薇の名前」以来、久々にジェームズ・ホーナーを音楽に起用しました。ホーナーは「パーフェクト・ストーム」が今一つだたのですが、今回は、オープニングからドラマチック全開という感じで鳴らしてきます。明確なテーマがなかなか出てこないのですが、本編の中では、十分に機能していまして、映画がどこに焦点をあてているのかわからない展開をするのをうまくフォローしています。ただ、そのフォローがあまりに律儀なのか、サントラCDとして聴くと、映画のつかみどころのなさがそのまま反映されてしまっているという印象になってしまいました。もう少しハッタリを前面に出して映画を引っ張るくらいの音にしてもよかったように思いますが、それでも、重厚な画面を支える音作りには職人的なうまさを感じてしまいます。いつも話題になる自作の使いまわしですが、今回もまあありますとだけ言っときます。彼のサントラCDは全般に音の大小の差がありすぎて、アパートの部屋とかBGMとして聞くには不向きなんですが、もう少し聴きやすくできないものなのかしら。
■「ギャラクシー・クエスト」
テレビの「スタートレック」とトレッキーに敬意を払った楽しいSFの音楽を手がけたのは「ブロークダウン・パレス」「アナスタシア」などいい曲をたくさん書いている割にメジャーになりきれないデビッド・ニューマンでして、このサントラ盤もプロモ盤という正規ルートに流れない限定盤です。20年前のテレビシリーズ「ギャラクシークエスト」のテーマがいかにもそれらしいチープさを感じさせるのですが、それが本編の中ではフルオケでダイナミックに演奏されるあたりが面白くも聞き物になっています。ドラマ部分は、SF活劇のいわゆる燃えるサウンドになっていまして、コーラスも交えて盛り上がること盛り上がること、ホーンセクションをメリハリつけて鳴らしているのが効果的で、音楽を聞いているだけで、手に汗握る興奮を追体験できます。音のタッチは映画が「スタートレック」のオマージュのせいか、ジェリー・ゴールドスミスの「スタートレック」のそれに近いものになっていますが、活劇部分の盛上げは、それを凌ぐ勢いがあります。
■「Non ho sonno」
これはまだ日本では公開されていないのですが、ダリオ・アルジェント監督によるスリラー映画のサントラです。音楽をてがけたのが久々に再結成されたプログレロックグループのゴブリンでして、「サスペリア」以降メンバーの入替などがあって、今回はその「サスペリア」当時のメンバーが集まったようなのです。アルジェント監督との第1作「サスペリア2(Profondo Rosso)」を思わせる重厚メロディアスタッチが復活しておりまして、「ゾンビ」「フェノミナ」など彼らのファンである私にはうれしい限りです。スリラー、オカルトなどに宗教音楽っぽい(この辺りはちょっとキース・エマーソン入ってるような)味付けまで、全体的にこれまでのゴブリンサウンドの集大成とも呼べるもので、なかなかに聞き応えのあるアルバムになっています。特にキーボード担当のクラウディオ・シモネッティがゴブリン脱退後、多くの映画音楽を手がけているせいもあるのでしょうか、全体に丸みのあるドラマチックな音になってきていて、昔のような突き放したような尖った音から進化してきているように思われます。しかし、こうして聞くと彼らの大ヒット作「サスペリア」はむしろ変化球であって、「サスペリア2(Profondo Rosso)」こそが彼らの音のルーツであることが改めて確認できます。特に1曲目2曲目が「Profondo Rosso」を彷彿とさせるもので、1曲目の重厚タッチ、2曲目のジャズ風な味付けが聞き物です。
|