written by ジャックナイフ E-mail:64512175@people.or.jp
時は1900年アメリカとヨーロッパを結ぶ巨大客船の中に捨て子の男の子がおりました。それを見つけた機関士のダニーはその子に1900(ナインティーン・ハンドレッド)と名づけて船の中で育てました。事故でダニーが亡くなってからも、ダニーは船の中ですくすくと成長し、そして彼はピアノ演奏に驚くべき才能を見せるようになりました。彼の作り出す音楽の素晴らしさは全ての人を魅了しましたが、彼は絶対に船を下りることをしませんでした。第二次大戦も終わった今、船は廃船処分になろうとしています。しかし、1900の親友マックスはいいます。「待て、彼がいるはずだ」と。
「ニュー・シネマ・パラダイス」「記憶の扉」のジュゼッペ・トルナトーレが、脚本を書き、監督もした作品です。20世紀前半を海に上にだけ存在した幻のピアニストの物語ですが、何だか実話に基づいているような錯覚を起こす作りになっているのが面白いと思いました。そして、そんな主人公がどうして船を下りないでいるのかというところが一種のミステリーとなっていて、その謎解きが20世紀という時間への批判となっているという構成は多分原作の戯曲の力なのでしょう。もともとが一人芝居のための台本だったのを実写ドラマに広げたところスケールの大きな作品に仕上がりました。豪華客船が舞台といえば「タイタニック」を思い出しますが、あそこまで行かないまでも、かなりお金のかかった大作になっているのです。
船の上で育つとああいう繊細な人間になってしまうのはなぜなんだろうという疑問は置いといても、主演のティム・ロスは、不思議な魅力を持つこの1900というキャラクターを好演しています。特に船で見かけた女の子に惚れてしまってストーカーになっちゃうあたりにおかしさを感じてしまうのは、まるで少年のような彼のキャラクター作りに負うところが大きいです。ちょっと掴み所がない1900なんですが、ラスト近くで、彼の思うところが語られるあたりで、「おお成る程」と納得させるあたりの構成はうまいものです。
ところがうまい分、饒舌に過ぎるような気がしてしまったのです。その一方で、思いきって説明を省いた部分が気になって仕方がありませんでした。それはなぜ彼がピアノがうまいのか、誰かが教えたのかということと、どうして船に居続けることができるのかということです。そんなの寓話だと思えば、細かく突っ込む必要ないじゃないかと言われればその通りなのですが、寓話と呼ぶには存在感がありすぎるのですよ。特にラストの処理なんて、この主人公の存在をそこまでダメ押しする必要があるのかと思うくらい、濃いのです。「昔々、海の上で生まれて、ずーっと陸に上がることがないピアノ弾きがいましたとしさ。」という、おばあちゃんが孫に聞かせるベッドサイドストーリーなら、少々ディティールが粗っぽくてもかまわないのですが、きちんとドラマとして映像化されたとき、この映画の語り口はどうもバランスを欠いてしまったようです。
ラスト近くで、「都会のねずみと田舎のねずみ」のような話になってしまうのは、確かに面白い視点ではあるかもしれませんが、他の表現方法があるんじゃないかなという気もしてしまいました。一体、1900の人生の中で、彼が何を見て、何を考えていたのか、確かに納得はできるのですが、何か物足りなさを感じてしまったのも事実です。映像の表現として、1900が4本の手でピアノを弾いているような見せ方からも、この物語がリアルなお話でない寓話であることを印象付けるのですが、それなら最後までそのタッチを壊して欲しくなかったなという気がします。トルナトーレ監督は、観客が観た映画以上にイマジネーションを広げることができるということに無頓着なように思えてしまいました。
さて、ピュアな瞳を持つ男から生み出されるピュアな音楽が聞く者の胸を打つのは、音楽担当のエンニオ・モリコーネの力によるところが大きいです。モリコーネタッチと呼ぶべきスケールの大きな音は、船の移民の描写やオープニングのアメリカ到着シーンなどに素晴らしい効果を出しています。また、1900の奏でるピアノ曲もヒロインをモチーフにしたテーマの美しさが印象的でした。
考えてみれば不思議な話でして、そんなことあるのかいなと、私のように疑念を持ってしまうと、話に乗りきれなくなってしまう可能性はあります。最初から絵本を読むようなつもりでご覧になるのがいいのではないでしょうか。そして、彼の目から観た陸地、即ち20世紀というものがどういう時代だったのだろうと思いを馳せることできたら、この映画を堪能したことになるのではないかしら。
お薦め度 | ×△○◎ | 私は感動まではいきませんでしたがちょっといい話かも。 |
採点 | ★★★ (6/10) | ウソならウソなりの説得力が欲しい。 |
|
|