written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
えー、だんだん暖かくなってきた今日このごろですが、またまたのサントラものでございます。今回は新旧あわせて一つ。
■「偶然の恋人」
とんでもない運命の二人のちょっと切ないラブストーリーの音楽を手がけているのは、「楽園をさがして」「スウィートヒアアフター」のマイケル・ダナです。彼の映画音楽は幻想的な音が多いのですが、今回もオープニングの幻想的なタイトルバックに、幻想的で、さらにロマンチックという、不思議な味わいの音をつけています。ストレートな恋愛ドラマではない設定で、彼の音楽が「不思議な運命」という伏線を表現し、またジャズタッチの軽い音がドラマにコミカルな味わいも与えています。恋愛感情というよりはヒロインの悲しみや不安といったものが、彼の音楽でよく表されているように思います。
■「猿の惑星・征服/最後の猿の惑星」
昨年は「続・猿の惑星」のサントラCDが出て、後残りは2枚だと思っていたら、限定盤ながら、何とカップリングで発売されました。「征服」はフュージョン系のサックス奏者としても有名なトム・スコットが手がけ、「最後の」は「続」に続いて「エデンの東」「ロボコップ2」のレナード・ローゼンマンが担当しました。過去3作に比べますと、戦闘シーンの多いアクション色の濃い映画ですので、どちらも第1作のジェリー・ゴールドスミスの原始的な現代音楽というラインを踏襲しながら、打楽器やホーンセクションを前面に出すことで戦闘的な音作りをしています。「征服」「最後の」とも、メインタイトルが見事に映画のカラーを表現しています。また、ライナーがなかなか面白くて、「征服」は暴力的過ぎる展開から手直しが入り、その結果は作曲者にとってもかなり不本意なものになったということが書いてあります。収録曲にも未使用曲が多いというのが面白いところです。「最後の猿の惑星」は尺数稼ぎの無意味に長いメインタイトルのおかげでローゼンマンがやりたい通りの音楽をきっちりと書くことができたというのも面白いエピソードでした。また、オマケとしまして、テレビ版「猿の惑星」のテーマも入っています。作曲がラロ・シフリンなんですが、これが日本での放映時に流れたテーマ曲とは別物でした。日本での放映時に流れたタイトル曲は日本で作曲したものなのかな。
■「007 ユア・アイズ・オンリー」
1981年の007シリーズの中でもその存在感が薄い1作ではあるのですが、なぜかサントラ盤が再発売されました。それも、公開当時に発売されたサントラLPの全曲に、当時の未収録曲7曲を加えた豪華盤です。作曲はジョン・バリーではなく、「ロッキー」のビル・コンティが手がけており、主題歌を当時の歌姫シーナ・イーストンが歌っています。当時のディスコミュージックが劇伴音楽の中にも使われていまして、007のテーマもブラス主体のディスコ調で鳴らされるというのが、時代を感じさせて面白い音になっています。LPを聞いた時は、ずいぶんとノリのいい007だと思ったものですが、今回の追加トラックを聞いてみると、ドラマチックな部分はさすが「フィスト」のコンティだと思わせる重厚なオーケストラ音楽を聞かせてくれます。また、日本盤に、日本語のライナーノーツがついているのですが、これが元の盤についている英語のライナーを日本語訳したものでして、サントラ盤の情報として十分なものになっています。
■「The Hammer Vampire Film Music Collection」
最近、輸入盤店のサントラコーナーで、英国のハマーフィルムの怪奇映画(今やこの言葉も死語ですね。)のサントラ復刻盤をよく見かけます。ドラキュラシリーズや「魔獣大陸」なんてのものまで、出ているのですから、やはりいい時代だと言うべきなのでしょう。そんな中の1枚なんですが、この映画には吸血鬼の映画4本がカップリングされています。そして、私のオススメどころは「ドラゴンVS7人の吸血鬼」です。私も劇場では見逃していて、テレビで観たのですが、被り物のゾンビみたいな吸血鬼とカンフー軍団が闘うという、ほとんどゴレンジャーみたいな世界だけど、吸血鬼の親玉はピータ・カッシング演じるヴァ・ヘルシング教授がやっつけるというお話。音楽はドラキュラシリーズを手がけているジェームズ・バーナードが作曲し、フィリップ・マーテルが指揮をしています。おどろおどろしい怪奇音楽も東洋風の味わいがあって、ぶっ飛んだ設定の映画の重しになっています。また、戦闘(正確には格闘ですね)シーンが多い映画だけに、打楽器とオーケストラをフルに鳴らした活劇音楽もたっぷりという、映画のサービス精神が、そのまま音楽に反映されているような音作りが楽しい一品です。その他の作品は「吸血鬼サーカス団」(デビッド・ウィテイカー)「吸血鬼の接吻」(ジェームズ・バーナード)「Lust for a Vampire」(ハリー・ロビンソン)が収録されています。
■「プルーフ・オブ・ライフ」
南米某国を舞台にした誘拐サスペンスの音楽を「バットマン」「シンプル・プラン」のダニー・エルフマンが手がけました。シンセや打楽器によるサスペンスフルなオープニングから、南米風のパーカッションを盛り込みながらも、テンポの早い活劇音楽になっています。今回は重厚さよりも、メリハリを重視した音作りになっていまして、シンセによるパーカッションでアクションシーンを引っ張るというのは、エルフマンにしては珍しいように思えました。ドラマ部分の音楽では、ギターを交えた静かな曲が印象的でしたが、ともあれラブストーリーの音ではありません。
■「ザ・セル」
変態殺人鬼の脳の中に入っていくヒロインというスリラー映画ですが、音楽は、「セブン」「ザ・フライ」のハワード・ショアが担当し、ロンドン・フィルハーモニック・オーケストラを指揮しています。さらに、モロッコの民族音楽グループ、バシール・アッタールとマスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカが参加し、砂漠をイメージさせる音を作り出しています。呪術風の独特のパーカッションの響きと、チャルメラのような笛の音に、さらにフルオーケストラが不協和音で吼えまくると、まさに悪夢の世界の音になります。全編が悪夢のイメージというより、悪夢そのもので構成された映画なので、こういう音楽がピタリとはまります。旋律よりもドスンドコドコのパーカッシブな音が前面に出た音作りは、今までのショアのホラーサウンドの中で、最も派手なものと言えましょう。時折入る静かな音楽も、効果音のような、一種アンビエント音楽の趣で、このサントラCDを聞くと、この映画の夢の世界のイメージが浮かんできます。
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