written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
金庫破りのベテラン、ニック(ロバート・デ・ニーロ)はクラブのオーナーでもあり、そろそろ足の洗い時と次に仕事で終わりにしようと考えてます。相棒のマックス(マーロン・ブランド)が持ち込んだ仕事は地元モントリオール税関の地下の金庫に眠るお宝です。税関の内部の手引きをジャック(エドワード・ノートン)という若い男が担当するのですが、こいつが身障者のふりをして掃除夫として税関に潜り込んでいるというなかなかの曲者。ニックとしては地元の仕事であり、かつジャックを今イチ信用できないことから気が進まないのですが、マックスの是非との誘いに重い腰を上げます。どうやって地下室まで忍び込み、そしてどうやって金庫を開けるか、綿密な計画が立てられていくのですが。
このところ、脇のキャラが多かったロバート・デ・ニーロが久々の完全に主役で、その脇をマーロン・ブランドとエドワード・ノートンが固めるというのが豪華で興味を引きました。ただ、現場で役者が監督(フランク・オズ)の言う事聞かないといったトラブルの話が先行していて、その出来栄えが気になっていました。そして、本編を観てみれば、これがなかなかよく出来た犯罪ドラマになっていました。金庫破りという地味な題材で、一人も人が死なないというストーリーながら、全編ダレるところがなく、要所要所でハラハラさせる作りになっているあたりは監督の手腕なのではないかしら。
設定としてはシンプルでその展開も極めてシンプルでして、金庫破りの話が持ち込まれ、それに対するプランが立てられ、情報が集められ、実行に移すという構成が、役者を揃えると退屈することなく観ることができました。下水道を伝って金庫の場所を確認するシーン、警報装置を解除するパスワードを入手するシーン、そして、実際の金庫破りのシーンなど、サスペンス演出は手堅く、きっちりハラハラさせてくれます。それは、主演3人以外の脇のキャラクターがきちんと描かれているからで、特に中盤の警報解除パスワードを入手するために公園で取引するあたり、取引相手のキャラをきちんと描いていて、サスペンスを増幅させることに成功しています。
ロバート・デ・ニーロは、人生設計を考えて行動するタイプという設定で、行動に一貫性があるので、犯罪者でありながら、感情移入できるキャラクターになっています。一方のエドワード・ノートン演じるジャックは、身障者のふりをして潜入するあたりから、ちょっと得体の知れないキャラクターになっていますが、ノートンがここで、キャラクターに得体の知れない深みをつけないようにしているので、物語がデ・ニーロ中心というスタンスを崩しません。このあたりのバランス感覚は演出のセンスなのでしょうか。最近のサスペンス映画のような、誰も信用できなくて、ずっと中途半端な気分で話が進むタイプの映画とは一線を画しています。そういう意味では、古風な娯楽映画の王道を行くつくりになっていると申せましょう。ハワード・ショアの音楽も、いつものような前衛的な現代音楽ではなく、ジャズタッチを前面に出したかっこいい音になっていることからも、それが伺えます。
マーロン・ブランド、さらには、デ・ニーロの恋人役で登場するアンジェラ・バセットがあまり見せ場を割り振られず、印象が薄くなってしまったのは残念ですが、これもストーリーを優先した結果だと言えば仕方ないのでしょう。一方で、デ・ニーロの部下とか、ハッカーといった面々がかなり印象的でして、彼らがドラマの中で、きちんと引き立つことで、物語としての面白さが増したことは事実でして、全体のアンサンブルがすこぶる快調なのです。とても、現場でもめた映画とは思えない出来栄えになっています。ただし、映画のストーリー自体は特に目新しいものはないですし、その結末の意外性もありません。それでも、結構面白いもの仕上がったのは、役者と演出のたまものではないかと思った次第です。
中でも面白かったのは、デ・ニーロは若い頃から、アブナイ橋を常に避けてやってきたからここまで来れたと、若いノートンに諭すシーンでした。何か若い頃やった、でかい山の話を聞かれたデ・ニーロが、そんなものはないと答えるあたりにキャラクターの奥行きが感じられ、この仕事を最後にクラブオーナーに専念しようという彼の決意に説得力が出ました。
お薦め度 | ×△○◎ | 手堅い作りと役者の面白さでなかなか見せます。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | これがお金を払って観る映画の標準レベル(であって欲しい)。 |
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