アザーズ
The Others


2002年04月27日 神奈川 藤沢オデオン座 にて
この家には誰かいる、その正体は?


written by ジャックナイフ
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使用人がいなくなって困っているグレース(ニコール・キッドマン)のもとに3人の男女が使用人として雇って欲しいと訪ねてきました。グレースの夫は出征中で、二人の子供は極度の光アレルギーのため、屋敷の中は常にカーテンで光がさえぎられていました。この屋敷の何かの存在に気付いたのは娘のアンでした。そして、それはニコラスの前にも現れ、グレースも正体は不明ながらも、何者かの存在を認めざるを得なくなってきます。少年、男、老婆が見えるとアンは言います。一方、新しい使用人達は、この家の因縁について何か知っていることがあるようです。一体、この屋敷にはどういう因縁が潜んでいるのでしょうか。

「オープン・ユア・アイズ」のアレハンドロ・アメナーバル監督の新作でして、トム・クルーズがプロデューサの一人に名を連ね、ニコール・キッドマンの主演ということで、アメナーバルのハリウッド進出第1作になります。でも、撮影は全て彼の母国であるスペインで行われたようで、脚本も兼任しているだけに、彼のカラーが濃厚な一編に仕上がっています。お屋敷のたたずまいから、その内部の光と影の見せ方、そしてじわじわと来る怖さは見応えのあるものになっていまして、恐怖映画としてかなり面白い作品に仕上がっています。静かなお屋敷のそこここで、声が聞こえたり、床を鳴らす音がしたり、音響効果でかなり怖がらせる映画ですし、個人的には好きじゃないのですが、不意打ちビックリショックシーンもあります。そして、結末で、うーんとうなってしまいました。

ここから先は、ネタバレがありますので、これからご覧になる予定のある方はパスして下さい。

マジックというのは不思議を見せてくれるものですが、それが種明かしをされると「なーんだ」と一気につまらなくなってしまうものと、それでも、その技術や見せ方が見事なので、ショーとしての色は褪せないものがあります。この映画でも、いわゆる仕掛けがありまして、その仕掛けが強力なので、その種明かしの後はつまらない映画に成り下がる可能性がありました。ストーリー的には飛び道具といってもよい類のものです。でも、それでもこの映画はよくできていると私は思った次第です。主要登場人物が皆死人だったというのは、それほど斬新なものではありませんし、それを、どんでん返しにつかった映画を何本か挙げることもできます。でも、この映画は単に仕掛けに頼らずに、その種明かしの後に、観客のイメージが膨らむような構成をとっているところがうまいと思った次第です。

この結末から、前半を思い返すとなるほどと納得できることが多いですし、なぜ、グレースが聖書や死後の世界にこだわるかというところも肯けるところありました。また、この映画は死者が自分の死を認識できない間は、生きている時と同じだということも見せてくれます。グレースは美人ですけど、子供を二人殺すほどの神経が弱い(細いというべきか)人間だったのです。その弱さは死んでも変わらないのです。所詮、幽霊は人間のなれの果てだと思えば、善意も悪意も狂暴性も生きてる人間と同じということになりますし、結局ラストまでグレースは性格が変わりません。死を受け入れることのできないグレースは子供二人と共にこの屋敷に憑依し続けることを宣言するのです。そして、アザーズである、人間との共存も拒否しているようです。かなりワガママな奴のような気がします。別に悪いことはしてない幽霊を、無理矢理除霊しちゃう霊能力者と大差ないような、エゴイズムを感じます。

こういう私は、霊感なんてありませんし、幽霊は怖いです。その怖い理由は得体の知れないものだから怖いのではなく、もとが人間だから怖いです。意地の悪い奴、人を困らせて楽しむ奴、恨みを持った奴、そういうのは生きてる人間の中に山のようにいますから、そういう連中がそのまま幽霊になっていると思うとかなり怖いと思うわけです。この映画でも、結局住人を追い出してしまうのですが、それって不法占拠に近いものがありますし、力関係的にも、幽霊が強そうに見えますので、やっぱり、幽霊は理不尽で怖いという結論になります。グレースのワガママぶりは、他の幽霊から見ても目に余るようで、心優しい使用人の幽霊は、ラストでグレースをやさしく諭すのですが、本人にはあまり通じていないみたいでして、このヒロイン、あんまりお近づきになりたくないタイプです。でも、なぜお化け屋敷ができるのか、なぜ人は死んでもこの世に思いを残すのか、という視点から考えるとなかなか面白い映画だと思います。私としては、人は死んだらとっととあの世に行ってくれて、現世で存在を誇示するような真似はして欲しくないと思うのですが、した。

映画としての仕掛けの見せ方は見事だと思います。何かがそこにいるというのを、音響効果で示したり、種明かしを降霊会にもってきたのもうまいと思いました。娘の顔が老婆に見えたのは、あの老婆の霊媒が、娘の霊を自分に呼び込んでいたタイミングだったのでしょう。アメナーバル自身による音楽も格調高くドラマを支えています。


お薦め度×ホラーの中から浮かび上がる人間ドラマが渋い。
採点★★★★
(8/10)
この結末は結構困ったちゃんな決着ではないかい?

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