マーシャル・ロー
The Siege


2000年04月15日 神奈川 ワーナーマイカルみなとみらいシネマ3 にて
アメリカって国の正義は、国内限定みたいですね。


written by ジャックナイフ
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FBIのテロ対策部長のアンソニー(デンゼル・ワシントン)は、ニューヨークにおけるアラブ人テロリストたちの不穏な動きを察知します。「彼を解放せよ」という要求が何を指すのか調査を進める中、バスでの人質事件はバスごと爆破という最悪の結末となってしまいます。一方、ハバートの周りをCIAのエリース(アネット・ベニング)が何かを嗅ぎまわっているようなのです。彼女は中東にくわしいらしいのですが、どうも何かを隠しているようなのです。一方、テロは段々と過激度を増し、アメリカ政府はニューヨークへの戒厳令を検討し始めます。アンソニーたちはテロリストのアジトに踏みこみ、彼らを掃討するのですが、他の組織がまた動きだしたようなのです。ついに大統領は、戒厳令の布告を出してしまうのですが。

市民の安全を守る警察機構では対処できないような事態が発生したとき、軍隊が市内を制圧することをになるようです。この映画のケースは、テロリズムとそれによる脅威が、ニューヨーク市の都市機構をマヒさせてしまいます。それに対して、戒厳令により、軍はアラブ人の不穏分子と思われる連中を片っ端から捕らえて、一箇所に強制収容させてしまいます。ドラマの中でも、これは第二次大戦時の日本人の強制収容と同じだと語られるのですが、これは怖いです。現代のニューヨークにそういうリアルな映像を見せる、エドワード・ズウィックの演出は、一括りにできない正義を感じさせるものになっています。

アメリカの中に、テロリズムの脅威が発生したとき、それも外国からの脅威にさらされた時、もはや中立的な正義は意味をなさなくなってきます。アメリカという国家を守るための戦争となります。オープニングでサウジアラビアのアメリカ施設が爆破され、それに対して大統領が断固たる処置をとるというコメントが示されます。そして、テロの指導者を国外でアメリカ軍が拉致監禁してしまうところから物語は始まります。アメリカは、時として世界の警察みたいなことを言い出すことがあって、相手の国の言い分も自分たちの価値尺度でしか見ないというお国柄です。そんなアメリカが絶対的な正義と、自国の存亡の危機の両方に直面したときにどういう行動を取るべきなのかというところに目をつけたのは鋭いと思います。誰もがよりどころにできる正義なんて果たしてあるのだろうか、でもそれに近づこうと葛藤する主人公の姿勢には共感が持てます。でも、それは理想主義と言ってしまえば、それも事実で、テロを一種のゲリラ戦と考えれば、対抗上、疑わしきを隔離するというやり方もありなのかもしれませんが、ただ単にアラブ系に人だからという理由で強制収容するというのは、民主主義に反する行為です。彼らはちゃんとしたアメリカの市民なのですから。

では、もし、そのようなテロリストが大手を振って街を闊歩している状況を良しとしなければならないのかというと、実はそうなのだというところに思い至ってしまうのです。そして、テロを水際で防御するための国外での汚れ仕事も必要なのかもしれないということになってしまいます。この映画に登場するCIAのエリースはかつて中東で何かしていたらしいのです。一体、何をしていたのかは劇場でご確認頂きたいのですが、それは彼女にとって大きな後悔となっているようなのです。国内では、正義という言葉で単純に括れる思想と行動も、国外へ出れば、アメリカという国のエゴとしか見えないときは当然あります。しかし、強大な力を持つアメリカが自分たちの正義を他国に押し付けることで得られる力の均衡を否定することもできません。そんな中で、苦悩するエリースの立場は痛々しいものがありますが、その痛みを乗り越えて割り切ってしまえば、単なる国家エゴになってしまうというところが不気味でもありました。最初は、単に得体の知れない役どころだったエリースが段々とドラマの核になっていくに連れて、このドラマはドロドロとした様相を帯びてきます。アンソニーにシンプルに自分の正義を貫き通せる立場にいるのに反して、エリースは現実と倫理の葛藤に悩まされることになります。アネット・ベニングの生身の人間を演じきった好演により、ドラマはずいぶんと奥行きが出たという印象です。

また、ブルース・ウィリスが演じる将軍も不気味な説得力を持つキャラクターになっていました。国家の利益と威信のためであれば、手段をいとわない男を冷静に演じています。狂信的なキャラクターになっていない分、こういう人間が実際に軍の中枢にいそうな気がするのです。そんな彼が、テロリストの居場所を吐かせるためなら拷問もいとわないあたりの怖さは、昔観た「ミッシング」という映画を思い出してしまいました。チリのクーデターによる軍事政権下で行方不明になったアメリカ人を追うというお話でしたが、それと同じ状況にアメリカだってなる可能性があるというのですから、ずいぶん思いきった映画を作ったものです。エリースや将軍をもっと単純悪役にしてくれたら、この映画はもっと後味スッキリの娯楽映画になったのですが、ベニングやウィリスの好演もあって、かなり後味の悪い、考えさせられる映画になっています。


お薦め度×カタルシスは今イチですが、かなり怖い内容ですよ。
採点★★★☆
(7/10)
映像のパワーと説得力が余計目に不気味。

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