written by ジャックナイフ E-mail:64512175@people.or.jp
知的障害者のための学校を出て、カーラ(ジュリエット・ルイス)は、パパ(トム・スケリット)とママ(ダイアン・キートン)と二人の姉のいる実家に帰ってきました。娘をそういう学校に送っていたことに負い目があるのか、ママは不必要に干渉してしまい、カーラとうまく行かなくなってしまいます。そして、カーラの希望で彼女は実家近くにアパートを借りて、職業訓練校に通い始めるようになり、そこでボーイフレンドもできます。そのボーイフレンドも彼女と同じハンディを持っていたもので、また話がややこしいことになりかかるのですが、その結末は涙と感動を呼ぶのかな?
予告編を観た時、かなりヤバいネタではないかしらと思いました。だって知的障害者同士の恋愛モノですからね、一歩間違えると偽善と差別意識のドツボにはまる可能性がありましたもの。それに感動モノのような売り方をしていたので、ひょっとして、泣かされた挙句、その偽善性に自己嫌悪になっちゃうような映画だったらやだなあって気がしました。でも、主演がごひいきのジュリエット・ルイスで、そのママがこの人の出る映画は必ず観るダイアン・キートン(ファンなんですよ)だったので食指が動きました。監督が「プリティ・ブライド」のゲリー・マーシャルというのも若干の期待でした。映画の冒頭、佳作のブランドとして定評のあるタッチストーン・フィルムのロゴが出て、さらに期待してしまいました。
カーラははっきり言ってしゃべりが少し変でして、なるほど障害ありそうなのは、一目瞭然、それは彼氏の方も同様です。そんな二人を取り巻く普通の皆様のリアクションが変にドラマチックにならないのが、好感が持てました。過干渉になってしまうママの行動にしても、それをユーモラスに描き、そしてパパや姉たちから、「やり過ぎだ」と言われるので、観客が拒否反応を起こすような不快感を運んできません。また、障害者という理由だけで美化されることもなく、酔って挙句にひどいことをするボーイフレンドの描き方も、妙に同情を呼ばないつくりになっているところがフェアな印象を与えます。見ようによっては、カーラもボーイフレンドも結構迷惑な存在になりうるというのをきちんと描いているところが、意外なことに、物語の口当たりをソフトにしているという印象でした。主人公を極端に美化せず、周囲の人間も極端に感動しないというところで、ドラマ全体をまろやかにまとめた、マーシャルの手腕が光ります。
好きだから一緒にいたいというのは、その昔の「小さな恋のメロディ」と同じコンセプトなのですが、あっちは、大人と対立する存在としての子供が、好き勝手をやっているということで、私個人的にはいい印象を持たなかったのです。一方、こちらは、社会の中にアクティブに溶け込もうとしている二人が主人公だけに、共感できるところが多かったです。普通の恋する若者の感性なんだけど、その見え方が時として極端になったり、障害ゆえの色眼鏡で見られてしまうというのは、不幸なことかもしれませんが、その程度のことなら誰にでもあるんじゃないのという視点が感じられるのもいいところです。「障害があるから純粋だ」とか、「そういう境遇だからこそ、二人の愛に価値がある」ような見せ方にしないってのは、作劇として、なかなかに大変だったと思います。
役者がそれぞれに好演しているのも、特筆もので、それぞれの節度ある好演がドラマをうまくまとめあげたのだと思います。ジュリエット・ルイスは不器用なほどに感情をストレートに出すカーラというキャラクターを熱演していますが、そこに子供じゃない大人の女性の分別を感じさせることに成功し、赤ちゃん扱いされる理由はないぞというのを、説得力を持って演じきりました。一方の母親は、自分の行動に負い目を感じてしまい、その結果が裏目に出てしまうという役どころを細やかに演じました。両親の夫婦の会話をきちんと見せることで、彼女のキャラクターに奥行きを与えたマーシャルの演出が光りました。
また、男優陣の抑制の効いた演技が、主演二人を見事にサポートしています。ヒロインのボーイフレンドを演じたジョバンニ・リビージは、何だかトロそうで頼りないけど、誠実さを感じさせるキャラクターを控えめに演じました。それなりに人望のある奴らしいのですが、それを見せずに、ラストにちょっとした趣向を仕掛けたあたりの脚本がうまく効いています。また、父親を演じたトム・スケリットが、今回は完全にキートンの演技を受ける立場に徹したことで、ドラマをシリアスにさせ過ぎないことに成功しています。本当なら、それなりの葛藤を持つキャラクターになる筈なのに、そこをうまくスキップしたさじ加減が見事だと思います。ボーイフレンドの友人を演じたヘクター・エリゾンドも少ない出番でも印象に残る役どころを、きっちりと、そして飄々と演じきりました。彼ら助演陣が、妙に説教をたれたり、偉そうなことを言わないったのがいいのですよ。
そして、ささやかな葛藤のうちにドラマはハッピーエンドを迎えることに成功します。それが、なんだかよかったねーというホンワカ気分のハッピーなのは、演出、演技によるものなのでしょう。「ホントにこの先、大丈夫なのかよ」というリアルな突っ込みを入れる気にならないドラマの味わいは捨てがたいものがありました。
お薦め度 | ×△○◎ | ラブコメのプラスアルファの趣向という構成か。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | ゲイリー・マーシャルのバランス感覚が光る佳品。 |
|
|