プロフェシー
The Mothman Prophecy


2002年11月08日 神奈川 川崎チネチッタ4 にて
不気味な予言をもたらす蛾男(モスマン)の謎。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


新聞記者のジョン(リチャード・ギア)は、奥さんと一緒に車に乗っていて事故に遭い、さらに奥さんに腫瘍が見つかり、奥さんは死亡。奥さんは事故に遭う直前、何かを見たらしいのですが、ジョンにはよくわかりません。それから2年後、夜、車を走らせていたジョンはポイントプレザントという町に迷い込んでしまいます。地理的に考えて、そこへたどり着くことは不可能な筈なのに。そして、その町には、不思議な現象が起こっていました。謎の怪人が町の住人に目撃されており、また、ジョンも3日前から目撃されていたというのです。町の保安官コニー(ローラ・リネイ)の協力を得て、事件の調査を始めると、そこに妻の死との共通点が見つかります。そして、ジョンはモスマン(蛾男)伝説にまでたどり着くのですが。

この映画は実際に起こった事件をもとに、ストーリーを創造したらしく、モスマンというのも、現実に目撃されたという記録が残っている怪人なのです。「隣人は静かに笑う」というスリラーで注目されたマーク・ペリントンがハッタリを大いに効かせて、超自然スリラーの変化球に仕上げています。MTVを思わせるデジタル加工された映像や、思わせぶりなカット、ノイズのような音響効果を駆使して、得体の知れない存在感を表そうとしています。やや、演出過多の気味もあって、クドさも感じさせるのですが、ストーリーを追っていくと、これが滅法面白いのです。リチャード・ヘイテムの脚本の功績でしょう。

ある町に吸い寄せられるように迷い込んで主人公が、どんどん町の不思議な現象に取り込まれていくあたりの展開はなかなかうまいです。主人公が死んだ妻への想いにとりつかれていて、そこをつけこまれ、どんどん追い詰められてしまうのがスリリングで、リチャード・ギアの甘いマスクが、こういうキャラとうまくマッチしました。

ここで登場する、謎の怪人は、単に目撃されるだけではなく、ジョンや町の住人に直接コンタクトを取ってきます。かなり、明確な意志とキャラクターを持っているようで、彼らに事故の予告をしたり、他の人間の声色を使ったり、挙句の果てには死人まで出してしまいます。相当不気味な存在ではあるのですが、よくよく見れば、やっていることは、イヤガラセみたいのから始まるのですから、かなりオチャメな奴です。主人公の妻への想いを弄んだりするのも、酔狂な悪魔という感じ。アラン・ベイツ扮する元教授が、モスマンの予言に振り回されて、社会的な信用を失ってしまったというのも、リアルな怖さはあるものの、よく考えれば滑稽にも見えます。

しかし、ペリントンの思わせぶりでテンションの高い演出は、その「よく考えれば」の考える隙を与えずに、不安と恐怖で一気に突っ走ります。ここで、脇役のメンツがそのリアリティの醸成に貢献していまして、特にモスマンに振り回されるポイントプレザントの住人に扮したウィル・パットンが好演してまして、善意も常識も持ち合わせた普通の人が、実体のよくわからない何者かによって精神的に追い詰められてしまう怖さを見事に見せてくれてます。しかし、クライマックスに、スペクタクルな見せ場を持ってきて、映画としてのサービスもきちんと踏まえながらも、かなり捻った決着のつけ方をしています。

そこは、本編でご確認いただきたいのですが、謎のモスマンの正体を暴く方へドラマが進んでいかないのです。むしろ、こういう変なやつがいるんだって、怖いねえ、という見せ方なんです。河童とか座敷わらしみたいな、不思議な存在という以上の見せ方をしないのです。トイレの花子さんとか、口裂け女だと、その出自がさらに都市伝説化していくのですが、そういう理由付けとか、因縁話が一切ない存在というのが面白いところです。そのくせ、自分の名前を名乗ったり、電話で話をしたりもするんですが、でも、存在感が希薄なんです。モスマンに関わる人間はみんなそれなりのドラマを背負い込むことになるのですが、モスマン本人のドラマがまるでありません。

また、クライマックスでは、主人公自身がモスマンのように思わせるショットがあったりして、ペリントンはかなり意識して観客を混乱させようとしているようです。ただ、それ以上の何かを見せようという意図が感じられないのは、物足りなくもありました。観ている間は面白いのですが、見終わって、怖さも納得も残らないので、映画としての満腹度はもう一息といったところです。多分、モスマンが主人公だけに関わりすぎてしまって、普遍的な存在感を持ち得なかったからでしょう。都市伝説と因縁話の両方を取り込もうとせず、どっちかに徹してくれたら、もっと怖いスリラーになったように思います。


お薦め度×実話に基づくストーリーって言うけど、趣向盛り込み過ぎかな。
採点★★★
(6/10)
世の中には不思議なことがあるんだという話。

夢inシアター
みてある記