2004年の映画ベストテン


written by ジャックナイフ
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2004年は新作はあまり観られなかったのですが、それでも一応ベストテンを作ってみました。2003年以上にかなり地味目のベストテンになってしまいました。

第1位「みんな誰かの愛しい人」

フランス人気質を描いた映画だなんて解説してた文章を読みましたけど、普遍的にな人間関係の機微を細やかに描いた秀作でした。ホント、みんなしょうがない奴らだけど、やっぱり、しょうがないよねえ、って感じがおかしくて、シニカルに笑わせて、さらにラストにうれしい予感で後味もよいという、映画のうまさを実感させてもらいました。

第2位「ラブアクチュアリー」

老若男女の臆面もない恋物語をハッピーにぶちこんだ快作。でも、きちんと人生のほろ苦さも描いて、それでも愛することっていいよねってのが、汚れオヤジには心洗われる映画でした。

第3位「ニュースの天才」

これは、視点の面白さで見せる映画でしたね。社会派とかマスコミの陰謀だとか思わせておいて、実は「根っから嘘つきなんだもん」で済ませてしまうあっけらかんはお見事。キャスティングもうまいし、展開のミスリードには見事だまされたし、シャマランの「サイン」を押さえてケレン味ナンバー1。

第4位「ションヤンの酒家」

もう若くないヒロインを通して描かれる貧しい町の一角。落ち着く場所を求めるリアルなヒロインの姿になんか切ない気分にさせられるのですが、ラストで「押絵と旅する男」を思わせる不思議な余韻で締めくくるあたり、一種のファンタジーなのかも。

第5位「愛の落日」

第二次大戦後のベトナムを描いたメロドラマなのに、そこに描かれるアメリカの姿は、イラク介入する今と少しも変わらないという怖さが後を引く逸品でした。役者のうまさ、映像の美しさ、音楽のよさと、ドラマとしてきっちりとした作りに、プラスアルファの怖さがピリリとした後味を残します。

第6位「エレファント」

観始めた時は、何だかドキュメンタリーみたいだなと思ってると、そこへ計算しつくされた仕掛けが入ってくることで、ドラマとしての興奮が生まれてきます。コロンバイン高校の銃乱射事件の再現ドラマながら、日常をこれでもかと描くことで、紙一重の怖さがひしひしと伝わってくるホラー映画でした。青春ドラマだという評価もあるようですから、観る人それぞれの感じ方がありそう。

第7位「グッド・ガール」

オフビートなコメディということでは「アメリカン・スプレンダー」も面白かったですし、「スクール・オブ・ロック」も捨てがたいのですが、とにかくおかしかったのがこれ。普通の主婦をジェニファー・アニストンが演じて、おかしいのなんの。女性はタフで、男はアホで自己チュー。とにかく私のツボに大はまりだったんですよ。

第8位「デイ・アフター・トゥモロー」

突っ込みどころ満載の映画なのに、どこか捨てがたい味わいのある映画でした。ラストの演説で謙虚なアメリカを見せる意外性、そして、生き残りの人々が映るカットでは不覚にも泣かされてしまいました。「静と動」「生と死」のコントラスト、親子とか夫婦愛とかドラマの基本コンセプトをきっちり押さえている強みなのかな。

第9位「ドラムライン」

タイトルからして何だかかっこいい、中身は青春映画の王道だけど、ドラム合戦というのが興奮させるのですよ。予定調和だけど、脇役もきっちりと立てて、登場人物の長所短所を丁寧に描いた演出が見事でした。

第10位「ハイウェイマン」

サスペンススリラーは今年はあまりたくさん観る機会がなかったのですが、交通事故というありがちな題材をベースに追う側追われる側ともに狂ってるというサイコスリラーが、面白怖さでは一番でした。大作とは程遠いけど、役者もうまいし、カーチェイスの丁寧な描写にも手抜きなく、車が人を襲う絵なんか、かなりインパクトありました。

この他では、いわゆる大作「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」「トロイ」「ディープ・ブルー」「LOVERS」も悪くはないのですが、面白いというところまでは行きませんでした。また、佳品という感じでよかったのが「リクルート」「ニューオリンズ・トライアル」「ヴェロニカ・ゲリン」「歌追い人」といったところですね。ドラマとしての見応えでは、「ビッグ・フィッシュ」「砂と霧の家」「真珠の耳飾りの少女」といったところがこぼれてしまいました。こぼれた方がベストテンっぽいですね。

それでは、例年のピンポイントベスト5を。

第1位「華氏911」のアメリカの今

ドキュメンタリーだけど、明確な主張を持った映画なので、その意図するところと見せ方に賛否両論のある映画です。でも、やはりこういう映画を作れることは評価したいところです。特にここで描かれるアメリカ国内の貧富の差とか、政治の裏には必ず金の動きがあることをきちんと見せたあたりが見事です。息子が戦死した母親が、本当に憎むべき相手はホワイトハウスにいるというあたりが圧巻でした。神風特攻隊だって日本人が出した命令なのだから日本人に対する恨みがあってもいいと思うのですが、そのあたりがお国柄の違いなのでしょうか。

第2位「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶ夕陽のカスカベボーイズ」のホラータッチ

基本はかすかべ防衛隊のドタバタなんですが、オープニングとエンディングで、映画館を舞台にしたホラーという形になっているのです。そこを丁寧に時間を割いて演出しているので、一種不思議な味わいの映画になりました。一番肝心なドラマの核を説明しないで雰囲気だけで映画を仕上げるにあたって、このスリラー演出は見事にツボにはまったと思います。子供にはどうでもいいことなんでしょうけど、私のような大きなお友達にはうれしいサービスでした。

第3位「ロスト・イン・トランスレーション」の東京の孤独

映画としてどうなのかなあと微妙なところなんですが、主人公が東京で味わう孤独感、疎外感というのが、単に言葉が通じないだけではない、東京そのものの持つ一つの顔になっているのが、印象的でした。東京で暮らすときに誰もが感じるであろう孤独感みたいなもののツボを見事にとらえていると思いました。膨大な情報だけが自分の周囲を通り抜けていき、誰ともコミュニケーションがとれない感じが、何か身につまされてしまいました。

第4位「モンスター」のクリスティーナ・リッチ

今年のヒロインもなかなか豊作でして、「恋愛適齢期」のダイアン・キートン、アマンダ・ピート、「アップタウン・ガールズ」のブリタニー・マーフィ、「最狂絶叫計画」のアンナ・ファリス(好き)、「ビッグ・フィッシュ」のヘレナ・ボナム・カーター(これまた好き)、「ヘル・ボーイ」のセルマ・ブレア、「ションヤンの酒家」のフォ・ジェンチィ、「21グラム」のナオミ・ワッツ、「グッド・ガール」のジェニファー・アニストン(ケッサク!)、「ロスト・イン・トランスレーション」のスカーレット・ヨハンソンと実はまだまだいるんですが、「モンスター」で連続殺人鬼の心を手玉に取った彼女の演技には脱帽でした。体を張った熱演シャーリーズ・セロンを受けの演技で食ってしまったのですから、やはりベストヒロインでしょう。後、「ミスティック・リバー」と「モナリザ・スマイル」のマーシャ・ゲイ・ハーデンはベスト助演女優ですね。

第5位「ブラインド・ホライズン」のご都合主義

マニアックな選択なんですが、地味にひっそりと公開されたこの映画、記憶喪失と大統領暗殺を扱ったサスペンスで一応のハッピーエンドになるんですが、これがむちゃくちゃご都合主義の極致。記憶喪失したら、その前にやったことは全てチャラになって、記憶が戻ってもお咎めなしというひどい話。その上、エイミー・スマートとネーブ・キャンベルといういい女を二人モノにしちゃうというのは許せんなあ。ひょっとして、神の不在を説く不条理映画なのか。(そうは見えない、B級サスペンスなんだけど)

後、特別賞なんですが、2004年封切ではないのですが、2004年に映画館で観たので、「ヒバクシャ 世界の終わりに」を挙げます。原爆を直接扱っているのではなく、被爆者という立場の人々が世界中にいて、今も増え続けているという現在進行してる現実を描いたドキュメンタリーです。だからと言って、声高に叫ぶことをせず、映画の発端を好奇心だと言い切る潔さが好感の持てる映画に仕上がりました。また、我々のような並の凡人にとって、被爆の現実へのとっかかりは好奇心だという見せ方は、こういう題材の敷居を低くしてくれているように思いました。

そんなわけで、本年もよろしくお願いいたします。

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