written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
宇宙のどこかで地球を狙っていた皆さんがある日突然攻撃を開始してきました。地中から現れた巨大なトライポッドから発射される怪光線は人間を一瞬のうちに消滅させ、街をがれきの山に変えてしまいます。クレーン運転手のレイ(トム・クルーズ)は、息子と娘(ダコタ・ファニング)を連れて逃げ回るのですが、何が起こっているのもよくわからないまま逃げ回る彼らは果たして生き残ることができるのでしょうか。
H・G・ウェルズ原作の映画化というと、1953年に「宇宙戦争」という傑作(と、私は思ってまして)を思い出しますが、それを、あのスピルバーグがリメイクするということでどういうものが出来上がるのか大変興味がありました。絶対的な強さで攻めてくる敵に対して、人類の存続はもはや風前の灯となってしまう、そういう世界を見事に表現した前作に対して、今回は、最初から最後まで、普通の一市民の視点からドラマを描くことで、一種のサバイバルドラマとなりました。
冒頭のナレーションで、宇宙から何者かが攻めてくるという説明がされるのですが、その後は、ドラマはトム・クルーズ扮するレイを中心に描かれます。これにより、一体地球規模で何が起こっているのかよくわからない状態で、レイのサバイバルが展開されることになります。軍隊も登場するのですが、どういう作戦で何をしようとしているのかはよくわかりませんし、地球上のどこが攻撃されて、どのくらいの犠牲者が出ているのかということもよくわからないのです。最初はテロかとも思うのですが、それにしては殺戮のやり方が尋常ではないのです。でも、奴らは一体何者なのかは、映画の登場人物には最後までわからないのです。映画の途中で、「ヒロシマのようだ」といったセリフがあるのですが、未知の兵器による攻撃を受けた広島市民と同じような立場にアメリカ国民(正確には人類全部)が置かれているのです。また、その姿は、劣化ウラン弾によって攻撃されたイラク市民にもつながるものがあります。そういう意味では右往左往するレイ達の姿は、戦時下で情報を持たぬまま攻撃の的にされる一般市民の姿を現していると言えましょう。
後半、レイが逃げ込んだ家に宇宙人が入ってきたときに、息を殺して見つからないようにするシーンや、宇宙人に対抗しようとする人間を押さえようとするシーンなども、よく戦争体験の話で出てきます。特に引揚者の話の中で、集団で逃げる途中、敵の兵士に見つかりそうになり、泣き叫ぶ自分の子供の口を押さえているうちに殺してしまったという話にも通じています。また、降伏か玉砕かという極限の選択といった戦争体験にもつながっているのです。そういう市井の人間の戦争時における葛藤や苦悩を描いているようなのですが、それがあまり実感として伝わって来ないのも事実でして、宇宙人の侵略と言うSFの設定の中で、リアルな戦争体験を再現するのには無理があったように思います。うんとデフォルメしてブラックユーモアのレベルにまでしてしまった「スターシップ・トゥルーパーズ」のポール・バーフォーヴェンに比べると、スピルバーグはマジメすぎるのかもしれません。
1953年の宇宙戦争には米ソ冷戦のイメージが重なっていたようですが、今回のスピルバーグ版には、理不尽な戦争に振り回される市民の姿をSFに重ねようとしているようなのですが、そのメタファーに力を入れすぎたのか、ラストの処理が唐突過ぎて、強引大団円という感じになってしまったのが残念です。特にラスト直前に、レイが敵のトライポッドに一矢報いるシーンがドラマの中で浮いていました。元々はなかったのを、主人公にヒーローとしての華を持たせるために強引にねじ込んだという感じなんです。おかげで、宇宙人の絶対的な強さが薄れてしまい、オチの皮肉も生きなくなってしまいました。
SFXの部分はもう見事が当たり前になってしまっているのか、観ていて「おお、すごい」というところまで行きませんでした。CGに慣れすぎちゃうってのも映画鑑賞の面白みがなくなっちゃうのかもしれません。昔なら、特撮や群集シーンが、それだけで見せ場になっていたのですが、今は「どうせCGなら何でもできるんでしょ?」てな冷めた目で、それらのシーンを観てしまうので、見せ場が見せ場にならないのです。何台ものトライポッドが丘の上から降りてくるロングショットはきれいだと思いましたが、それは映像技術というよりは、絵コンテ(コンセプチュアル・アートなのか)に感心してるようなものですからね。
あまり、いい評価がないんですが、その中でクールな絵作りをしたヤヌス・カミンスキーの撮影は見事でした。一方、御大ジョン・ウィリアムスの音楽がアンダースコアに徹していて、彼らしい聞かせどころがなかったのが残念でした。
お薦め度 | ×△○◎ | 前作とどうしても比較してしまって、見劣り感は否めない。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 後半がやけに長いように思えたのは私だけ? |
|
|