written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
湾岸戦争も停戦となり、アメリカ軍の陸上部隊はイラク軍捕虜の整理なんぞしてました。その捕虜の一人が持っていた地図を取り上げたら、これがどうもフセインがクウェートから奪った金塊のありかを示しているらしいのです。そこでゲイツ少佐(ジョージ・クルーニー)はこれをかすめとろうと3人の部下を伴って、部隊を抜け出し、イラク軍の陣地に向います。金塊そのものは割と簡単に見つかるのですが、その陣地でイラク軍と住民の対立に介入してしまったものですから、単なる火事場泥棒でいられなくなってしまうのでした。
湾岸戦争を舞台にした映画というと、友軍誤射の加害者の苦悩を描いた「戦火の勇気」がありましたが、今回の「スリー・キングス」は一応コメディ仕立てで、アメリカ軍の悪党4人の顛末を描いたものです。しかし、これがまともなコメディになるわけもなく、かなりブラックな味わいのアクションものになりました。まず、停戦協定が結ばれたあと、フセインが隠している金塊をかすめとろうというのは、どうもヒーローとは程遠い連中です。アメリカ軍だといって乗りこんでいく彼らにイラク軍はあまり抵抗しません。負けたんだから仕方ないというあきらめがあります。
その一方でイラク軍が反体制派の住民を制圧するときは、アメリカ軍の連中をまったくの無視状態というのが、リアルです。それはあくまで内政の話でアメリカ軍とは関係ないというのは確かにごもっともです。しかし、そのやり方にゲイツ少佐はその反体制派の人々を助けようと行動してしまいます。こうなると停戦中のイラクで、アメリカ軍の一部が勝手に戦争を起こしてしまったというとんでもないことになります。とはいえ、イラク軍の残酷なやり方を、黙って見過ごせなかったというのはヒロイックな動機ではあります。この映画は、その矛盾にどういう結末をつけるのかと思っていたのですが、娯楽映画の範疇にうまく落したという印象です。
そもそも、この戦争自体のありようが何かおかしいんじゃないかと作者は考えているようでして、なぜアメリカが参戦したのか、なぜイラク側が人でなしとして一方的に世界にプロパガンダされたか、アメリカがイラクに何をしたのかがきちんと報道されているのか、こういったことをアメリカの立場から描こうとしている点は高く評価されるものでしょう。また、それを単なる金目当ての軍規破りの連中の目を通して描こうとしているのが興味深いところです。とはいえ、アメリカ人を徹底的に悪者に描くことはできませんから、そのあたりはご都合主義も交えて、何とかアメリカ人の面目は保ったというところでしょう。
イラクの反体制派の連中が一方的に被害者で、イラク軍が単なる加害者だという図式が、そうではないかもと思わせるシーンもあります。イラク軍人の子供がアメリカの爆撃で死ぬというシーンを回想とはいえモロに絵にしたあたりは、アメリカ映画には珍しい見せ方と申せましょう。また、その一方でイラク軍の反体制派に対する残酷な仕打ちも見せますので、善悪の境界、いや善悪の存在すら曖昧になってきます。ラスト近く、西部劇の騎兵隊の如く登場するアメリカ軍も何が正しいことなのか、ワケがわからなくなってますし、報道機関は、軍や主人公たちにいいように扱われているだけです。
この映画で、特に気になったのは、報道機関の連中がほとんど軍の管轄下に置かれて、結局、情報操作があったんだなと思わせるところです。確かに戦場での取材ですから、軍の護衛がないと命が危ないのでしょうけど、ここでは完全に取材場所、取材対象も軍によってコントロールされてしまっています。これでは、報道という仮面を被ったプロパガンダだといわれても仕方ないと言えそうです。もともと戦時報道なんてそんなものだ、第二次大戦の時の日本のマスコミを見ろと言われてしまうと、確かにそうなのかもしれません。昔より、今の方が情報を得るルートは豊富になって、様々な視点からの情報を得ることが可能ではありますが、普段の生活している人間にとっては、新聞テレビが情報入手ルートになるわけですから、それが信用できる保証がないとなると、全ての物事を疑ってかかるしかなくなってしまいます。油まみれのペリカンは本物なのか、アメリカ軍の爆撃の犠牲者は何人いたのか、疑ってかかれば、いくらでも疑えるのですが、ずいぶんとしんどい時代になってきたという気もします。これも国際化の一つなんでしょうね、きっと。
映画は一応、アクションシーンもあって娯楽映画としての結末もあるのですが、どうもカタルシスにまでつながらないのは、色々と考えさせられるところが多いからでしょう。とはいえ、観た人によっては、スカっとするアクションとして楽しまれた方もいらっしゃるようですので、観方によって評価は様々になる映画のようです。ジョージ・クルーニーや、マーク・ウォルバーグはかっこいいのですが、こいつらが悪党から何時の間にかヒーローになってしまう、その変わり目が曖昧なのが、この映画の印象を曖昧にしてしまいました。
お薦め度 | ×△○◎ | かなりブラックな味わいは覚悟してね。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 主人公は一体どこで改心したんだろう? |
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