written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
19世紀のとある村、そこには、コミュニティの秩序を司る年長者グループがいて、彼らによって厳しい規律ある生活が行われていました。村の外の森には怪物がいて、時には村に入ってくることもありましたが、村人が森に入らないことと肉の捧げモノをすることで、バランスが保たれていました。村の若者ルシアス・ハント(ホアキン・フェニックス)はそんな秘密と掟に満ちた村のあり方に不満を持ち、怪物のいる森の向こうにある町へ行きたいと年長グループに申し出るのですが、それは却下されてしまいます。ルシアスの幼馴染アイヴィ(ブライス・ダラス・ハワード)は目が不自由でしたが、普通の人には見えない何かを感じ取る能力を持っており、そして、ルシアスを愛していたのでした。一方、森の怪物が村の中に入ってくるようになりました。村人と森の怪物との間の協定が壊されてしまったのでしょうか。そして、ルシアスとアイヴィの二人の愛の行方は?
「シックス・センス」や「サイン」で有名な、M・ナイト・シャマラン脚本監督による最新作です。この人は一風変わったプロットに意外な展開で観客を楽しませる人で、そのためには映画の作りに仕掛けを入れたりして、普通のミステリーとしては反則すれすれのことをやったりもします。「サイン」なんて、物語のキーが何かというところに仕掛けを入れて、楽しませてくれたのですが、今回は、意外性はあるものの、ミステリーとしては大変まっとうな作りになっておりまして、ドラマとしても見応えのあるものになっています。
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この先は物語のオチに触れる部分がありますので、未見の方はご注意下さい。
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今回の舞台となるのは、イギリスかどこかの19世紀の村でして、大変、秩序だったコミュニティの姿が映し出されます。ロジャー・ディーキンスのキャメラは、しっとりとした落ち着きのある色使いでこの映画の空気を支えています。でも、村の掟はかなり変でして、村の向こうの森には怪物がいて、村人は森に入ってはいけない。赤い色は怪物を呼ぶから土に埋めないといけない。村の最高権力は年長者グループでその権限は絶対です。どうやら、年長者たちは、この村の秘密を知っているらしくて、それがミステリーの核になります。ウィリアム・ハートを筆頭にした年長者グループの存在感がドラマの鍵になるのですが、宗教がかっているわけでもなく、大真面目に森の怪物の存在を信じ、怖れているというところに説得力を出すことに成功しています。
後はその秘密をどう見せていくかというところが、シャマランの腕となるのですが、ここは基本はホラー仕立て。でも、そのサブプロットとして、ルシアスとアイヴィの恋愛模様を出してきます。あまり表情を表に出さないルシアスと、目が不自由でも明るいムードメーカーのアイヴィのカップルの描き方は大変ストレートで、この恋愛には裏とか仕掛けはないという見せ方をしています。また、後半、ルシアスの為に森に入っていくアイヴィの姿にある種の神々しさを与えるのにも一役買っていまして、演じたブライス・ダラス・ハワード(ロン・ハワードの娘だそうですが、言われてもわからないくらい似てない。)が素晴らしく、森に入ってからはほとんど一人芝居になるのですのですが、観客をドキドキハラハラさせてくれます。ですが、このラブストーリーが成就すると、村の秘密が皆の知るところにもなり、町の人間が村へやってくることにもなりかねません。
そのあたり、この物語にどう決着をつけるのかと思っていたのですが、ヒロインが盲目であるという設定をフルに活用して、うまい落し所を見つけたという感じです。今後、このコミュニティがどうなっていくのかというところまで感じさせてくれたらドラマ的にさらに奥行きが出たのですが、とりあえず、映画はこの設定をどううまく面白く語るかというところの重きを置いているので、そこまでには至りませんでした。でも、そこまでやったら、近代から現代へ向けてのコミュニティの変遷という大きなテーマになっちゃいますからね。意外なオチとラブストーリーの成就にまとめたのは正解だったのでしょう。ヒロインの頑張りにはホロリとさせられるところがありましたもの。
今回のシャマラン監督は、物語の語り口としては真にストレートでして、隠された秘密はあるものの、その見せ方で観客をミスリードすることはしていません。特に中盤以降はドラマの中心を「恋人の命を救うために自分の命を懸ける盲目のヒロイン」に置いて、ドラマの仕掛けの部分に頭を悩ます余裕を与えない演出は見事でした。その分、これまでの、シャマランらしさは少ないです。ルシアスとアイヴィのラブストーリーへ話を持っていくのは、そういう仕掛けなのかとも思ったのですが、この部分はきちんとドラマの核になっていましたし。物語の核を、最初から最後まで、村の秘密に置いた構成もストーリーの見せ方としてはマトモなやり方と言えましょう。また、シャマランの次回作が楽しみになりました。
終盤近くで、村の秘密の一部をまず見せて、その後、もう一段先の秘密を見せるという構成も成功しています。映像的には、わざと視野を狭くした絵で観客の不安をあおるといった古風(なのかな?)な手法を使って、スリルを盛り上げたり、森の中の描写をドキュメンタリー風にしたり、仕掛けのわかった後の見せ方にも気を配った後が伺えました。
お薦め度 | ×△○◎ | シャマラン映画の中では、刺激少なめで、ドラマチック度高し。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 映画のレベルではそうでもないのかもしれないけど、こういうの好きなもんで。 |
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