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「おじいさん、こんにちは。」 「はい、こんにちは、かわいいお客さんだけど、さて誰だっけかなあ。」 「あの、僕ら、菱が丘団地に住んでるんです。」 「ああ、あの団地の坊やたちだね。」 「おじいさん、最近ちっとも団地に来てくれないね。」 「そうだよ、もう来る、もう来るって思っていたら、全然来ないじゃん。」 「うーん、実はねえ、わしはもう紙芝居は辞めたんじゃよ。」 「え、辞めちゃったの? そうか、じゃあしょうがないや。」 「カズキ、ちょっと待てよ。おじいさん、どうして辞めたんですか。僕たち楽しみにしていたのに。」 「そりゃ、本当かい? なんだか皆つまんなそうにしてたよ。」 「そんな事ないですよ。なあ、カズキ。」 「うん、塾の時間を気にしてることはあったけど、僕も紙芝居は好きだよ。」 「今の子供たちは、テレビのゲームの方が面白いだろう、ウチにも孫がいてね、この間見せてもらったが、テレビが人間みたいに受け応えするじゃろう。わしもテレビ番組には張り合う気力もあったが、あんなのを見ては、もう引退じゃよ。」 「そりゃ、プレステやスーファミは面白いけど、でも紙芝居も面白いよ。」 「どうしてかい?あんなにキレイに絵が動くし、言葉しゃべる時もあるじゃろう。」 「うーん、よくわかんないんだけど、おじいさんが来なくなってから、つまんないんだよ。」 「それに、ソースせんべいも。」 「最近の子供は変っとるなあ、あんなものがいいのかい。それに、わしのお話は古臭いだろう、黄金バットに猿飛佐助だしなあ。」 「古いって、僕ら初めてだよ、黄金バット。おじいさんの紙芝居見て、お父さんに話したら、お父さんもよく知らないって。」 「うん、ウチもソースせんべい、ママに見せても、てんで知らないんだ。」 「ははあ、坊やたちのお父さんやお母さんはきっと山の手の人なんじゃろう。」 「でさあ、黄金バットの話を学校でしたら、先生がすごいうれしそうにしたんだ。」 「うん、ホントだよ。先生がいいなあって言うんだ。」 「おじいさん、本当にもう来てくれないんですか?」 「お客が足りなきゃ集めてもいいし。」 「はっはっは、そいつはうれしいが、実は最近は足腰が弱くなって、自転車で団地まで行くのも大変なんじゃよ。」 「それじゃ、ここへ皆連れてきたら、紙芝居やってくれる?」 「カズキ、すごいぞ。そうだよ、おじいさん、10人まとめて百円ずつ持ってきたらやってくれる?」 「そりゃ、構わんが、水飴とせんべいを調達せんとな。」 「お父さん、それで結局何人集まったんです?」 「5人。少なくて、ごめんなさいって、えらい謝りようで。」 「最近の子供は新し物好きで、飽きっぽいからなあ。」 「聞いたふうな事を。子供は昔からそうじゃて。」 「でも、もうやらないんでしょう、お父さん。」 「いや、今度は塾の友達集めて連れてくるって言っとった。」 「今時、紙芝居なんて、面白いわけはないのに。最近の子供は何を考えているのやら。」 「子供の考えることなんか、昔からよくわからんわい。」 自分も昔子供だったんだけど、最近の子供は...... |