written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ブロードウェイのプロデューサー、マックス(ネイサン・レイン)の最近の舞台はコケてばっかりです。若い会計士レオ(マシュー・ブロドリック)の一言「金を集めてつまらない舞台を作ってこけた方が金が残る」に、ピンときたマックスは、レオも巻き込んで、最低の舞台を作ろうと思い立ちます。最低の脚本、演出、俳優を集めてみれば、脚本はヒトラー礼賛、演出はゲイとどう考えても当たりそうもないものになるはずだったのですが、これが意外やヒットしてしまうのです....。
コメディで有名なメル・ブルックスが1968年に作った映画を自らミュージカル化したら大ヒットしました。そして、それを舞台のスタッフ、キャストで再度映画化したというものです。ミュージカルの映画化というと去年「オペラ座の怪人」を観たのですが、リアルなドラマの中で突然登場人物が自分の想いを歌い上げるというのにどうにも違和感を覚えてしまい、今回の映画化にも不安がありました。しかし、観てみれば、その予感はいい方に裏切られました。
オープニングから、舞台を見終えた観客がその舞台をこきおろすナンバーで始まります。そして、ドラマが始まると、レインとブロドリックが舞台のハイテンション演技がそのまま展開していきます。映画化された舞台ではなく、舞台中継を観ていることに気付けば、すんなりとドラマに引き込まれて、最後まで楽しんでしまいました。なるほど、最初からリアルなドラマじゃないところで客をつかんでしまえば、後はミュージカルのお約束で突っ走れるわけだと感心しました。この映画、ツカミがうまい。
そして、この映画、とにかく笑えるのです。特に、マックスを演じるネイサン・レインが、演技、歌、動きとどれをとっても一級品でしかもおかしい。特に、留置場で、それまでの経緯を説明するナンバーは大爆笑ものでした。また、マックスの舞台で、主役のヒットラーをゲイで演じてしまうゲイリー・ビーチも見事に笑いをとっています。こういう登場人物の面白さというか芸の部分でも楽しめるのですが、ストーリーとしてもかなりおかしくて、当たらない舞台を作ろうという設定、そしてその出来上がった舞台がゲイのヒトラーの世界征服ものだというのがすごいです。そして、それが「鋭い風刺に満ちた傑作コメディ」としてヒットしてしまうのです。
でも、この映画は、そのヒトラーやゲイのネタを、風刺とかブラックユーモアでなく、ひたすら下世話なギャグとして使っています。例えば、子供はわけもなく「チンコ、ウンコ」ネタが好きで、「チンコ、ウンコって言うだけでギャハハと笑いますけど、それを大人にあてはめたら、「ヒトラーとオカマ」だったというノリなんです。もともと、ブルックスの映画は高尚なユーモアというよりは下世話なギャグとパロディの面白さで楽しませるものでしたから、そのスタンスをこのミュージカルでも守っているということになります。そして、その結果、ブロードウェイとか、その観客や批評家も笑いの種として、コケにしてしまったようです。
ドラマの後半では、マックスとレオの友情とかも語られるのですが、それも基本的に笑いをとるための振りでしかないあたりに、コメディ作家としてのブルックスの心意気を感じます。エンドクレジットの後のカーテンコールでブルックス自身がこの映画を締めるんですが、まだまだ老成してないいけすかないじいさんぶりを見せてくれてうれしかったです。
お薦め度 | ×△○◎ | ネタとか展開に20世紀の感覚があってそこはかとなくおかしい |
採点 | ★★★★ (8/10) | 現代の「ヒトラーとオカマ」に相当するネタって何なんでしょうね |
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