エステサロン ヴィーナス・ビューティ
Venus Beaute (Institut)


1999年11月22日 東京 渋谷ル・シネマ1 にて
フランスのエステサロンを舞台にした中年女の恋の顛末。


written by ジャックナイフ
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エステサロン、ヴィーナス・ビューティはなかなかの賑わいです。店のキーマンのアンジェル(ナタリー・バイ)は齢40のベテランエステシャン。独身で、知り合った行きずりの男とすぐ寝てしまうようなタイプです。昔の彼氏らしいのもいるのですが、これも何やらいわくありげで、アンジェルって激しい気性とプライドの持ち主らしいです。そんな彼女の前に現れたアントワーヌ(サミュエル・ル・ビアン)という若い男が、彼女に突然愛の言葉をささやきます。最初は相手にしてなかったアンジェルですが、その年下男の純な想いに心が揺らぎはじめます。しかし、アントワーヌには婚約者がいました。ちょっと本気の恋に悲喜こもごものアンジェルが最後に手に入れるものは?

フランス映画というと色恋沙汰が生活感を離れて、恋愛だけの世界に突入してしまうという先入観(偏見と言ってもいいです)があります。うかつに触ると火傷どころか全焼しちゃいそうな気性の激しさがあるように思えてならないのです。それともあまりにも恋愛感情が日常化しているのかな。つまり、恋愛感情ってのは日本人から見れば、非日常、言いかえればハレの世界です。ところがフランスでは恋愛感情ってのは日常、つまりケの世界なのかもしれません。

この映画のヒロイン、アンジェルもいい年だけど、レストランで自分から男に声をかけてベッドの誘いをかけるし、ちょっといい感じになって、今度は相手が引いてしまうと、なんだテメーはと啖呵をきるし、私からすれば、どう見てもお近づきにはなりたくないタイプの女性です。よくよく見ればそれは孤独な彼女のツッパリでしかないのですが、それに付き合わされる男の方はたまりません。これが男女逆だったら、きっとナンパ野郎のサイテー中年と言われるのではないかしら。それはさておき、そんな彼女に一目惚れしたという若い男が登場するのですから、恋は魔法か、はたまた映画はマジックか。でも、彼女のルックスは確かに魅力的で、40年の年月がうまく積みあがっています。しかも、要所要所できっちりかわいいのですよ。脚本・監督のトニー・マーシャルは最初からナタリー・バイをイメージして脚本を書いたそうですが、アンジェルという女性の複雑なキャラクターと設定が、バイと非常によくマッチしているように思いました。ライトの当て加減によって、若い小娘にもおばあさんにも見えるあたりは、うまいと思いました。そうか、そういう年代なんだなあって、セリフじゃなくて、視覚的にわかるのが大し

たものです。ふと人生に一呼吸置きたくなる年齢だけど、それでも自分の中では現役なんだという思いもあるし、でも燃える恋よりも生活の落ち着きに心を引かれてしまう。そんなヒロインをナタリー・バイが下世話にならないプライドを持った女性として演じきりました。

この映画は、協賛がたかの友梨ビューティクリニックというだけに、単なる恋愛ドラマではなく、エステサロンの映画でもあります。パリのヴィーナス・ビューティという名前のサロンが舞台でここへやってくる色々なお客さんのスケッチもなかなかに楽しく笑わせてくれます。私のようなオヤジには縁のないエステサロンですが、この映画のヴィーナス・ビューティが、パリの人通りの多い通りの角にあるというのが意外でした。どうも、日本だと雑居ビルの4階とか5階にちょっと人目を避けてあるというイメージがありまして、こういうオープンな店構えでエステサロンだというのは、なかなかに新鮮でした。昼間は自然光で十分なくらいウィンドウが大きくて、全体に明るいのも好感が持てました。これは敷居が低くていいなあと。多分、エステサロンといっても、フランスと日本では捉えられ方も社会的地位もずいぶんと違うのでしょうね。(どうもエステってキャッチセールスの悪いイメージがあるのですが、これは個人的な先入観なのでしょうね。)日本の場合、何か目的を持たないとエステって行くきっかけがないのですが、こちらは、美容室と同じ気分でエステへ行くみたいです。

エステサロンを舞台にした、浮世床みたいな面白さもある映画ですし、あちらのエステのあり方を知る上での材料にもなります。そして、一人の中年女性の恋心の揺れ動く様を描いた恋愛映画でもあります。色々なところから楽しめる映画になっています。エステサロンをめぐる人々は役者がみな達者なのか、リアリティと面白さのバランスがうまく取れています。特に、若いエステシャンを演じたオドレイ・トトウのかわいらしさと、アントワーヌの婚約者を演じたエレーヌ・フィリエールのボーイッシュな魅力が印象的でした。


お薦め度×こういう小品を映画館で観るのってちょっと贅沢気分でマル。
採点★★★
(6/10)
本当のバイは50歳、うーんうまく歳とってる。

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