ちょっとサントラもの2000年 3月


written by ジャックナイフ
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またまたのサントラものでございます。今回は新作中心のご紹介です。

「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」

ケビン・コスナー主演の野球モノの一編です。音楽を手がけたのは、「コナン・ザ・グレート」など骨太な作風で知られるベイジル・ポレドゥリスです。今回もホーンを前面に出した、重厚だけど勇壮なテーマがまず印象に残ります。その一方、ラブストーリー部分に流れる、ギターをメインにストリングスやピアノが重なっていくテーマもあります。こちらは甘さと暖かさをきっちりと出していて、彼の職人的なうまさを確認できます。野球場の広さを描写する重厚なオーケストラにピアノをかませるあたりの小技も決まっていますし、ラストの完全試合に向けての盛りあがりも申し分ありません。ですが、やはり主人公と恋人とのシーンに流れる静かで重厚な音が耳に残ります。骨太感はありますが、そこに恋愛の機微を盛りこんで、しっとりした音に仕上げるあたりのうまさが見事で、同じコスナー主演の「メッセージ・イン・ア・ボトル」の音楽に比べるとメロドラマとしての甘味、切なさは足りないけど、人間ドラマとしての渋味、豊かさはこちらが上と言えましょう。メロドラマの音楽としてもなかなか面白いものがあります。

「スリーピー・ホロウ」

ティム・バートンがジョニー・デップと組んだ正統ミステリー・ホラーの音楽は、バートンとのコンビが長いダニー・エルフマンが手がけました。バートンとの作品では、暗い題材でもどこかファンタジックな味わいをつけるエルフマンですが、今回は正面きった怪奇映画の音をつけています。画面の中のブラックユーモアの味わいをあえて音楽からは外して、コーラスを交えたオーケストラが格調高い音を高らかに鳴らしています。また、ドラマ部分の音楽では、高音ストリングスとコーラスで不安感を高めたり、バーナード・ハーマン風の音でおどろおどろしさを出したりなど、ちょっとレトロ感覚な音作りがパロディにならないレベルでうまくまとまっています。音だけ聞いて、これが1950年代の映画の音だと言われて納得してしまうような出来栄えなのです。「バットマン」などに比べると重過ぎない音作りが、ドラマとうまく調和していまして、馬車の追跡シーンで流れる曲などは、音が画面とシンクロして、スピード感を見事にサポートしていますし、変な言い方ですが大変マトモな音作りをしています。個人的にはタイトルバックで、主人公がスリーピー・ホロウの村へ赴く道中に流れる曲の不安な予感がお気に入りです。

「遠い空の向こうに」

NASAのエンジニアの学生時代のロケットにかける夢を描いた感動作の音楽を「ネル」「ブレイド」などもはやベテランの域に入ったマーク・アイシャムが手がけました。バイオリンのソロで始まるタイトル曲がまず魅力的です。ソ連の人工衛星スプートニクの成功と、斜陽の炭坑町とをカットバックさせたオープニングに流れる淡々とした音にはしみじみとした味わいがあります。空を見上げるとスプートニクが見えるというシーンの幻想的なタッチ、一方の日々に生活に追われるシーンの沈みがちな音、小編成のオーケストラで奏でられた音楽は品の良さを感じさせるドラマとうまくマッチしています。そして、ロケットがもたらした新たな希望を、音楽が静かに、そして感動的に奏でています。二転三転するドラマの中で、音楽は展開に振りまわされることなく、節度ある音でドラマをサポートしています。だからこそ、その節度ある音が観客の心に琴線に触れ、感動を呼ぶのでしょう。炭坑町を描写する音は、まるでレクイエムのようですが、その中にきちんと働く人々のプライドを織り込んでいるのが見事です。また、ラストの抑えた音楽が逆にじわっと感動を呼ぶあたりが泣かせるのです。

「13F」

タイムスリップとバーチャルリアリティのネタをうまくまとめたSFスリラーの音楽をハラルド・クローサーが担当しました。共同作曲者としてトーマス・ヴァンカーがクレジットされており、ドイツのノルドウエストドイッチェ・フィルハーモニックが演奏しています。また、1930年代のダンスサウンドは、ジョニー・クロフォードのオーケストラが「キャラバン」「セント・ルイス・ブルース」などを演奏し、CDにも収録されています。ドラマ部分の音楽はSF冒険活劇という感じのオーケストラ音楽でコーラスも交えてなかなかにスケールの大きな音を聞かせてくれますが、物語のメインはスリラーですから、そこは近未来風なSFスリラー音楽になっており、いわゆる定番の音作りになっています。とはいえ、画面そのものは、割とおとなしめなのに音楽の方はかなりハッタリの効いたメリハリの強いものになっていまして、この音楽がSF小品ともいうべき内容の映画の格を1ランク上げているという印象です。特に世界の果てのシーンなど、画面の絵がかなりショボいのを、音楽で大きく盛り上げて救っていました。

「ノイズ」

ジョニー・デップ主演のSFスリラーに「ワイルド・シングス」のジョージ・S・クリントンが音楽をつけました。静かなピアノの音からストリングスへと流れていくテーマにシンセサイザーが不安な影を落していくオープニングがなかなかにいい導入部になっているのですが、映画自体が的を絞りきれていないのか、音楽もひたすら不安感を煽る以上のことができなかったという印象です。ヒロインが孤立無援の極限状況に置かれてしまうというのが、この映画の怖いところなのですが、そのあたりを日常的な孤独感のような音で表現していますので、音楽として聞くとなかなかよき感じなのですが、映画をサポートするという意味ではおとなしすぎるという印象を持ってしまいました。サスペンス部分も小編成のストリングス主体に女声コーラスをバックに鳴らすといった内容はSFスリラーというには、物足りないように思えました。原題が「宇宙飛行士の妻」ですから、ひょっとしたら日常生活に忍び込む恐怖を描きたかったのかもしれませんが、映画のカラーが曖昧だと、音楽もイマイチ冴えなくなるという例ではないかしら。映画を観ないで、サントラCDだけ聞いた方が評価が高くなるかもしれないという1枚でした。

「13F」「ノイズ」以外は日本盤を確認しています。

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