written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
フランスの古戦場の発掘現場で見つかった文書から、考古学者ジョンストン教授の直筆の「助けてくれ」というメモが発見されて、息子のクリス(ポール・ウォーカー)をはじめ発掘チームはびっくり。発掘のスポンサーであるITCという会社へ行ったところ、そこでは物質転送装置の開発中、偶然14世紀のフランスへつながるワームホールを見つけてしまい、教授もそのホールを通して14世紀へ行ったきり行方不明になったのだと言います。そこで、アンドレ(ジェラルド・バトラー)をはじめとする、当時の歴史にくわしい発掘チームの面々が、転送装置を使って14世紀のフランスへ教授探しに旅立つのでした。しかしそこは英仏百年戦争の真っ最中。果たして時間旅行に旅立った若者たちは無事に帰ってくることができるのでしょうか。
マイケル・クライトン原作というのがひとつの売りだそうですが、一口にマイケル・クライトン原作の映画と言っても、「アンドロメダ」から「コンゴ」まで出来不出来色々ありすぎて、何とも言えないところがあります。ただ、監督がリチャード・ドナーだということでそれなりの娯楽作品に仕上がっているだろうという期待はありました。特に、14世紀のフランスを舞台にしている部分は予告編で観ても、なかなかに迫力ある見せ場になっているという期待を持たせるものでした。しかし、本編を観てみると、「コンゴ」「ジュラシック・パーク」に近い、共感できないキャラ競演のドラマ的にも薄い映画になっちゃっていました。
遺跡の発掘現場から、時間旅行へと話が展開するのは、「スター・ゲイト」を思わせるのですが、こちらはどうも慌しい展開でして、時間とか歴史のロマンより前に、時間旅行なんて初耳の若者たちが無理やり過去に行かされてしまうという、何とも強引な導入は、まあ、後半にドラマを盛り上げるための時間の節約かとも思ったのですが、このオープニングの行き当たりばったり展開はラストまでそのまんまなのでした。ジェフ・マグワイアとジョージ・ノルフィによる脚本は誰を中心にしてドラマを引っ張るのかということも放棄しているみたいで、過去へと飛んだ主人公たちは、てんでばらばらに考え、行動し、ラストまで、誰が主人公なのかもわからないという構成なので、ドラマ的に盛り上がる部分のない紙芝居になってしまったようです。主人公であるはすのクリスは自分の意思表示をする機会もなく、時を超える恋愛はアンドレが引き受けるのですが、その恋愛が全体の足を引っ張ってしまい、体を張って活躍するクリスの恋人も目立ちきれず、14世紀のヒロインは役に立たないという、ドラマとしてどこに重心があるのかわからない展開になってしまっているのです。そもそも、大学教授のジジイを助けるために、若い学生がゾロゾロ命がけで戦国時代へ行くというのが、説得力ないし、共感を呼ばないのですよ。せめて、過去へ迷い込んだのが若いヒロインだとか、歴史上の重要人物だとか言うのなら、もう少しドラマ的にも盛り上がるのですが、14世紀で死んでもどうってことのないじいさん一人のために、若い連中が何人も命がけの時間旅行しなくても、って気分になってしまうのです。それに、実際にそのための犠牲者が出てしまうので、余計目にその思いを強くしてしまいました。
また、キャストの地味さは、ねらったものだと、ドナーがインタビューで答えているようですが、これもまた、ドラマの盛り上げを欠く要因になったようです。キャラクターの一人一人をきちんと描きこんで、観客の共感を得る段取りを踏めていないので、アウトロー的なヒーローであるアンドレが、単なる自分勝手な気取り屋野郎にしか見えないのです。主人公である筈のクリスは映画の中でほとんど父親を心配しているようには見えないですし、ここではある程度タイプキャストでも、それなりのネームバリューのあるメンツで固める必要があったのではないかという気がします。
ただし、紙芝居にしては、その紙と絵には相当に手間とお金をかけています。14世紀のフランスの村とか、城といったセットは実物大で、リアルに作ってありますし、ケイレブ・デシャネルによる撮影はシネスコ画面を丁寧に切り取っており、またクライマックスの夜戦シーンをきちんと画面の隅々まで美しく見せることに成功しています。行き当たりばったりのB級活劇なお話なのに、絵だけは大変風格のある大作風の作りになっているのが、アンバランスと言えばアンバランスですし、その映像がぎりぎりのところで映画を救っているとも言えます。サントラマニアの間では、この映画の音楽を名匠ジェリー・ゴールドスミスが最初担当していて、土壇場で新鋭ブライアン・タイラーに変更になったことが話題ですが、映画を観てみれば、これはゴールドスミスにとってはよかったのかもしれないと思えてしまいました。タイラーの音楽はオーケストラをよく鳴らしてはいるのですが、明確なテーマが聞こえてこないので、映画を観ている最中、ほとんど耳に残りません。やはり、ヒロイックなテーマを流すタイミングのない冒険活劇というのは、作曲家にとっても不利な仕事ではないのかしらん。
お薦め度 | ×△○◎ | お金はかかってて、絵はきれいです、でもそれだけ。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 映画として、どこでつまずいたんだろうと考えさせる一編。 |
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