written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
病室にたたずむ一人の老女(ジーナ・ローランズ)のところにまた彼(ジェームズ・ガーナー)は本を持ってやってきました、その本を読んで聞かせるために。どうやら彼女は痴呆症で、彼は何度となくその本を読み聞かせているようです。その物語はお金持ちの娘アリー(レイチェル・マクアダムス)と材木置場で働くノア(ライアン・ゴズリング)の恋の物語でした。夏休みに田舎に来ていたアリーにノアが一目惚れしたことから始まった二人の関係は急激にヒートアップ。でも、所詮は身分の違う二人のひと夏の恋。夏の終わりと共に二人の関係も終わるはずだったのですが、運命の神様は二人の愛情の炎を絶やそうとはしなかったのでした。でも、こんな話、彼は何のために彼女に聞かせようとしているのかしら。そもそも、このお話は誰のお話で誰が書いたの?
オープニングは、美しい夕焼けに彩られた湖を一人の男がボートを漕いでやってきます。それを病室の窓から眺めている老女。彼女は入院していて、どうやら痴呆症らしいのですが、そんな彼女に何度も本を読み聞かせに来る男、という設定が一種ミステリーの趣を感じさせます。そこで語られる物語は若い男女の(かなり)ベタなラブストーリーでして、ひと夏の恋が一気に燃え上がるものの、そもそも住む世界の違う二人。身の程をわきまえようとすれば、当然の如く破局を迎えてしまいます。でも、運命は再度二人を結びつけるのですが、その時、既にアリーには婚約者がいたのです。若いもんは事の後先考えないで恋するからねーというのは、オヤジの言い草でして、そもそも愛し合う二人が彼女の母親によって引き裂かれてしまってカワイソーという展開になっています。
ここから先は物語のラストに触れますので未見の方はパスして下さい。
若い二人の恋物語はベタなラブストーリーになっています。若い二人の演技で楽しむところです。古風というかなんと言うか、二人ともひと夏の恋をずっと引きずってしまうというのがスゴイと思ってしまいます。そして、この話を聞かせている男は誰で、老女はこの物語とどういう関係にあるのかというのがミステリー風の展開を見せます。そして、わかってくることは、この男が痴呆状態にある女性の夫であり、彼女を愛し続けていることを誇りに思っていること、そして、女性は自分の夫が誰なのかもわからなくなっている事実。夫は妻に自分を思い出させるためにこの物語を聞かせているのでした。ほとんど希望が持てない状況なのですが、それでも、一瞬自分を取り戻す一瞬がある、自分の愛する人を認識できる瞬間があるようでして、だからこそ、彼はずっと物語を聞かせ続けているのです。ここまでわかってきて、この物語は本気で愛することのお話だと気付かされることになります。夫の妻に対する切ないほどの想い、そして、一瞬、夫を取り戻した時、今度はいつ会えるのかと怖れる妻の想いが、胸を打つドラマになっています。ジェームズ・ガーナーとジーナ・ローランズが淡々とした演技の中で、自分の気持ちを表に出すところが圧巻でして、ラスト近くに記憶が甦って、それが瞬く間に消えていくまでに二人の演技はは胸に応える名シーンとなりました。
では、この映画を観終わって大満足して帰ったのかというと、実は観終わって「何、これ?」という気分になってしまったのです。それまで、夫の妻に対する愛情、そして妻が自分を見つけてくれることへの希望を描いてきて、その切なさに胸がいっぱいになっていたのですが、ラスト5分前に突然「一緒に死ねたらいいわねえ」の話が出てきて、そっちへ話を落としてしまうので、「これまでの、夫の希望とはうっちゃりかい?」と突っ込みを入れたくなってしまいました。ここまで、いい話だなあって観てきたのに、それはないだろう、連続ドラマの打ち切りみたいな決着のつけ方には、それまでの感動が一気に冷めてしまいました。それでも、本を読み続ける夫の姿で映画が終わってくれたら、大感動だったのですが、ラストで引いてしまい、そこまでの展開がすごくよかっただけにラストの落差で、かえって悪い印象を持ってしまいました。それとも、これは心中ものだったのかしらん。でもキリスト教文化でそれをこんな形ではやらないだろうしなあ。
引いていた私をさらにドン引きさせたのが、映画のクレジットが終わって(このエンヅクレジットの静かなオーケストラ音楽の余韻はマルでした。)突然、Chemistryのプロモビデオが始まったこと。映画の余韻も関係なしに、えらそうにゴタク並べる若造に腹が立ってきて、普段やったことがないのですが、劇場が明るくなる前に席を立ってしまいました。映画の出来とは直接関係はないのですが、これを映画のうちとして観客に見せようという配給会社の志の低さに、映画としての評価はガタ落ちでした。こういう音楽プロモは上映しても、映画の始まる前であって、映画の余韻をぶち壊す上映はしない筈なんですが。
でも、原作はひょっとしたらすごくいい話なのかもしれません。一箇所泣けたのが、夫の読む物語の作者がわかるところでして、ささやかな意外性と夫婦の愛情を感じられて、ホロリときてしまいました。湖のシーンの美しさなど、シネスコのフレームをきちんと押さえた撮影、控えめにドラマを支えた音楽も見事でした。それだけにこんなあざとい結末になっちゃったのが惜しい映画でした。期待してたんだけどなあ。
お薦め度 | ×△○◎ | 泣けるところもあるのに、ラストで引いてしまったのは私だけ? |
採点 | ★★☆ (5/10) | いい話なんだけど、ラストで引いて、オマケでドン引き。 |
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