ひかりのまち
Wonderland


2000年10月09日 東京 シネライズ渋谷 にて
ロンドンを舞台に描く人間群像、結構ダメダメな人々。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


ロンドンのバー、ナディア(ジナ・マッキー)は伝言ダイヤルで知り合った男とのデートを途中で逃げ出してしまいます。ナディアの妹モリーは臨月なんですが、夫のエディはどうやら会社をやめたらしいです。ナディアとモリーの姉デビーは離婚したもとダンナに息子を送り出すのですが、これがまるでダメ男で、デビーは気が気ではありません。三姉妹の両親の仲は冷え切っていて、父親は何もしないで日を過ごしていて、母親からは完全になめきられています。何だかロクなことなさそうな家族の週末が描かれていくのですが、果たしてその結末はいかに?

「バタフライ・キス」や「日陰の二人」などで知られるマイケル・ウィンターボトム監督作品です。結構作家性の強い映画を撮る人らしいのですが、「アイ・ウォント・ユー」のような娯楽映画としても面白い映画も撮っています。今回はいわゆる群像ドラマとも言うべきもので、一つの家族を中心として人間の悲喜こもごもを並行して描いていきます。昔ならグランドホテル形式、今だとマグノリアパターンとでもいうのでしょうか。ただし、それほどドラマチックな展開はなく日常の1コマを切り取るような作りになっています。

全編をほとんどロケでかつ16ミリフィルムで撮影したからでしょうか、人間のドラマ部分は、ドキュメンタリータッチでそこが娯楽映画っぽくない、芸術映画風の作りになっています。一方、要所要所に街をコマ落しや画質を加工するなどして人工的にとらえたインサートショットが入ります。そのバックにはマイケル・ナイマンの印象的な音楽がかぶさります。このあたり、その昔にみた異色ドキュメンタリー「コヤニスカッティ」を思わせるものがありました。原題が「Wonderland」ですから、ロンドンという街を幻想的に捉えることに何らかの意図があるのかもしれないです。

また、様々な登場人物がまず画面に現れてから、しばらくしてその人間関係が見えてくるという構成になっていまして、ラスト近くまで、「誰だこいつは」という連中のドラマも並行して描かれています。別にミステリータッチで引っ張る映画ではないのですが、最後に全てのパズルのピースが埋まるという作りが、面白いけど不思議な感じでした。普通、登場人物の紹介は映画の冒頭でされるのが普通だと思っているのですが、それを隠しておかれると、最初から言えばいいじゃんという気になってきます。

さて、一方の人間ドラマの方は、思うところをうまく伝えられない人々の右往左往という印象です。冒頭の、伝言ダイヤルで出会った男性とナディアのぎこちない会話からして、何だか意思疎通の動脈硬化を感じさせます。その両親の冷めきったやりとりも、何だか悲しいのです。離婚したデビーと新しい恋人との甘い会話のようでどこか虚ろなさびしさ、妻のモリーに仕事をやめたことを伝えたくてもできず、独り言のように言葉を繰り返すエディの情けなさ、こういったエピソードの積み重ねが、ダメな人はダメだよねという気分にさせてきます。滑稽なようだけど悲しいよねという感じでしょうか。それがラストの一本の電話でささやかに救われた気分になるのは私だけでしょうか。誰から誰へ向けての電話かは劇場でご確認頂きたいのですが、ほんの一言だけの留守番電話がこの映画の大きなキーポイントのように思えました。

しかし、この映画に登場する男性陣は女性陣に比べると情けない連中ばかりなのはなぜなのかしらん。男というのは基本的に自分の考えや思うところを他人に伝えるのが下手だということになるのかもしれません。あるいは自分の弱さをストレートに表現出来ない、虚勢を張るか、極端に甘えるかしかできないのかなとも思ってしまいました。私も男性の一人ですが、これらのダメ男たちに共感はしないまでも理解してしまうところがありました。カップルで観て、その登場人物への共感度を語り合うのも面白いかもしれません。


お薦め度×加工された映像とドキュメンタリータッチが不思議な味わい。
採点★★★☆
(7/10)
だからどうしたという話がなんとなく後味よろし。

夢inシアター
みてある記