ヴァージン・スーサイズ
The Virgin Suicides


2000年06月24日 東京 渋谷シネマライズBF にて
乙女の自殺、なのに何だこの説得力は?!


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


25年前のアメリカの郊外のある町には厳格な両親に育てられたそれはそれは美しい5人姉妹がおりました。17歳から13歳からまでの姉妹のうち、13歳の末娘セシリアが手首を切って自殺をはかり、病院に運ばれます。そんな彼女の退院祝いに催されたパーティに日に彼女は再度トライして、見事に成就してしまいます。残った4人の姉も精神的に安定しません。母親(キャスリーン・ターナー)は厳格に彼女らをコントロールし、父親(ジェームズ・ウッズ)は理解者のような顔をしながら、結局は母親の管理に娘を委ねていて、そのどこか重苦しい空気が一家にそれなりの均衡を与えていました。ところが、長女のラックス(キルスティン・ダンスト)に学校イチの二枚目トリップがアタックをかけたことで、また新たな揺らぎがもたらされるのですが.....。

フランシス・フォード・コッポラの娘、ソフィア・コッポラの脚本監督作品です。アメリカのある一家に起こった悲劇を描いたドラマです。とはいえ、前半はまるでブラックなホームコメディを見るような感じです。自殺未遂の末娘が病院「どうしてこんなことを」と聞かれて、「あなたは13歳の女の子じゃないでしょ」と答えるあたりから、何か妙なおかしさを運んできます。キャスリーン・ターナーが貫禄で演じきった母親もかなりデフォルメされたキャラクターになっているようで、完全に一家に君臨する女王という印象です。一方の、父親はおっとりタイプの毒にも薬にもなりそうもない、いわゆる「使えない」タイプの父親です。いつもは、強烈な個性で観客を圧倒するジェームズ・ウッズがこの父親を神妙に演じているのが、また笑いを運んできます。

コッポラの演出は、一家団欒のシーンが見事です。とにかく、空気が重いのです。気まずいという類のものではありませんで、何かこう見えない枷が娘たちにつけられているような雰囲気、そして何より怖いのが、それが過去から未来までその枷がずっと外されることはないだろうという予感が見えることです。家庭の中がこんな空気では、ホントに外でよっぽど発散しないと、どうかなってしまいそう、そんな環境下でこの娘たちはどうなっちゃうのかしらと不安になりましたもの。その中で、長女のラックスは、両親の目を盗んで、男を次々とっかえひっかえしてそれなりに楽しんでいるようです。何だか17歳にして老成した感のあるラックスを、キルスティン・ダンストが見事に演じきっています。

ラックスに入れこんでしまうトリップという若者を始め、彼女たちの周囲にいる少年たちは、それぞれに善意の存在として描かれるのですが、少女たちに比べるとガキのイメージがあります。思春期の男の子と女の子では、やはり精神的に女の子の方が大人なのでしょうか。私はそんなことはないと思っているのですが、この映画の中では、少年たちが未来を模索している一方で、少女たちは人生を達観しているようなのです。

正直申しまして、この達観には私はついていけません。別に、未来に希望を持って生きなければいけないとも思わないのですが、だからといって、今が最高の時だと決めつける根拠もありません。でも、この映画のヒロインたちには、今だけがすべてであって、過去は無意味、未来には何もないように見えているようなのです。一種の決めつけ、思い込みなのですが、そう思う理由がよくわからないのです。確かに自我の目覚めでは、他人と違う自分を意識し、強いてはその他大勢とは違う特別な自分というイメージを作りやすいのでしょう。でも、本当はその他大勢と大差ない自分なのです。いつもバカにしていたクラスメイトと同じレベルの自分、並の人間でしかない自分との遭遇を、彼女たちは避けているように見えました。

そして、この一家の教育方針も、他の有象無象から、自分たちの娘を切り離していくようなものでして、ラックスが無断外泊したときなど、学校にも行かせない外出禁止令を母親は出します。正気の沙汰とは思えないのですが、それを甘んじて受ける(ラックスだけは男を連れこんでるようですが)娘たちも尋常な状況とは申せません。娘と両親が対立関係になりそうで、実はそうはならない、運命共同体のようになっているところが、ラストでかなり不気味な余韻を運んできます。

自殺の動機ははっきり言って謎です。この映画では、その謎を絵解きするのではなく、人間の心の深遠な部分は理解したつもりになっても、わからない部分があるのだと言っているように思えました。たまたま死んだのが若い娘だから、青春ドラマ風の構成になっていますが、中年サラリーマンの自殺でも、独居老人の自殺でも同じことではないかと思った次第です。

また、この映画では70年代のロック音楽が、ドラマのポイントになっているのですが、当時の音楽に疎くて、思春期に音楽に大きな影響を受けたことのない私には、このあたりの重みは読みきれませんでした。


お薦め度×若い女の子は見てその気にならないでね。
採点★★★☆
(7/10)
そもそも思春期というのがホラーな季節なのかな。

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