ちょっとサントラもの2000年 8月


written by ジャックナイフ
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えー、久々のサントラものでございます。今回は色々取り混ぜて一つ。

「シャンハイ・ヌーン」

ジャッキー・チェン主演の西部劇の音楽を「ドラゴン・ハート」「あなたが寝てる間に」などあらゆるジャンルの映画音楽を手がけるランディ・エデルマンが担当しました。オープニングタイトルに流れる雄大なテーマがまず見事です。中身はアクションコメディなのですが、エデルマンはここに冒険活劇の音をつけて、ドラマの格を上げるのに成功しています。まず中国の紫禁城から始まるドラマにふさわしい重厚な音が、アメリカへ舞台を移すと、1950〜60年代の西部劇を思わせるお遊び感覚に溢れた音に変わるあたりのメリハリもうまいものです。映画自身が方向性を見失っているようにも見えるのに、音楽はきっちりと映画の流れを押さえて、リードしているようにも思えました。アジア風の味付けもあくまで隠し味程度でして、冒険活劇ドラマとして重みのある音できっちりと締めているという印象です。このテーマはあちこちのドキュメンタリー番組で使われそうな、インパクトのある曲です。また、オーケストラの1パートとしてシンセサイザーを使いきったあたりの音の構成も見事でした。

「リプリー」

意外なほどの見応えのあるサスペンスの音楽を、「シティ・オブ・エンジェル」や、アンソニー・ミンゲラ監督とは「イングリッシュ・ペイシェント」でも組んでいて最近アメリカ映画の仕事の多いガブリエル・ヤードが手がけました。ジャズが映画の中でも重要なファクターになっているため、アルバムの半分はジャズの既成曲で占められていて、マット・デイモンの歌う「マイ・ファニー・バレンタイン」なんていうのも収められています。ガブリエル・ヤードのスコアは舞台となるイタリアを描写した曲の美しい旋律など、ラブストーリー風の優雅な音が魅力的です。一方サスペンススコアの部分では、まず、オープニングで流れる子守唄が不気味な印象を与えます。アルバムにはシンニード・オコナーのボーカル版が収録されていますが、これが主人公を包みこむような、突き放すような、微妙に不安定な距離感で鳴るあたりが聞き物です。ピアノと木管が旋律を奏で、繊細なストリングスがフォローしていくというタッチが、じわじわとサスペンスを盛り上げていきます。その音は、単なる殺人劇とは思えない格調の高さがあり、この映画のバックに流れる感情の流れを見事にすくいあげています。

「ルナ・パパ」

中央アジア旧ソ連領、内戦の傷跡がまだ消えないタジキスタンを舞台に描いた不思議なファンタジーの一編です。こんな映画にサントラCDがあるということでご紹介です。音楽を担当しているのは、タジキスタン出身のダーレル・ナザーロフで現地民謡もフィーチャーしながら、本編同様、ちょっと不思議な音作りをしています。ギター、マンドリン、アコーディオンといった楽器が旋律を担当し、そのバックでタブラなどのパーカッションが鳴っていまして、何となくエスニックな音は、BGMとしても楽しいアルバムになっています。特に4曲目の「町のテーマ」は映画の中でも何度も流れて大変印象的です。その他、ギターの切ない調べなど、ニューエイジミュージックともいうべきアルバムになっていまして、素朴というよりは、完成度の高い聴き応えのあるアルバムになっています。

「パーフェクト・ストーム」

実話に基づくディザスター・ムービーの一編の音楽を「タイタニック」のジェームズ・ホーナーが担当しました。オープニングのテーマが海で命を落した人々への鎮魂歌になっているのですが、このあたりは毎度のミリタリー風のホーナータッチなのですが、この後がいつもホーナーにしてはインパクトが足りません。特に後半は、ほとんど嵐の海のシーンで、そのバックで音楽は鳴りつづけるのですが、単に鳴っているというだけでメリハリを欠き、嵐のシーンだけで引っ張るという強引な力技の演出に対して、パワー不足となってしまいました。人間の力ではどうしようもない嵐というものを描写しきれなかったというところでしょうか。いっその事、嵐のシーンで音楽を消してしまう演出もあったろうに思わせる出来栄えに思えてしまったのでした。半端にエモーショナルな音は人間も自然も描写しきれなかったというところでしょうか。職人ホーナーにしては、珍しく不満が残ってしまいました。

「Space 3:beyond the final frontier」

このコーナーでも何回か紹介してます、シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニックによる映画音楽のカバー集です。これまでにも宇宙を題材にした企画で何枚かアルバムを出しているのですが、今回も2枚組CDでなかなかに聴かせる出来栄えになっています。今回は結構目玉商品が多くて「ロボ・コップ組曲」(ベイジル・ポレドゥリス)、「ラスト・スターファイター」(クレイグ・セイファン)、「決死圏SOS宇宙船」(バリー・グレイ)、「ギャラクシー・クエスト」(デビッド・ニューマン)、「サイレント・ランニング」(ピーター・シッケル)など、フルオケがうれしい作品、サントラもなかなか入手できない作品が並んでいてなかなかに壮観です。特に「サイレント・ランニング」がフルオケで再録音されるとは、サントラファンにとって、何でもありの時代になってきたものだと改めて感じてしまいます。

「続・猿の惑星」

こんなもののサントラが再発売されるという企画自体スゴイと思うのですが、通常のCD店には流通しない限定盤とはいえ、あの音楽を聴くことができるのはうれしい限りです。1作目のジェリー・ゴールドスミスに続いて、音楽を手がけたのは、「エデンの東」「ミクロの決死圏」のレナード・ローゼンマンです。原始的ともいえる現代音楽が印象的だった1作目と同様、不協和音と打楽器による現代音楽というアプローチで、前作の世界観を壊さずにかつローゼンマンの個性も前面に出すことに成功しています。特に猿の軍隊の進軍マーチは、テレビで観た時に大変なインパクトがありました。このタッチは、第4作の「猿の惑星・征服」のトム・スコットの音楽にも継承されています。あと、サントラCDの出ない、4作目5作目もアルバム化されないかなあ。

「トラトラトラ」

これまた、「続・猿の惑星」と同様、限定盤なのですが、一応出ましたということでご紹介です。私が幼い頃、テレビの音をカセットテープに録音して、何度も聞き返していたテーマ曲がCDで聞けるようになりました。アメリカ資本で、日米スタッフ、キャストで製作された戦争大作の音楽を手がけたのはジェリー・ゴールドスミス(今年の秋に来日コンサートが控えてます。)です。日本風の音ということで、琴や和太鼓などを使っていますが、ドラマを支えるテーマは日本趣味というよりは、運命を感じさせるもので、日本側の描写の重厚な音は何度聞いても見事です。一方のアメリカ側の描写は、無機的な打楽器中心のスリリングな音に なっており、ドラマ構成と見事にシンクロしています。昨年、ロイヤル・スコティッシュ・オーケストラによる新録音盤が出ましたが、やはり音の厚みが違うようで、オリジナルに軍配が上がってしまいます。

「リプリー」「シャンハイ・ヌーン」「パーフェクト・ストーム」は日本盤が出ています。

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