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written by ジャックナイフ えー、このところさぼってまして、久々のサントラものでございます。今回は最近の映画で一つ。 ■「初恋のきた道/あの子を探して」チャン・イーモウが少女を主人公に学校を舞台にして描いた感動のドラマのサントラが、カップリングで発売されました。音楽をどちらもサン・パオが担当しています。「初恋のきた道」はキーボードによってつまびかれるヒロインのテーマが切なくも魅力的です。ちょっとセンチメンタルなメロディが、遠い日の想いをノスタルジックに謳っています。誰もが昔に感じた初恋の胸のしめつけられる気持ちがこの音楽によって思い出されてくるのが圧巻です。笛、胡弓を使って何度も奏でられるテーマが、切ないけれど甘くないのが見事で、ラストでオーケストラで演奏されてもスケールを感じさせるのが聞き物です。「あの子を探して」はシンプルなメロディの反復で、楽器はわからないのですが、ソプラニーノや草笛のような音が、素朴な味わいの一方、同じメロディが胡弓によって演奏されると、今度は切ない気持ちになってきます。どちらも、映画を観た人には、このCDを聞いただけでウルウル来てしまうのではないかしら。私の場合、「あの子を探して」のエンドクレジットの曲を聴くともう涙腺直撃状態になってしまいます。■「アヴァロン」魅力的な映像とよくわからんストーリーがそれでいて妙にバランスがとれているという変な映画でしたけど、川井憲次による音楽はこの得体の知れない世界観に一定の方向付けをするのに成功しています。まずメインタイトルに流れるコーラスとオーケストラを高らかに鳴らした曲が印象的です。オルフの「カルミラ・ブラーナ」を思わせる、感情を鼓舞させるテーマはこの映画にある種の格を与えています。クライマックスに流れる「アヴァロン」のテーマもオペラ風の聞かせる音になっているのですが、なぜ、このシーンにこの音というよりは、音楽が先にあったような印象で、画面をフォローするというよりは音楽がかなり前面に出てきています。このテーマのみがワルシャワ・フィルハーモニックによる演奏です。一方、画面をフォローする音はシンセ主体のホラータッチが入った、いかにもSF風な音ですが、コーラスを交えた部分がアクセントとなって、単なる未来イメージというよりは、時代設定を超越した独自の世界観を作り出しています。■「アンブレイカブル」映画としては超自然サイコスリラーとも言うべきものですが、「シックス・センス」のM・ナイト・シャマラン監督は前作と同じくジェームズ・ニュートン・ハワードに音楽を任せました。前作も静かなホラーという印象でしたが今回はもっと淡々とした展開で、ハワードの音楽は静かなドラマのアクセントのような位置付けになっています。オープニングのテーマがビートの効いたサスペンス音楽になっている他、ラスト近くで主人公があることの確信を得るシーンにはヒロイックに盛り上がる音をつけています。登場人物、特に主人公があまり感情を表に出さないという設定のため、ドラマチックな部分をかなり音楽に依存しているという感じでして、ハワードの職人芸を感じさせる音作りが聞き物です。■「13デイズ」1960年代のキューバ危機を描いた実録映画の音楽を「ダーク・シティ」などで知られるトレバー・ジョーンズが担当しました。実録ドラマにふさわしいドラマチックで重厚なオーケストラ音楽が聞き物で、ジョフリー・アレグザンダーがロンドン交響楽団を指揮しています。戦争回避のために誇りを持って働いた男たちのテーマをヒロイックに謳いあげたテーマも印象的ですが、その一方、じわじわと迫ってくる核戦争の危機をシンセサイザーやパーカッションを使ってスリリングに描写した音楽もジョーンズらしい仕事ぶりで、全編にわたって格調の高さを失わず、品の良さを感じさせるところが見事です。一見地味なドラマでありながら、これだけドラマチックな音楽が鳴っていたというのは、結構意外性があります。サントラCDを聴いて初めて気がつくというくらい、映画の中ではドラマをサポートするポジションに徹しているのが、ジョーンズの職人芸なのでしょう。■「クリムゾン・リバー」フランス産サイコホラーの音楽をブルーノ・クレが担当し、パリ交響楽団が演奏しています。凝った映像やストーリーの本編にしては、オーソドックスな音作りになっています。要所要所にシンセサイザーによる幻想的な音も入れてはいますが、基本的には、フランスの片田舎で起こった猟奇殺人にシリアスで重厚な音をつけています。しかし、印象に残るのはシンセサイザーを使ったミステリータッチの部分でして、ドラマ部分を語りきれなかった本編と同様、ドラマチックな部分は、手堅い音作り以上のものではなかったように思えます。映画がどこへ着地しようとしてるのかが、よくわからなかったのですが、音楽も同様にこの映画にどういう色をつけようとしているのかがよくわからないという印象なのです。アンダースコアに徹するというには結構鳴っているのですが。■「ボディ・ショット」映画は昨年の暮れにひっそりと公開されたのですが、私は未見です。それでもご紹介というのは、ごひいきのマーク・アイシャムが担当しているからです。映画は、都会の男女の恋愛モノらしいです。テーマは「NY検察局」を思い出させるスローなジャズにシンセによるアンビエントな味わいが加わったもので、都会の黄昏の一瞬を捉えたような魅力的なサウンドです。全体として都会のアンビエント音楽というタッチでまとめていまして、「ネル」「ネバー・クライ・ウルフ」などで、大自然をニュー・エイジ・ミュージックで描写した実績のある彼の、新しい展開のような気がします。一風変わった夜のBGMとして面白いサウンドになっています。■「ペイ・フォワード 可能の王国」寓意に満ちた善意のドラマの音楽を最近売れっ子のトマス・ニューマンが手がけました。この人の音楽には、オーソドックスなオーケストラサウンドと、パーカッションが印象的な幻想的なサウンドの2系統ありまして、今回は後者の音作りで、ちょっと聞いただけで彼だとわかる非常に特徴のあるサウンドになっています。アルバムはマリンバ風のパーカションから、ピアノがジャズタッチに絡んでくる前衛的なサウンドで始まります。「アメリカン・ビューティ」と似た音作りですが、ちょっとコミカルでファンタジックな味わいがこの映画にうまくマッチしています。ジャズ風であり、カントリー&ウエスタン風でもあるところが、アメリカを描写する音楽になっているのでしょう。ヨーロッパ映画ではまず聞くことのできない音になっています。エモーショナルな部分ではちゃんとストリングスが入って音の重しをするあたりに映画音楽らしいうまさを感じてしまいます。いわゆる泣きの部分は彼の音楽の守備範囲ではないようで、ラストで流れる「Calling All Angels」で泣かせる構成になっているのは、分をわきまえた仕事ということになるのでしょうか。「13デイズ」と「ボディ・ショット」以外は日本盤が出ているはずです。 |
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