written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
女絡みの失敗でパナマに飛ばされた英国情報部員のアンディ(ピアーズ・ブロスナン)は、何か一山当てたい気分で一杯。情報活動の協力者として目をつけたのが仕立て屋のハリー(ジェフリー・ラッシュ)で、この男大統領gや官僚の服も仕立てる、なかなか顔の広い男。その上、借金に首が回らなくなっているのも引きずり込むのには好都合でした。でも、ハリーはもともと自分の出自を妻にまで偽っていた過去があり、また、今もその言葉にはささやかな希望やはったりがありました。その嘘が、ついにはアメリカを動かし、一触即発の状況にまで、世界を追い詰めていくことになってしまうのでした。
パナマというところには、当然パナマ運河があるのですが、これが国際的な交通の要所であり、そういう意味では、特別な土地ではあります。80年代後半からの、ノリエガ将軍による暴政で、多くの市民に犠牲が出たという事実もあり、その傷がこの映画の伏線になっています。そんなところにやってきたアンディはともかく何かでかい情報を掘り当てて、本国に一矢報いたいという気持ちがありました。そこで見つけたハリーという男はかなり使えるヤツだと思ったのが、本人の運のツキなのですが、もともといい加減な男であるアンディは、自分のしたことの責任なんてこれっぽっちも感じていません。やたら、女を口説くのうまいけど、実務はまるでダメな情報部員を、007のピアーズ・ブロスナンがやるというのがまずおかしいのですが、ブロスナンがなかなかのはまり役になっておりまして、この映画の狂言回し的なポジションを軽やかに演じきったのは、ちょっと意外でした。
監督はクセのある映画を撮るジョン・ブアマンですけど、この映画はジョン・ル・カレのスパイ小説を原作にして、ええ加減な情報に振り回される欲の皮の張った大使館や情報部のオヤジたちをコミカルに描きました。しかし、カギとなる仕立て屋ハリーだけは、単なる欲の皮の突っ張ったオヤジではないというところがこの映画の面白くも悲しきポイントになっています。ハリーという男は、多少虚言癖はあるけど、根は悪いやつではありません。むしろ、現代においては誠実なタイプと言えましょう。もともと仕立て屋を始めた経緯がウソから始まっているのですが、それとて事情のないわけではないのですし、友人への思いやりもあるし、妻や子供たちへの愛情もホンモノです。これっぽっちの誠意もないハリーやその上司、大使に比べたら人としてはナンボかマシなんですが、そんな彼の言葉が戦争寸前まで事態を悪化させてしまうのですから、恐ろしいといえば恐ろしい、でもマヌケだと言えば相当マヌケな話です。
とはいえ、この映画の中心となるのは、そのマヌケな世界情勢ではなくて、むしろ、戦争まで引き起こしそうになった仕立て屋の笑えるけど泣けるキャラクターにあります。ジェフリー・ラッシュがまたまた見事な演技でドラマを引っ張っていきます。それなりの善意と家族愛を持ち合わせていて、正義感もあるし、善悪の分別もあるそんな男が、借金や自分の過去をタネに脅された挙句に、周囲を巻き込む口からでまかせを言ってしまいます。これを受けたのが、左遷アホ情報部員のアンディでして、裏も取らずに本国に報告。それを受けた情報部のアホ上司が未確認情報のままで、1500万ドルという金を動かし、アメリカ軍まで動員してしまうのです。その動機は私利私欲ばっかという構図がかなり笑えまして、結局、事の発端となった仕立て屋が一番人間としてはマトモに見えてくるあたり、そして、スパイものが、いつのまにかホームドラマになってしまうあたりが見所と申せましょう。仕立て屋の奥方役にジェイミー・リー・カーティスが印象的でこの人も奥行きのある中年女性を演じるようになったのかと感心してしまいました。
お薦め度 | ×△○◎ | 面白うてやがて悲しきの味わいは捨て難い。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 役者のうまさもあってなかなか楽しめる一編。 |
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