written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
恋人に逃げられたアビー(マドンナ)をなぐさめるのは、ゲイの親友ロバート(ルパート・エバレット)です。ところが、二人が意気投合したある夜、アルコールの勢いもあって二人はベッドインし、その後、息子サムが生まれます。ロバートはアビーと結婚する気は毛頭ないのですが、それでも子供の父親であることを認め、結婚してないし、この先その気も無い父親と母親と息子というファミリーが出来あがります。しかし、アビーに恋人が現れて、本気で二人が結婚することを考え出した時、このアビー、ロバート、サムという家族関係が維持できなくなってくるのです。
前半は、親友関係のアビーとロバートの良好な関係がコミカルに描かれます。ロバートはゲイですが、それ以上にいい奴でして、傷心のアビーはロバートのおかげで元気を取り戻していきます。そんな二人が酒の勢いでベッドを共にしてしまい、子供ができちゃうっていう発端を、ジョン・シュレシンジャー監督はコミカルに軽妙にさばいています。エロチックサスペンス「ボディ」の頃からは、容色も衰えてはいますが、家庭を持って落ちつきたいという気持ちのある中年女性をマドンナが意外な好演をしています。仕事もしてるし、それなりの人生を送ってきた、それなりに魅力的な女性。そんな彼女が妊娠してしまうのですが、彼女としては、これで家庭が築けるということで、うれしいし、父親だと言われたロバートもそれを受け入れ、一つのファミリーが出来あがります。でも、夫婦じゃないし、お互いに別々の恋愛を持った両親と息子という変則的な関係です。
この映画のうまいと思うのは、前半はこの変則的な関係が大変理想的なもののように見えるということです。両親は別々に寝てるということを除けば、ロバートもアビーも、サムの両親として十分に立派にやっていますもの。このまま行けば素晴らしい家族となったでしょう。ところが、アビーに恋人ができます。このベンという男が、平和な家庭にやってきた侵入者ではないのです。アビーにとってベンは大事な人となり、ベン自身も真剣に彼女を愛し、サムも自分の息子のように扱おうとします。そして、ベンとアビーは結婚を考えはじめるのですが、そうなると、ロバートの居場所はなくなってしまいます。誰も悪いわけじゃないけれど、理想的な親子関係に危機が訪れてしまったのです。
ロバートにとっては、サムは実の息子で手放すなんてとんでもない、実際、サムは自分になついているし、何も悪いことをしていない、誰も傷つけていない自分が息子を奪われることには納得がいきません。アビーにとっては、無意識のうちに来るべきものが来たという認識のようで、もともと愛する夫を捜してその夫と新しい家庭を築くのが理想だったようです。そうなると、サムを巡って、父親と母親の間で争奪戦が始まってしまいます。このあたりからドラマはかなりシリアスな展開となります。シュレシンジャーの演出は、ここで思いきって、ロバートの思いを一種のエゴイズムのような見せ方をしています。いい人だったロバートがエゴイストになってしまう過程はかなりリアルで説得力ある不快感を運んできます。この善人のもろさは、行動として最低のことをしてしまい、それをアビーから叱責された時、彼にはもはや返す言葉はありません。あの時に帰りたいというロバートの言葉は切ないけれど重みはありません。だって、こうなることは少し考えればわかることですもの。関係者が全て善意の人間でも避けられない、この泥仕合に、この映画は結末をつけません。ただ、登場人物がこの現実から逃げられないことを確認しあって、映画は幕を閉じます。誰もが幸せな最良の結末にはならないことは明々白々ですけど、じゃあ2番目に幸せな結末は何なのか。この映画はその答えを観客の手に委ねています。
ささやかな救いとして、息子のサムは傷つけられていないところを見せるのですが、それでも、何が間違えて、こんなことになってしまったのか考えさせられる映画でした。単に母性とか父性という問題ではありません。最近のアメリカ映画で、家族、ファミリーというキーワードがよく登場するのですが、そのキーワードの定義が実は曖昧だったんだなあってことに気付かされる映画でもありました。一見、ロバートがゲイであることがドラマの鍵のように思われがちですが、実際のドラマの中では、彼がゲイであることは大きな問題ではありません。ただ、家族の絆と一言で言っても、家族のメンバー間で、それぞれ意味合いが違うという話なのです。
お薦め度 | ×△○◎ | いい人でいるって難しいことなのね。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 結末は観る人が考える映画です。 |
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