2005年の映画ベストテン


written by ジャックナイフ
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2005年は忙しかったこともあって、映画館にも例年ほどには行けてませんし、見てある記も更新できませんでした。まあそれでもベストテンを作ってみました。それなりにベストテンだとは思っているのですが。

第1位 Dear フランキー

別れた夫から逃げながら父親になりすまして息子に手紙を送り続けていた母。それが実物を連れてこなきゃならない羽目になり、替え玉の父親を息子に引き合わせるのですが、という今年の珠玉の愛することのお話。泣ける映画ではないのですが、希望と想いと赦しが交錯する物語は観るものの心を何かで満たしてくれました。

第2位 理想の女

社交界の理想の若夫婦に接近する男殺しの中年女。そんな構図の中から人間のドラマをきっちりと紡ぎ出し、ユーモアも散りばめた展開は、オスカー・ワイルドの原作のよさだけでなく、脚色、演出、役者のアンサンブルのたまものでしょう。切ない葛藤から洒落たエンディングまで、映画を観たという満足度が一番高かったのがこれです。ヘレン・ハント、スカーレット・ヨハンソンの競演が話題でしたが、ラストをさらうトム・ウィルキンソンがおいしいんだわ。

第3位 ヴェラ・ドレイク

工場で働きながら、隣人や家族にもやさしいヴェラが裏でやっていたもう一つの仕事。物語よりもドラマの作り方のリアリティで観客を圧倒します。もう、そこにヴェラや家族がいるんだとしか思えないドキュメンタリーみたいな構成は、監督のマイク・リーのよくやる方法ながら、それをドラマチックな設定でやると、ものすごい説得力が生まれるのです。ドラマの見応えということでは今年のナンバーワンでした。

第4位 セルラー

亭主と娘を誘拐され、自分も拉致されたヒロインが偶然つながった携帯電話に何とか希望をつなぐというサスペンスもの。二転三転する展開の面白さに加えて、携帯電話ならではの趣向を盛り込み、隅々まで散りばめられたユーモアも加えて、娯楽映画として大変面白くまとまっていました。徹底的にシリアスだった「インタープリター」もよかったのですが、どうもこっちのB級的な軽さに惹かれてしまうのでした。

第5位 ロング・エンゲージメント

映画館へ行くなら、映画としての満足度が欲しいと思います。この映画はラブストーリー、戦争もの、ミステリーという趣向に加えて、豪華キャストのよさ、映像、音楽の美しさと映画館で観る映画としての満足度が高かったです。そして、ラストはハッピーエンドがいいですもん。ボリュームたっぷりのコース料理みたいな映画はやっぱり映画館だよねって思わせてくれる一遍でした。

第6位 50回目のファーストキス

今年のコメディというと、バカコメの「ドッジボール」なんてのも好きだったですし、「理想の恋人.com」の中年ラブコメも捨てがたいおかしさがあったのですが、笑わせてホロリでラストでびっくりハッピーエンドというこの映画がよかったです。すごく楽観的なんですが、それがうれしいってのは、自分にとって2005年があまりよくなかったのかな。

第7位 ヴェニスの商人

シェイクスピアの有名な原作を、差別されるユダヤ人にフォーカスして映画化した作品です。アル・パチーノのシャイロックを観るだけでも一見の価値ありですが、ロケの重厚な画面、バッサーニオの色恋物語など見所たっぷりで、映画ってのは娯楽なんだよなってことを再認識させてくれます。

第8位 ラヴェンダーの咲く庭で

老嬢二人の住む海辺の家に流れ着いた若いバイオリニスト。それだけなら設定の面白さだけなんですが、老嬢の妹が孫ほどの若い子に抱く恋心が切ないラブストーリーになりました。ジュディ・デンチの乙女心の名演技もあって、心に残る一遍となりました。秘めたる一途な恋ということでは「SAYURI」もよかったのですが、こっちの結末のせつない余韻を取ります。

第9位 ダーク・ウォーター

ホラーということでは、「蝋人形の館」「エコーズ」といった佳作があったのですが、ストレートな悲劇に希望の余韻を残したこの作品がよかったです。特に舞台となるアパートのロケーションが大変印象的でして、ホラーなんだけど、それ以上に生活感とか登場人物のキャラがきちんと描かれていました。孤独なヒロインの魂の物語とすれば、ロバート・ワイズ監督の「たたり」を思わせるものもあり、彼女を振り回す幽霊の理不尽さは「チェンジリング」を想起させ、ホラーのツボをきっちり押さえた映画として、好きな映画ですね、これは。

第10位 ナショナルトレジャー

あまりアクション映画って観てないんですが、これは設定からオチに至るまでよくできてる娯楽映画でした。全体にコミカルな味わいにしてあるのもマルですし、役者も揃っているので、安心して観ていられる映画です。こういうオーソドックスな娯楽映画がなかなか作られないし、たまに作っても「サハラ」みたいな映画になっちゃってる現状では、こういう映画を高めに評価したくなります。

この他の大作「スターウォーズ シスの帰還」「宇宙戦争」などは、私の観たいものを見せてくれていない映画だったので今イチでした。ベストテンには入りませんでしたけど、「メリンダとメリンダ」「サイドウェイ」「クローサー」「愛についてのキンゼイレポート」が男女の機微の面白さで印象的でした。また、「ヒトラー 最期の12日間」も見応えのあるドラマでしたけど、むしろナチス戦犯の息子のドラマ「マイ・ファーザー」にぞっとさせる怖さがありました。切ない結末ということでは「コープス・ブライド」「バタフライ・イフェクト」が印象的でした。子供ネタということでは「ヘイフラワーとキルトシュー」が子供と大人を同じ地平に置いて描いていて面白かったです。

それでは、例年のピンポイントベスト5を。

第1位「ステルス」のアメリカの今

一応はSF風のアクションなんですが、勝手に墜落しておいて、そこが北朝鮮だもんで、防衛行動をとる北朝鮮軍を皆殺しにしてハッピーエンドというすごい映画。アメリカからすれば極東に住む連中なんてこんなもんだというのがよくわかる映画です。これを観て反米感情を盛り上げようとは思わないのですが、中国の反日感情よりも、こっちの映画から垣間見えるアメリカの方がヤバイんじゃないのと思わせる一遍でした。まあ、「ランボー」シリーズの時に気づくべきだったんでしょうけど。

第2位「Mr&Mrs スミス」の得体の知れない度

大スター競演のお金かかりまくりのメジャーなアクション映画なんですが、結着が何だかよくわからない。事前のプレビューで結末は簡単に変わっちゃうアメリカなのに、この結末でかつ大ヒットしたというのがすんごく不思議でした。

第3位「オペラ座の怪人」の舞台映画化の限界と可能性

オープニングでメインテーマが流れたときは身震いするような感動があったのですが、その後、リアルな画面で登場人物が歌い始めるとドラマのテンションが切れてしまって、ラストまで乗り切れませんでした。舞台のお約束を劇場のスクリーンに見せるにはある程度、舞台的な撮影もやむを得ないのかなと思ってしまいました。リアルなセットで、リアルじゃない怪人が突然歌いだして、ヒロインが歌でこたえるというのは、舞台では全然自然あったのに、映画館だとなぜこんなに居心地が悪いのかしらん。

第4位「メリンダとメリンダ」のラダ・ミッチェル

今年のヒロインはかなりの豊作で、「ディック&ジェーン」のティア・レオーニ、「ハッカビーズ」のナオミ・ワッツ、「ノエル」のペネロペ・クルズ、「Dear フランキー」エミリー・モーティマー(好き)、「ステップフォード・ワイフ」のニコル・キッドマン、「サイドウェイ」のバージニア・マドセン、「SAYURI」のチャン・ツィイーなどがいたのですが、「メリンダとメリンダ」で悲劇バージョンと喜劇バージョンの二つのヒロインを演じきったミッチェルが印象に残りました。また、ついでにお気に入りオヤジ脇役ということで「セルラー」のウィリアム・メイシー、「奥様は魔女」のマイケル・ケイン、「理想の女」のトム・ウィルキンソンを挙げます。

第5位「ノロイ」のメディアミックス

「ノロイ」は今年観た数少ない邦画の1本です。ある呪いにまつわるドキュメンタリーになっていまして、もとになる事件のHPや実録本まであります。でもよく観ればこれはフェイクドキュメンタリーでして、俳優が演じてる、いわゆるヤラセもの。でも、よくできてるし、かなり不気味な映画に仕上がってまして、こういう作りもなかなか面白いなあって感心してしまった次第です。でも、スタッフがクレジットされないのが気の毒かな。

そんなわけで、本年もよろしくお願いいたします。

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