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「コンタクト」をお題にした小話

ジャックナイフ
(64512175@people.or.jp)
なんとなく、続いてる小話シリーズ。
今回のお題は「コンタクト」。

私がその子猫に気がついたのは、日曜日の朝の事でした。
「ねー、あなた起きてよ。猫よ、猫。」
「何だよ、朝っぱらから猫なんて珍しくもない。」
「ホラ、見てよベランダに野良よ。でも、2階までどうやって上がってきたのかしら。」
「どれ、いないじゃないか。」
「え、うそ、あ、ほら植木鉢の影にいるじゃない。」
「あ、いた。随分と小さいな。子猫物語だ。チャーハンだっけ。」
「チャランポランとか、そんな名前だったわね。なんか懐かしい。」
「ははあ、出られなくなったんだ。このベランダから。」
「はーい、ネコちゃんおいで、出してあげるよー。あなた、だめよ、怯えちゃってるわ、この子。」
「お前は動物から好かれないからなー。あら、ちっこいくせに威嚇してるぞ。」
「エサで釣れるかも、ほらほら、ツナ缶でちゅよー。」
「おい、シーチキンはもったいないよ。」
「ケチ臭いこと言わないの。はーい、ネコちゃーん。」
「ネコ相手に幼児言葉はやめろよ。」
「ダメ、近寄ってもこないわ。ちょっと皿を置いといてみるね。」
「随分と気を使うじゃないか。」

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illustration by TAR
「あ、見て見て、ツナ食べてるわ。あなた、そうっと来てね。」
「おーい、朝メシは.......」
「そうね、残りでツナサンドでも。」
「なんか釈然としないなあ。」
「あ、ネコちゃん動き出した。何か跳ねてるわ。ねえ、あなたってば。」
「見りゃわかるよ。ありゃ、ベランダの柵を乗り越えようとしてるんだ。メシ食って元気出たかな?」
「あ、届くかしら、ああ、ダメねえ。ほら頑張って、もう一息なのに。」
「へー、ちっこいくせにジャンプ力あるんだな。」
「ああ、もう見ていてイライラする。ねえ、出してあげましょうよ。」
「ダメだよ、おれらには怯えてるしなあ。」
「そうだ、柵の横にジャンプ台をつければいいのよ。掃除機の箱がいいわ、ほら、あなた。」
「俺が置きにいくのか。もう、ほらあ、またネコが毛逆立ててるぞ。ちょっと、あっちへ行ってくれよ.....置いたぞ、文句無いな。」
「誰に向かって言ってるのよ。あ、ネコちゃん箱の上に乗った。うまいうまい、あ、飛び降りちゃった....バイバイ。」
「礼のひとつもない、あいそのないネコだ。」
「だって、しょうがないじゃない。猫なんだから。」
「でも、オレの朝メシを食って、オレが箱置いてやったから、外へ出られたんだぜ。」
「でも、いいことしたんだからいいじゃない。」
「そうか? 本人はひどい目に合ったと思ってんじゃないか? そして、そのひどい目の張本人はオレだと思ったりして。」
「あら、随分と細かいところ、気にするのね。」
「なんか、釈然としないような.....。」
「でも、私は知ってるわ、ネコちゃんにやさしいウチのダンナでちゅう。」
「えーい、幼児言葉はやめろ。」

ネコちゃんは、やさしいダンナと思ってる....わきゃ、ないよなあ。

(完)