written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
CIAのジャック・ライアン(ベン・アフレック)は恋人との関係が膠着状態でなかなか先へ進んでいません。そんな彼のもとにCIA長官ギャボット(モーガン・フリーマン)よりじきじきの呼び出しがかかります。ロシアで大統領が急逝し、新しくタカ派と目されるネメロフが大統領に就任したのです。核査察ということでロシアを訪問した、ギャボット達は、ロシアの核専門家が行方不明になっているという事実を掴みます。一方、核ミサイルの不発弾が何者かの手によってアメリカに運び込まれていました。ロシアの軍部がチェチェンで生物兵器を使用したことで、米露の緊張が高まってきたタイミングを狙って、米露で戦争を起こさせようという陰謀が進んでいたのです。
「レッドオクトーバーを追え」などのトム・クランシー原作、ジャック・ライアンシリーズの最新作です。とはいえ、前作までのハリソン・フォードからベン・アフレックに主役交代することで設定は家庭を持つ前のジャックということになっています。もともとジャック・ライアンはいわゆる調査屋でして、実際のスパイ活動や汚れ仕事は彼の本業ではありません。その姿勢は「今そこにある危機」でも明快でしたが、今回もヒーローではありますが、闘うヒーローではないというところにこの映画の面白さがあります。
彼の武器は情報であって、その情報を意思決定者にいかに正確に届けるかが仕事だと自分でも言いきっています。今回のクライマックスも、どうやって国際的な陰謀を追い詰めるのかではなく、その結果発生した世界戦争の危機をいかにして回避するかというところに置かれています。こういう核戦争の恐怖を題材にした映画(含むテレビ)は何本か観たことがあるのですが、実際にアメリカ国内で核によるテロが行われるという思いきった展開を見せたのは初めてと言えましょう。核によるテロをロシアの仕業と思い込んだアメリカは反撃に出ようとし、一方ロシアとしても、身に覚えのないことでも、実際に核爆発がアメリカ国内で起こっている以上、アメリカの出方をブラフとは到底思えなくなってきます。双方が引くに引けない状況となり、疑心暗鬼の中で核のボタンが押されてしまう、その説得力ある展開はかなり怖いものがあります。この映画の、恐怖が憎しみを呼び、理性を曇らせる、そんな題材を扱った点はかなり評価したいと思います。娯楽映画の中で、ここまで描いたというのは意外でしたし、全体的にアメリカに対するクールな視点が感じられました。アメリカンドリームをやさしく描いた「フィールド・オブ・ドリームス」のフィル・アルデン・ロビンソン監督の作品とは思えない展開を見せます。ちょっと英国のアラン・パーカーあたりが撮ったような印象を持ってしまいましたもの。特に、裏で汚れ仕事をする連中に敬意を表したような描き方が印象的でした。とはいえ、その汚れ仕事をヒーロー化せず、あくまでクールな政治の裏仕事という見せ方をしているあたりのセンスを買いたいところです。
とはいえ、娯楽映画としてのツボはきっちりと押さえていますし、中盤で核爆発に至る展開のスリリングさも見事です。日本の批評では、核爆発の描写が甘いというクレームが多いのですが、これは別に反核のプロパガンダ映画ではないので、そこまで描く必然性はないと思います。もし、そうだと、これから第二次大戦を扱った映画は全て「プライベート・ライアン」みたいな血みどろ描写が必須条件になってしまいますが、それでは、第二次大戦を扱った娯楽映画は作れなくなってしまうでしょう。この映画で肝心なのは、究極のテロ行為のさなかでも、正確で理性的な判断がとれるかというところなのです。そのギリギリのところで、どういう駆け引きがなされるのかというところがこの映画のツボになっています。でも、その駆け引きの最中でも、兵士たちはチェスの駒として消費されているという事実もこの映画は描いています。
米露開戦が秒読み段階に入ったとき、ジャックは最後の望みをある人間に託すのですが、このあたりも皮肉が効いていて面白いと思いました。また、彼をバックアップするペンタゴンの人間など、見せ方としては、基本的に人間の善意と理性に期待をつないでいます。それが楽観的すぎるのか、現実に重みを持った希望なのかは判断がつかないのですが、この希望こそがアメリカ映画の強みであり、娯楽映画なのだと思いたいところです。全てをシニカルに最悪の方向にまとめることもできるけど、そうしないのは、お約束だと言えばそれまでなのですが、そこに潜む希望への祈りの部分を無視できないと思います。
演技陣にいかにもな面々を揃えていまして、アメリカ大統領の側近のロン・リフキン、フィリップ・ベイカー・ホール、ブルース・マッギルといった面々が説得力のある演技を見せます。さらに、米露の汚れ仕事屋を演じたリーブ・シュライバーとマイケル・バーンの飄々とした味が印象的でした。
お薦め度 | ×△○◎ | サスペンスものの娯楽映画としてマル。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | クライマックスの盛り上げはお見事。 |
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