written by ジャックナイフ E-mail:64512175@people.or.jp
暗殺された石油王の娘エレクトラ(ソフィー・マルソー)には、かつてテロリストのレナード(ロバート・カーライル)に誘拐されたという過去がありました。そして、石油王を殺したのもそのレナードであり、さらにエレクトラの命を狙っているようなのです。石油王の個人的な友人であったM(ジュディ・デンチ)がエレクトラの護衛として、ジェームズ・ボンド(ピアーズ・ブロスナン)を送りこむのですが、彼女が建設しようしている石油パイプラインにレナードの魔手が伸びようとしていたのでした。
前回の007は、メディア王というマンガチックな敵役と、アクションするヒロインを得て、活劇の面白さを前面に出したものになりました。今回は、「ネル」「ボディ・バンク」などのシリアスドラマで定評のあるマイケル・アプテッドが監督するというのがちょっと意外でしたが、前作のロジャー・スポティスウッド監督作品とはかなり毛色の違う007に仕上がりました。でも、海の向こうでは大ヒットということですから、こういうタッチの方が向こうの観客には好まれるのでしょうね。日本で出回っている評判が今イチというのは、ここ数作の007のイメージとはかなり異なる作品になったことに対する苦情なのかなとも思ってしまいました。
今回の007は非情なスパイの顔を前面に出してきまして、前作のようなアクション中の茶目っ気といったものは一切出しませんし、敵方をあっさり殺してしまうプロというキャラクターになっています。また、今回はヒロインを演じるソフィー・マルソーのドラマでの比重が大変高く、敵役として登場するロバート・カーライルの影が薄いという印象でした。カーライルの演技も脇役に徹しているというように見えましたもの。それは物語がこのヒロイン主体のドラマになっているからだということができるのですが、さらに相手にする事件も、国際的秘密組織の陰謀というよりは、もっと個人的な事件という色合いの強いものになっています。
今回はアバンタイトルがかなり長くて、スペインからロンドンへと場所を移動し、ボートチェイスをたっぷりと見せてくれます。これが文字通り、上下左右にボートが動き回る迫力の追跡シーンになっています。特に追跡するボートを時にアップで、そしてロングで、さらに空撮で追いかけるなど、絵に工夫が凝らされていて、迫力ある見せ場になっています。以降のアクションシーンが、このオープニングにかなわないというのは今一つなのですが、後半はドラマ部分の比重が高くなりますから、バランスとしては取れていると申せましょう。
エレクトラが登場してからは、彼女とボンドのラブアフェアのようなものが物語のメインになってきます。かつて、誘拐された時に見張りを殺して逃げ出したというなかなかタフで勝気な女性を、ソフィ・マルソーが好演しています。色っぽさと娘っぽさの両方を併せ持つ彼女のキャラクターが、ボンドを翻弄するエレクトラ役にうまくはまりました。これまでのボンドの相手役の中では、演技実績ともに1ランク上のマルソーですが、確かにそのご指名がかかるだけの役になってまして、ボンドと互角に張り合う、映画のヒロインになっているのが見物です。また、最近の007にしては珍しく色っぽいシーンもありまして、かなり、ドロドロした愛憎のドラマが展開します。
一方で、もう一人のボンドの相手役として、「ビバリーヒルズ高校白書」「ワイルド・シングス」のデニース・リチャーズが原子力科学者役で登場します。こちらは、カラリとしたお色気が、マルソーと好対照を成していまして、彼女の存在がちょっと重いドラマ部分を華やかにしています。また、新兵器係りのQが後継者にバトンタッチするエピソードは、その後、Q役のデズモンド・リューエリンが亡くなってしまったことを考えると印象深いものがあります。その後継者がジョン・グリースだというのはうれしい趣向なのですが。
デビッド・アーノルドの音楽は、厚い音をめ一杯鳴らして、活劇部分を盛り上げています。主題歌もアーノルドが担当しているのですが、いわゆる唸り節というのでしょうか、「ゴールド・フィンガー」の系統の歌になるのですが、あまり耳に残るフレーズがなかったのが残念です。エイドリアン・ビドルの撮影はシネスコ画面をフルに活用しているように見えず、室内シーンなど上下が狭いという印象を持ってしまいました。
お薦め度 | ×△○◎ | ヒロインのソフィー・マルソーで見せる映画。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 全体としてはよくできた活劇、007としては変化球。 |
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