written by ジャックナイフ E-mail:64512175@people.or.jp
今回は1999年の映画からのご紹介でございます。本年もどうぞよろしく。
■「母の眠り」
メリル・ストリープ主演の死病ホームドラマの音楽を、「スタートレック6」「忘れられない人」など幅広いジャンルを手がけるクリフ・エイデルマンが担当しました。ドラマ自体も静かな展開のせいか、音楽も控えめで、映画を観ているときはほとんど印象に残りませんでしたが、CDで聞きなおしても、やっぱり地味な印象は変わりません。小編成のストリングスと木管、そしてピアノで奏でられる音楽は小品という表現が当てはまります。ピアノが静かに音を刻み、そこにストリングスがかぶさってくるというパターンの曲が多いですが、丸みのあるピアノの音が耳に心地よく、そこへフルートなどの木管が加わり、ろうそくの灯りのような暖かなイメージが全編に感じられます。
■「ゴースト・ドッグ」
太めの黒人の殺し屋の愛読書は「葉隠れの書」であったという、不思議なマフィアものの音楽を手がけたのは、ヒップホップの世界では有名なRZAという人です。ヒップホップというのは、ラップが乗って完成ですが、この伴奏部分だけを取り出してインストゥメンタルとして聞くとアンビエントミュージックになってしまうのがちょっと意外でした。特に東洋風イメージを表した曲が不思議なイメージな音を作っているのです。ただ、テンポが妙なので、BGMとして聞くにはちょっとしんどいという感じなのですが、映画のオフビート感にさらに輪をかけたようなオフビートな音は、はまるとかなり楽しめるのではないかしら。
■「海の上のピアニスト」
一生陸に上がることのなかったピアニストの物語の音楽を手がけたのは巨匠の域に入った感のあるエンニオ・モリコーネです。オープニングのアメリカに着いた感動を表現した雄大なオーケストラスコアが圧巻です。そして、主人公のピアノのソロがなかなかに感動的なのですが、主人公のキャラクターが今一つはっきりしていないのか、全体に大味な印象が残ってしまいました。ピアノが主人公の映画なのに、ピアノはただうまさを競う道具にしか扱われていないからでしょうか。むしろピアノを脇に置いてストリングスや木管が前面に出る曲の方が印象的でした。ピアノ曲ではアルバム中盤の「Nocturne with No Moon」が淡々としたつまびきで
■「ジャンヌ・ダルク」
リュック・ベンソン最新作は歴史大作ですが、それでも音楽はおなじみエリック・セラが担当しました。戦闘シーンにはスケールの大きなオーケストラ音楽がドラマを盛り上げていますけど、トータルな印象としては、ヒロインを中心に据えてラブストーリーの音楽のような美しいオーケストラスコアを展開しています。一方、神との対話のようなイメージショットもありまして、そこはいつものセラらしいシンセサイザーを前面に出した神秘的な音を聞かせてくれます。映画が叙事的に歴史を語るのではなく、ヒロインの内面から神を描こうというアプローチをとっていますので、一見歴史ものには不似合いなセラの音楽が、ドラマにうまくはまったという印象です。一人の少女の数奇な運命を彩る音としては、この位がちょうどいいかなという気がしますもの。その分、血生臭い百年戦争を描写するにはややパワー不足の感がありますが、それもあくまでジャンヌという少女の目を通して描かれた戦争だと思えば、やや感傷的な音作りも納得できてしまうものがあります。サントラCDとしましては、これまでのセラの作品のような才気走ったところのない、オーソドックスな映画音楽にまとまっていますが、これまでのセラのファンには物足りないかもしれません。
■「季節の中で」
ベトナムを舞台にした映画の音楽を手がけたのは、「トルーマン・ショー」などを手がけたリチャード・ホロヴィッツです。私自身は本当のベトナム音楽を知らないのですが、ここでいかにもエスニックな音、言いかえると「らしい音」を聞くことができます。ダンバウというベトナムの民族楽器をフィーチャーしたというテーマが美しく響きます。そして、地方の民謡という設定の「ドゥ・アイ」という歌は心の琴線に触れるものがありました。この歌の使われ方が泣かせるのですよ。この他もシンセと民族楽器を組み合わせて東洋風サウンドが展開していきますが、妙にベトナムっぽさにこだわらず、あくまで民族楽器を素材に使った西洋人ホロヴィッツの音楽になっているというのには、好感が持てました。曲としてのメロディラインを追うと、普段聞きなれた映画音楽の音がきちんと聞こえてくるのです。耳あたりとしては、ニューエイジ・ミュージックというか、ヒーリングサウンドのアルバムと言っても差し支えない音になっており、ベトナムを題材にしたヒーリングミュージックのアルバムとして聞いても楽しいのですが、映画を観て音を聞きなおすと、ぐっとくる感動が甦りますから、映画と一緒にして楽しむのが正解だと思います。
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