written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ギリシャは、今や周囲の国々を従えて一大帝国を築こうとしていましたが、難攻不落の城で守られたトロイはまだ落とすことができないでいました。そんな折、トロイの王子パリスがスパルタの王妃ヘレンと駆け落ちというか、さらって自国に連れ帰ってしまいました。ギリシャの国々は大船団を送り込み、これを口実に一気にトロイを滅ぼそうとします。そこには、扱いにくいけど勇者としてその名も高きアキレス(ブラッド・ピット)もいました。一方のトロイも勇者ヘクトル(エリック・バナ)のもと、そう簡単には陥落しません。もとはと言えば、不倫の駆け落ちから始まった、ギリシャ中の軍勢を巻き込む大戦争の行き着く先はいかに?
「トロイの木馬」とか、「トロイのヘレン」というキーワードで有名なトロイ戦争の映画化です。いわゆる神話の世界と歴史がごっちゃになったような設定の中で、人妻と若造の駆け落ちに端を発して、何万人も巻き込む大戦争になってしまうという、現代の視点からは真に理不尽なお話。でも、昔話としては、いかにもありそうな展開を、豪華キャストを使って、ウォルフガング・ピーターセンが重量感のある演出で、2時間半の映画に仕上げました。
物語の主人公となるのは、勇者アキレスと名将ヘクトル、相対する立場の二人を中心に物語はドラマチックに展開していきます、と、言いたいところなんですが、この二人に関わる部分があまりドラマチックではないのですね。むしろ、個々人よりも、ギリシャ連合軍と、トロイ軍、あるいはトロイ市民といった集団の視点からのドラマの方が印象に残る作りになっています。集団戦闘シーンが長いからかもしれませんが、全編に渡って、殺し合いばっかやってる映画なんですよ。そのスペクタクルとしての見せ場は、大人数のエキストラにCGを加えた見事な出来栄えでして、トロイ上陸シーンの迫力、トロイの木馬の重量感、そして、トロイの街が焼き尽くされるシーンなど、力の入った演出で見ごたえがありました。決して残酷シーンを並べた映画ではないのですが、その戦闘(=殺戮)シーンの多さは、昔話の距離感よりも、現実の戦争のイメージへと直結してしまいました。アメリカのブッシュが仕掛けたイラク戦争で、遠くのイラク市民が殺されていく図がだぶってしまうのは、この映画の必ずしも望むところではないのかもしれませんが、結局、小さな引き金から、大きな欲が動いた結果、弱い人々が踏みにじられるという、現代的な戦争観を感じさせる映画になってしまいました。
それは、主要登場人物が、遠い昔話を支えるほどの力を持ち得なかったからかと思いました。やたらと、カッコつけて登場するアキレスや、悩むヘクトル、ヘレンといったメインキャストが、子を思うプリアモス(ピーター・オトゥールが圧巻)や、夫を慕うアンドロマケといった脇のキャラに負けてしまっているので、歴史ドラマというよりは、戦争に振り回される人間のドラマが前面に出てしまったようです。その他にも、ギリシャ軍のトップ、アガメムノンは大変単純で人間的で、ジョージ・ブッシュとキャラクターが重なるところがあり、ブライアン・コックスの力演もあって、野望に燃えるリアルな戦場の司令官になっていました。
ラストでのトロイの木馬の件では、アキレスは木馬の中に潜んでいて、何をするのかと思っていたら、惚れた女を助けに行くという、登場シーンのカッコよさからはかなり離れた行動をとってしまうので、結局、彼はヒーロー足りえていません。片や、貧乏くじを引いた感のあるヘクトルも、自分の妻に抜け道を教えておくことしかできないのです。アキレスにしても、ヘクトルにしても、自分の感情をストレートに出すシーンがないので、その分かっこよさはあっても人間としての奥行きを欠いたというところでしょうか。万感の想いを込めて戦場に臨むといった腹芸には、ピットもバナも若いということなのかもしれません。というわけで、主要登場人物に感情移入しにくいので、結局、脇のトロイ王プリアモスとか、全てを冷静に見つめる語り部としてのオデッセイア(ショーン・ビーンが儲け役ながらいい味を出しました。)に目が行ってしまうということになりました。
ジェームズ・ホーナーの音楽は、ペーターセンの前作「パーフェクト・ストーム」でメリハリを欠く垂れ流し音楽になってしまったのに比べると、起伏のあるストーリーをうまくサポートしていますが、戦闘シーンの多いドラマでは、やはり単調になってしまうきらいはありました。特にメインテーマに歌詞をつけた主題歌がエンドクレジットに流れるのは今イチでして、せっかくのドラマに安っぽい後味を残してしまいました。
お薦め度 | ×△○◎ | 戦争の張本人のキャラが薄いってのは狙いなのか、演技者の限界か。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 殺戮を前面に出したドラマ作りは今風なのか、でもどこか後ろめたくて。 |
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