アンブレイカブル
Unbreakable


2001年2月10日 神奈川 シネプレックス平塚シネマ8 にて
事故に遭っても無傷な彼って選ばれた人なの?


written by ジャックナイフ
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スタジアムの警備員をしているデビッド(ブルース・ウィリス)の乗り合わせた列車が転覆事故を起こします。彼を除く131人は全員死亡、なのに彼だけはかすり傷一つありませんでした。そんな彼に接近してきたのはイライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)という生まれつき骨に障害のある男。彼はアメコミの収集家であり、彼が言うには、デビッドには何か特別な力があるのだそうです。そう言えばデビッドには自分が怪我とか病気の記憶がありません。ひょっとして自分は他の人とは違うのかもしれないと思い始めたデビッドに、イライジャは彼には使命があるのだと言い出すのですが.....。

「シックス・センス」で泣かせるホラーを撮ったM・ナイト・シャマランが製作・脚本・監督を手がけた作品です。予告編では、主人公が列車転覆事故の唯一の生存者であることが不気味な雰囲気で語られ、かなり期待させるものになっています。ふーん、列車転覆事故の謎にまつわるスリラーらしいということで本編に臨んだのですが、のっけに「アメリカのコミック人口がどうたら」「マニアが何冊のコミックを持ってる」とかいう字幕が出て、「何じゃこりゃ?」と思ったところでさらにデパートでの赤ん坊の出産直後のシーンになります。その赤ん坊が普通の生まれ方をしてないというところで、やっと話が列車のブルース・ウィリスへと移ります。このようにのっけから謎を振ってくるあたり、かなりミステリータッチの濃い展開を期待させます。

ところが、その列車のシーンも事故の前のデビッドをかなりエンエンと映し出します。そして、転覆シーンは直接見せず、次は病院で質問を受けるデビッドをまた丁寧に描写します。妻と息子が迎えに来ますが、デビッドと妻の関係は冷え切っていて、息子もどこか尋常でない様子。そこからは、何か秘密ありげなデビッドの生活が静かに淡々と描かれます。そこへインサートされるのが最初の出産シーンの主人公イライジャの過去、その彼がデビッドに接触してくるのです。ところが、こいつがかなり変な奴で、いわゆるアメコミオタクなんです。アメコミが歴史を語る文化だとか、デビッドはアメコミのヒーローのような存在なのだと言い出すのです。

確かにデビッド自身も自分には普通じゃない部分があることに気付いていましたが、それは彼にとって何を意味しているのかデビッド自身には理解できていませんでした。自分に対する信頼や自信を失いつつあったデビッドにとってイライジャの言葉は特別な響きを帯びてきます。彼は何かによって選ばれた存在なのだ、ってえのも、新興宗教の勧誘みたいですけど、デビッドの場合はそれを言えるだけの客観的な事実があるのです。そして、デビッドはイライジャの言葉によって自己の再構築を試みます。夫婦の関係、親子の関係も修復されていくように見えます。このあたりの展開も実に淡々と、そしてゆっくりとしたもので、いわゆるたたみかけるテンポといったものとは無縁なのが、シャマラン演出なのでしょう。ショックシーンとか息詰まるサスペンスといったものもありません。確かに、意味ありげなシーンが多すぎるのは今イチなのですが、ブルース・ウィリスが「キッド」とは打って変わって抑えた演技に終始するのが見物です。また、奥さん役のロビン・ライト・ペンはピッタリのキャスティングと申せましょう。

しかし、映画はそれだけでは終わりません、なぜアメコミにこだわったのかという理由もラストで判明するのですが、そこは劇場でご確認下さい。超自然的な能力も、人の心の闇の前では、無力なように見えてくるのが不気味な余韻を残します。

人は自分の存在理由というのがわからないと、それが苦痛になってくるものなのでしょうか。私はそうは感じないのですが、この映画のデビッドは、確かな自分というものを実感できないために、心をオープンにできないようなのです。妻ともうまくいかないし、息子はかなり変な育ち方をしてます。なぜ、そうなったかは映画の中では語られないのですが、デビッドは生きる屍のような人生を歩んでいるようなのです。奇蹟の生還でさえ、彼にとっては大した意味を持っていません。それが、イライジャとの関わりの中で、自分の存在理由、そして自分のすべき事が見えてきます。そして、それによって彼は救われて、家族も救われるのですが、この自己覚醒は、自分探しの能力開発セミナーのようであり、また、新手の新興宗教のようでもあり、大変胡散臭いものを感じさせます。デビッドは、段々とイライジャに対して一目置き、信頼感を抱きはじめるのですが、そういうものにすがってしまうほど、彼は弱い精神状態にあったようなのです。そういう弱さを秘めて日々を送っている人間が結構たくさんいるんじゃないかと思わせるところにこの映画の不気味さがあります。確かにデビッドには凡人にはない特殊な能力があるのですが、彼の精神状態はかなり普遍性を持ったものだといえそうです。イライジャやデビッドの息子にもそのケがあるんですから。

全体を寒々とした絵作りで、ドラマの雰囲気を作った、エドゥアルド・セラのキャメラが見事でした。また、このつかみどころのなかなか見えてこない話にミステリアスな効果を出した、ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽も聞き物です。


お薦め度×超自然スリラーだけど、一番怖いのは人間の心。
採点★★★☆
(7/10)
観てるものの期待を裏切りながら不気味な展開を見せます。

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