ちょっとサントラもの2000年 2月


written by ジャックナイフ
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ちょっとお久しぶりのサントラものでございますが、お正月映画を中心にご紹介です。

「リング0・バースデイ」

「リング」「リング2」に続くリング最新作は、「リング」の前日談というべき内容で、悲恋ものの色合いの濃い作品となりました。音楽も前二作の川井憲次から、尾形真一郎にバトンタッチし、恐怖の効果音というよりは、貞子の孤独と悲壮感をシリアスに奏でた、音楽としての聞き応えのあるサウンドになっています。ピアノソロから始まる貞子のテーマが物悲しくも美しく、そこからオーケストラの静かな音へと展開していくあたりも聞き応え十分です。その後も物語の展開に合わせてメリハリのある音でドラマをサポートしています。しかし、全体としては、幻想的で悲しげなサウンドが主体で、教会音楽のような味わいもあり、運命にもてあそばれる貞子の悲劇を際立たせています。音だけ聞いても色々なイメージを喚起させる音楽になっていますので、サントラを離れてニューエイジミュージックのアルバムとして聞いてもなかなかの聞き応えがあります。ただ、シンセサイザーに頼った部分で音の厚みを欠いているのが惜しまれます。アルバム全体を聞いた印象がジェリー・ゴールドスミスの「サイコ2」を思わせたのですが、そう感じたのは私だけでしょうか。なお、ラルクによる主題歌の「finale」はインストゥメンタ
ル版のみ収録されています。なお、ジャケットデザインは映画のポスターと同じですが、本編の内容とはまったくかけ離れたもので、音楽のイメージともまるで異なるというのは、音楽に対する敬意が感じられないという印象でした。

「多重人格少女・ISOLA」

サイコホラーから、SFへと展開して、超自然ホラーになっていくというケッタイな映画でしたが、音楽はデビッド・マシューズという人が担当してます。MJQのメンバーだとのことだとすると、その昔、フュージョンがクロスオーバーと呼ばれていたころプロデューサー、アレンジャーとして有名だったデビッド・マシューズのことなのかな?阪神淡路大震災を舞台にした物語だけに、オーケストラとコーラスを交えたドラマチックな音がまず耳に残ります。重厚さという意味では今イチなのですが、ストリングスを前面に出してシリアスドラマの音を作っているのには好感が持てました。しかし、後半の恐怖シーンのショックサウンドがメインテーマに比べてやけに安っぽいのが気になってしまいました。また、CDのライナーによると、ニューヨークで録音された部分はデビッド・マシューズの作・編曲・指揮によるものですが、東京で録音された部分はミラツ・タケオなる人の作曲・演奏とのことです。ところがどの曲がニューヨーク録音でどれが東京録音なのか不明という、大変不親切な表示になっています。これはアーチストに対して失礼だと思いました。

「エンド・オブ・デイズ」

世紀末シュワちゃん大暴れのホラーアクションの音楽を、「レリック」でもピーター・ハイアムズ監督と組んだジョン・デブニーが担当しました。物語からして大ハッタリの映画だけに、デブニーの音楽もオーケストラにコーラスを加えて宗教色も交えたアクションスコアを展開しています。ハッタリだけで押しまくったという印象が強くて、スケール感はあるのですが、意外とドラマチックではないのです。女性コーラスや祈りの声などを交えた世紀末風サウンドはオーケストラ部分より、むしろシンセの打ちこみサウンドの部分で面白さが出ました。

「シュリ」

韓国で大ヒットという映画の音楽は、イ・ドンジュンという人が手がけたいます。映画自体がいろいろな活劇映画の趣向をとりこんで、今の朝鮮半島の情勢をからめて仕上げた娯楽映画ですから、音楽も今風の活劇音楽の趣向をきっちりと取り込んでいます。アクション部分の音を聞いた限りでは、これ、ハンス・ツィマー一派のハリー・グレグソン・ウィリアムズの音楽じゃないかと思ってしまいました。「ザ・ロック」「リプレースメント・キラー」の音をパクったという印象だったのです。打楽器とドラムによるインパクトをベースにした、オーケストラとシンセサイザーによる活劇音楽が展開していきます。個性という点では今一つと思ってしまうのは、ギターによるラブテーマの部分までモロにハリウッド映画の音楽になっているからでしょうか。しかし勢いはありますから、聞いて楽しいアルバムにはなっています。

「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」

007の最新作の音楽は前作から引き続いてデビッド・アーノルドが担当しました。ドラマチックでいてバリバリにアクションシーンに鳴り響く彼のオーケストラ音楽は「インデペンデンス・デイ」でそのパワーは立証済みでしたが、もう一つ、この人のうまかったのが、「007のテーマ」の使い方が絶妙なところ。彼の前任者のエリック・セラはこのテーマを使いこなせなくて今イチだったのですが、アーノルドはここがうまいのですよ。アクションシーンをテンポよく盛り上げておいて、そこへ定番の「007のテーマ」が鳴り響く、この呼吸が見事なのです。また、今回は主題歌もアーノルドの作曲によるもので、ちょっと「ゴールド・フィンガー」を思わせる唸り節のサウンドがいつもより渋めのドラマとうまくマッチしています。日本版のエンドタイトルにはLunaSeaによるスペシャルな主題歌が入ってしまっているのですが、ドラマの中身との統制がとれていないようでして、「やめときゃいいのに」という印象でした。

「アンナと王様」

タイの王様と、イギリス人女性の家庭教師がタメ口を叩いて恋仲になるという、タイの国では公開されることはないであろう映画の音楽を、硬軟ともにうまさに定評のあるジョージ・フェントンがてがけました。オープニングから、オーケストラによる冒険映画のようなスコアがちょっと意外でしたが、あえて異国情緒といったものを前面に出さず、イギリスから来たヒロインを中心にした音作りになっていまして、ピアノに木管に弦を交えたオーケストラ音楽はアジアを舞台にした音というよりは、ヨーロッパ映画の音になっています。恋愛部分を極力抑えたドラマ同様、主人公二人の心の動きを静かに描写する音楽は品よくまとまっているという印象です。一方、タイの国の内乱状態を描く部分はドラマチックにパーカッションや金管が鳴り響き、なかなかに緊迫感のあるスコアを聞かせてくれます。

上記サントラは全て日本盤が出ています。

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