written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
またまたのサントラものでございます。今回は新作中心のご紹介です。
■「マグノリア」
いやー、とにかく長い映画なんだよという以外の感想は、十人十色なこの映画の音楽を手がけたのは、ジョン・ブライオンという人、エイミー・マンの歌ばかりが有名になってますが、オーケストラによる描写音楽もきちんと映画の中では流れていまして、スコア盤のCDも発売されてました。オープニングで様々な登場人物の日常を描写するコミカルなスコアから始まって、物語が展開していくに連れて音楽もどんどんドラマチックになっていきます。また、ハーバーの「アダージョ」やグレツキの「交響曲第3番」を思わせるストリングスによる音楽が、シリアス部分に延々と流れるところが圧巻で、映像以上のインパクトを観客に与えています。さまざまなドラマを並行して見せるという構成に、この音楽の果たした役割は大きく、様々なシーンがカットバックされるシーンで、音楽が同じペースで鳴り続けることで、全体に統一感を与え、一つのドラマとして盛り上げることに成功しています。
■「レイク・プラシッド」
一応動物パニックものなんだけど、コミカルな味が捨てがたい映画の音楽を、映画編集者でもあり、「ユージュアル・サスペクト」「ゴールデン・ボーイ」など映画音楽での実績もあるジョン・オットマンが担当しました。一言で言えば、オーソドックスなオーケストラスコアということになるのでしょう。オープニングの湖を描写するテーマ音楽は、小編成のオーケストラながら、冒険映画らしい音になっています。でも、ランディ・エデルマンの「アナコンダ」のような重厚さがないところがこの映画にマッチしていまして、重くないけど、上滑りしないラインにまとめあげた手腕は評価したいと思います。何しろ襲ってくるのがワニですから、重量感もスピード感もそこそこというところになってしまい、結構しんどい音作りだったのではないかしら。ワニが迫り来るシーンはそれなりの恐怖感を出してはいますが、恐怖よりは純粋に活劇の音楽という印象です。ギター、トランペット、パーカッションが前面に出てくるので、ちょっとマカロニ・ウエスタンのような味わいもありますし、いかにもB級映画らしい音になっているのが、この映画のファンとしてはうれしいところです。
■「アメリカン・ヒストリーX」
何ともやりきれない映画でしたけど、音楽を手がけたのが元アート・オブ・ノイズで、「フル・モンティ」でオスカーをとり、ニューエイジ系のアルバムも手がけているアン・ダドリーですが、この映画では、徹底して重厚なオーケストラサウンドを聞かせています。祈りを思わせるコーラスも加えて宗教音楽の味わいもあり、ラストのレクイエムのような曲まで、ドラマを厚く彩るとともに、リアリティを薄めて、寓話的な味わいをつけることに成功しています。
■「ヒマラヤ杉に降る雪」
アメリカの日系人に対する差別を殺人事件に絡めて描いた映画の音楽を「逃亡者」「シックス・センス」のジェームズ・ニュートン・ハワードが手がけました。雪景色、ヒマラヤ杉の森、そんな風景に静かに流れる音楽は、グングンとドラマティックに展開していきます。コーラス、尺八、和太鼓などをフィーチャーしていますが、日本を意識したサウンドというよりは、ミステリーと人間ドラマを支える音という印象が強いです。主人公の幼いころの回想シーンには、環境音楽を思わせる幻想的な音が流れ、戦争に絡む回想では、オーケストラによる重厚な音がつけられています。とくにクライマックス近くでオーケストラとコーラスによる盛り上げは聞き物でした。様々な視点からのドラマを盛りこんだ映画なのですが、各シーンを音楽できちんと色分けすることによって、流れをわかりやすくしているという印象もあり、ドラマの中で音楽が大変大きな役割を担った映画だと申せましょう。オーケストラによるニューエイジミュージックということもでき、音楽だけ聞いてもイメージをかきたてるものがありました。
■「スクリーム3」
シリーズ完結編(らしい)の音楽は前2作も手がけて、最近サントラCDが発売されることも多くなってきたマルコ・ベルトラミです。オーケストラによるサスペンス音楽を聞かせてくれます。連続殺人ものにも、きちんとエモーショナルな音をつけて、単に神経を逆なでするだけの音楽にはなっていないあたりに、彼のうまさを感じます。ヒロインのシドニーのテーマは物悲しさと重厚さの両方をうまくブレンドして、ヒロインの繊細さと強さを見事に表現しています。ホーンセクションや、ストリングスの低音部をきちんと鳴らすことで、ドタバタ殺人シーンに重量感を与えている点も見逃せません。かなりじっくりと見せる殺人鬼と被害者の追っかけっこがコントにならなかったのは、この音楽あってのことでしょう。音だけ聞くとものすごい緊張感とスペクタクルをイメージさせますもの。また、因縁話がメインとなる今回はストーリーが重いのですが、その因縁話をきちんと支えるだけの奥行きのある音になっているのも聞き物です。エンディングの曲も美しくドラマを締めくくっています。
■「グリーン・マイル」
1940年代のアメリカで、ある死刑囚の起こした奇蹟を描いた映画ですが、フランク・ダラボン監督とは「ショーシャンクの空に」に続いてコンビを組むトーマス・ニューマンが音楽を手がけました。「ショーシャンクの空に」では重厚な音で刑務所を描写したニューマンですが、今回はどちらかというと彼のもう一つの顔である、幻想的な音作りが前面に出ています。また、カントリー調の曲で、コミカルな味わいも出していますし、シンセをバックにピアノのメロディが流れるあたりは、暖かさと神秘性の両方をうまく表現しています。
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