ロスト・サン
The Lost Son


2000年07月16日 神奈川 関内アカデミー1 にて
ロンドンのフランス人探偵がはまった犯罪の顛末。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


フランスから移ってきて、ロンドンに暮らす私立探偵ロンバード(ダニエル・オートゥイユ)のもとにかつての友人から仕事の依頼が来ます。その依頼とは、行方不明となった義弟を探し出すことでした。義弟の遺留品より、彼が児童売春に何らかの関わりを持っていたらしいことが浮き上がってきます。そして、彼の恋人を訪ねると、その犠牲者の少年がかくまわれていました。義憤にかられたロンバードは、最初の人探しよりも、児童売春の組織を追いかけ始めます。古い馴染みの娼婦も巻き込んで調査を始めるロンバードの前に大きな組織が立ちはだかるのでした。

ロンドンを舞台にフランス人探偵が人探しから、児童売春組織に挑むようになるまでを描いた犯罪もの。いわゆるハードボイルド探偵ミステリーなんですが、このハードボイルド探偵にダニエル・オートゥイユがぴったりとはまっているのですね。「八日目」のビジネスマンなんてのもよかったのですが、「橋の上の娘」のナイフ投げの男の哀愁がカッコ良かったです。今回の探偵ぶりも過去を引きずった男の重みがずしりとくる役を好演しています。正義のヒーローじゃないし、やさしくもない男ですが、こうと思った時に見せる執念とパワーは只者ではありません。この映画の中でも、児童売春組織の存在を知った彼が無謀にも単身闘いを挑んでいくというお話が、オートゥイユのおかげで説得力のあるものになりました。

一応、お話はミステリー仕立てになっていまして、人探しの途中で見つけたビデオの中に記録されていた、幼児売春の実態、そして映っていた少年をかくまう女の登場など、展開としてはご都合主義なんですが、クリス・メンゲスの演出は丁寧にシーンを積み上げて、語り口のうまさでドラマを引っ張っていきます。派手な見せ場があるわけではないのですが、それでもじわじわと主人公が売春組織に迫っていくさまはスリリングですし、そのやり口はハードボイルドの名に恥じない荒っぽいものです。

また、脇の助演の女優陣が皆好演でして、主人公の旧友をナスターシャ・キンスキが、難しい役どころを、繊細に、そしてミステリアスに演じて印象的でした。その他、同郷人であり古い友人の娼婦を演じたマリアンヌ・ドニクールが主人公との泣かせる友情を見せてくれますし、「キャリア・ガールズ」でいい演技を見せたカトリン・カートリッジが行方不明の男の恋人を魅力的に演じました。彼女たちの好サポートによって、ロンドンのハードボイルドの世界が際立ったと申せましょう。

また、ロンドンのロケーションの陰影のある画面も見応えがあります。その一方で、ストーリーがなぜかメキシコへ飛ぶとすかっと抜けたような明るい絵になり、そのコントラストも印象的でした。そして、クライマックスからラストではまた舞台がロンドンに戻るのですが、その陰鬱な空気感が主人公の孤独を浮かび上がらせるあたりも、パターンとはいえ、映画を観たなあって余韻に浸ることができます。

ここでドラマの重要な要素となるのは、児童売春組織の存在です。この映画での設定は、メキシコの貧しい子供たちをさらってきて、イギリスやヨーロッパへと送り出す業者ということになっています。ともかく、幼い子供を金で買い、時には虐待までする趣味の人間がいるというのは、多分事実なのだと思います。そんなことをするのは人間じゃないと思いながら、そういう趣味の人間の需要を満たす連中の存在、それをビジネスと割りきってやる連中の存在を自分と他人事としてとらえることができるのかと思う時があります。金のためになら、人の命を何とも思わない人間の記事が新聞を賑わわせています。信仰の美名のもとに残虐行為が行われる現実もあります。人間は何でもやる、その目的は千差万別だとしてもそこで行われる行為は何でもありなんだなあって、最近実感することが多いです。逆に「そんな事をするなんて信じられない」とか「そんなことをするのは人間じゃない」なんて言葉が虚ろに響いてしまうのは、私だけでしょうか。「スペシャリスト、自覚なき殺戮者」を観た時にも痛感したのですが、人間はどんなひどいことでも平気でやる、その事実を受け入れた上で、自らを律するのでないと、何時の間にかとんでもないことをしでかしてしまいそうな気がしてならないのです。


お薦め度×古風な探偵ものと社会告発ネタの2本だて。
採点★★★★☆
(9/10)
若干のバランスの悪さを補う演技陣の好演。

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