![]() |
![]() |
私がその子猫に気がついたのは、日曜日の朝の事でした。 「ねー、あなた起きてよ。猫よ、猫。」 「何だよ、朝っぱらから猫なんて珍しくもない。」 「ホラ、見てよベランダに野良よ。でも、2階までどうやって上がってきたのかしら。」 「どれ、いないじゃないか。」 「え、うそ、あ、ほら植木鉢の影にいるじゃない。」 「あ、いた。随分と小さいな。子猫物語だ。チャーハンだっけ。」 「チャランポランとか、そんな名前だったわね。なんか懐かしい。」 「ははあ、出られなくなったんだ。このベランダから。」 「はーい、ネコちゃんおいで、出してあげるよー。あなた、だめよ、怯えちゃってるわ、この子。」 「お前は動物から好かれないからなー。あら、ちっこいくせに威嚇してるぞ。」 「エサで釣れるかも、ほらほら、ツナ缶でちゅよー。」 「おい、シーチキンはもったいないよ。」 「ケチ臭いこと言わないの。はーい、ネコちゃーん。」 「ネコ相手に幼児言葉はやめろよ。」 「ダメ、近寄ってもこないわ。ちょっと皿を置いといてみるね。」 「随分と気を使うじゃないか。」
「おーい、朝メシは.......」 「そうね、残りでツナサンドでも。」 「なんか釈然としないなあ。」 「あ、ネコちゃん動き出した。何か跳ねてるわ。ねえ、あなたってば。」 「見りゃわかるよ。ありゃ、ベランダの柵を乗り越えようとしてるんだ。メシ食って元気出たかな?」 「あ、届くかしら、ああ、ダメねえ。ほら頑張って、もう一息なのに。」 「へー、ちっこいくせにジャンプ力あるんだな。」 「ああ、もう見ていてイライラする。ねえ、出してあげましょうよ。」 「ダメだよ、おれらには怯えてるしなあ。」 「そうだ、柵の横にジャンプ台をつければいいのよ。掃除機の箱がいいわ、ほら、あなた。」 「俺が置きにいくのか。もう、ほらあ、またネコが毛逆立ててるぞ。ちょっと、あっちへ行ってくれよ.....置いたぞ、文句無いな。」 「誰に向かって言ってるのよ。あ、ネコちゃん箱の上に乗った。うまいうまい、あ、飛び降りちゃった....バイバイ。」 「礼のひとつもない、あいそのないネコだ。」 「だって、しょうがないじゃない。猫なんだから。」 「でも、オレの朝メシを食って、オレが箱置いてやったから、外へ出られたんだぜ。」 「でも、いいことしたんだからいいじゃない。」 「そうか? 本人はひどい目に合ったと思ってんじゃないか? そして、そのひどい目の張本人はオレだと思ったりして。」 「あら、随分と細かいところ、気にするのね。」 「なんか、釈然としないような.....。」 「でも、私は知ってるわ、ネコちゃんにやさしいウチのダンナでちゅう。」 「えーい、幼児言葉はやめろ。」 ネコちゃんは、やさしいダンナと思ってる....わきゃ、ないよなあ。 |