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「フェイク」をお題にした小話

ジャックナイフ
(64512175@people.or.jp)
街が色づくってのを正味実感するこのごろの小話シリーズ。
今回のお題は「フェイク」でご機嫌伺います。

クリスマス前のデートはちょっとわくわく気分

「でも、三木さん、大蔵省って今年は色々あって大変なんでしょう。」
「ああ、金融破綻とか言われて、でもクリスマスはなんとか時間を作るよ。これ約束する。君のお父さんの会社だって大変なんだろう?」
「でも、私は本社じゃないし、父とはあまりそういう話はしないの。ねえ、クリスマスデコレーションって、街が着飾ってるのね。一年で今だけ。」
「おい、三木じゃねえか。何してんだって、おおこれが例の社長令嬢か? お前、会社の安月給で無理するなよー。」
「あ、先輩、あの、これは、その.....」
「え、会社?」

「というわけなんだ。大蔵省って顔じゃないのに、あのパーティの雰囲気でつい。まわりもエリートばかりって感じだったから。」
「だましてわけね、私を。」
「ごめん、こんな時にかっこ悪いし、迷惑かけて。」
「でも、私もごめんなさいなの。社長令嬢なんてウソ。手取り16万の給料で、4万5千円のアパートにいるの。どう見てもこんなちんちくりんの令嬢なんているわけないでしょ。OLっていうほどもパっとしない....。」
「そんな.....。」
「え、私を責めるの? あなただって私を騙したくせに。」
「ちがうよ、君はカワイイし、ほんと社長令嬢かと思ったんだ。だから、俺もガラになく無理しちゃって。」
「そう? あなたの大蔵省も今まで、信じていたわ。」
「あの、俺、君とはまだ付き合っていたいんだけど。もう、終りなのかな。」
「でも、私は社長令嬢じゃないわよ。会社の人にかっこ悪くない?」
「そんなのは大したことじゃないよ。でも、ひょっとして君も。」
「大蔵省の彼氏って言っちゃったわ。でも、大したことじゃないわ。私たちだけの秘密にしときましょうよ。」
「いや、隠し事は苦手だから。」
「あら、よく言うわねえ、今まで隠しておいて。」
「だから、ほっとしてるんだ。」

「ねえ、クリスマスはお互い彼氏彼女でいましょうよ。そして、大晦日に初詣に一緒に行くの。」
「いいね、それ。無理しないで分相応のクリスマスってどう?」
「それでね、神社で願をかけるの。次のクリスマスもまた二人で過ごせますようにって。」
「お互いに願をかけるってこと?」
「ううん、自分に願をかけるの。お互いを好きでいられるようにって。」
「そんなの、神様にお願いすることかい。」
「だって、もっと好きな人ができるかもしれないじゃない。」
「そうか、そうだよなあ。でも、その時はどうすればいいんだろう。」
「だから、神様にお願いするんじゃない。それに、ずーっとっていうのも、神様大変だから、来年のクリスマスまでなの。なんとかしてくれそうじゃない、期間限定なら。」
「じゃあ、来年の大晦日にはまた初詣に行って。」
「そう、同じことを願駆けするの。」
「なんだか、プロ野球の契約更改みたいだな。」
「そうね、だったらフリーエージェントもありよ。」
「言うなあ。でも.....うん? どうしたんだい、泣いてるのか?」
「うん、ちょっと。今日私変みたい。今まで付き合って3ヶ月以上続いたことないのに。こんな先の話までするなんて。ごめん、もう大丈夫。」
「こんなって高々1年だろう。その3ヶ月の付き合いってのを4倍に薄めたら、1年なんてあっという間だぜ。」
「何よ、それ。もう少しロマンチストかと思ったのに。」
「でも、悪い話でもないだろう。」
「うん、乗ったわ、それ。」

クリスマス2年分、ご予約承りました。

(完)