written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
時は近未来、人類は進化の節目を迎えようとしているのか、ミュータントと呼ばれる、様々な特殊能力を持った子供たちが数多く生まれてきて、並の人間にとっては、その数、そして能力は脅威と感じられるようになってきました。ミュータントは普通の人間にとっては脅威と差別の対象となり、ミュータントの中には人間社会に闘いを挑もうとするマグニートー(イアン・マッケラン)のようなのも現れます。一方、人間との共存を望むプロフェサーX(パトリック・スチュワート)は、ミュータントを集めてX-MENを組織し、マグニートーの野望を阻止しようとします。その闘いの中にまた新たに二人のミュータント、ウルヴァリンとローグ(アンナ・パキン)も巻き込まれていくのです。
原作はアメリカの有名なコミックだそうです。それを基に「ユージュアル・サスペクツ」「ゴールデン・ボーイ」のブライアン・シンガーが演出したということでヒネリの効いたドラマなのかなとも思ったのですが、本編を観てみれば、これが大変まっとうなヒーロー、ヒロインSFアクションになっていました。設定はかなりシリアスで、近い未来、社会にはマイノリティとして超能力を持ったミュータントがいて、彼らは人間社会の中で阻害されているというのです。しかし、その超能力は使い方次第では人間社会にとって脅威です。マインド・コントロールやテレキネシス、果てはローグのように他人の生命力を吸いとってしまう能力など、確かにその脅威を前にミュータントを隔離登録しようとする気持ちもわからなくもありません。
そんな中で、プロフェサーXはミュータントの子供たちの学校を作り、そして、その中から、X-MENを組織していたという設定は、なかなかに面白いのですが、その設定はこの映画の中では有効に作用してません。続編ができてくると、この設定を生かした展開も出てくるのかもしれませんが、今回はどうもシリーズものの第1作という印象でした。主要登場人物のキャラクター設定を丁寧に見せようという方に重きが置かれていまして、ストーリー展開は大変シンプルです。マグニートーのある陰謀を阻止しようとするX-MENという物語の中で、個々のキャラクターを説明していくシンガーの演出は大変オーソドックスで、過去の3作にあるようなケレン味といったものは一切ありません。むしろ、シリーズのパイロット版をきちんと1本の映画としても鑑賞に堪えるものにしたその手腕は、娯楽職人という方が似合っているかもしれません。
それは、ドラマとキャラクターのバランス感覚にも現れていまして、疎外されたミュータントの孤独を、殊更強調することなく、ウルヴァリンとローグの表情の中に表現することに成功しています。アクション映画としての見せ場もきっちりありまして、合成やらワイヤーワークやらを駆使して「マトリックス」を凌ぐスピード感で楽しませてくれます。でもユニフォーム、アクション、光線ワザと、これは「ゴレンジャー」に始まる東映戦隊モノの豪華版だということができます。ミュータントの悲哀は「仮面ライダー」みたいですし、結構日本の特撮もののエッセンスが詰まっていて、私のコミックに興味のないオヤジでもある種の懐かしさを感じながら楽しむことができました。
役者では、ウルヴァリンを演じたヒュー・ジャックマンがかっこいい他、生真面目にプロフェサーXを演じたパトリック・スチュワートと、敵役をコミカルな味わいを持たせた名優イアン・マッケランとのコントラストが楽しく、またファムケ・ジャンセン、ハル・ベリー、それにアンナ・パキンちゃんといった女性陣が魅力的でした。マイケル・ケイメンの音楽がこういう映画にふさわしい重厚なオーケストラサウンドを聞かせてくれます。
お薦め度 | ×△○◎ | 設定はともかく役者のよさでなかなか見せる。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 意外や娯楽職人監督の腕前が光りました。 |
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