ラスト・サムライ
The Last Samurai


2003年12月07日 神奈川 川崎チネチッタチネ11 にて
日本に軍事指導にきたアメリカ人の数奇な体験。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


南北戦争の勇者であったオルグレン大尉(トム・クルーズ)は、酒で身を持ち崩して、日本で軍事指導という仕事にありつきました。新しい軍隊を率いて、新しい明治政府に反旗をひるがえす勝元(渡辺謙)の軍勢を迎え撃ったのですが、逆に勝元の捕虜になってしまいます。彼の村に連れて行かれたオルグレンですが、そこで、勝元の考え、生きる姿勢に共鳴するようになります。新政府の方針についていけない勝元はついに明治政府を敵に回してしまいます。数、武器ともに圧倒的な政府軍に、甲冑弓矢で挑む勝元軍。もはや時代は武士を必要としておらず、新しい時代に対して、武士たちは自らの手で幕を引こうとするのですが。

日本を描いたアメリカ映画というと、やはりエキゾチックな異文化、フジヤマ、ゲイシャ、ハラキリの世界になりがちです。コメディやギャグ(私は差別ギャグも認めてしまうほうです)でそれをやるのなら、構わないのですが、それをいかにも文化交流のようなしたり顔でやられるのは、あまりいい気持ちがしません。今回も、トム・クルーズというビッグでメジャーなスターが主演するハリウッド大作ということで、そんな嫌な予感もしたのですが、できあがった映画はまず、娯楽映画として面白くできていて、さらに、日本の描き方にまじめさが感じられました。武士という滅びゆく文化と人間に対して、好奇と敬意の両方がバランスよく描かれていて、

もちろん、主人公はオルグレン大尉ですから、彼の心の動きがドラマのメインになっています。カスター将軍のもとでインディアンの女子供を虐殺したことへの、自責の念に悩まされる彼は、極東の地、日本へ自暴自棄の状態でやってきます。農民あがりの兵士はそう簡単に軍隊としては機能してくれません。そんな彼を捕虜とした勝元は、彼の中の勇士の血を見抜き、敬意を持って接します。そして、オルグレンも勝元に共感し、明治政府とその背後にいる財閥に対して一矢報いようとするのです。

実際の歴史の中で、こんな形で、鎧武者の軍と明治政府軍が戦ったというのは読んだことはないのですが、寓意を含んだドラマとしては十分に説得力を持ちました。日本が近代化という名目でなかば強引に行った取捨選択は、それまであった価値のあるものも滅ぼしてしまったのかもしれないということ、そして、その裏には、資本主義と外国の思惑があったということ、それらをきちんと描いているので、奥行きのあるドラマとなり、単にノスタルジックとか懐古趣味に陥ることのない作品に仕上がっています。その視点は、歴史教育の中で、あまり重視されていなかった部分でもあり、日本人にとっても新鮮に感じられるものでした。確かにディティールに言及すれば、アラは出てくるのでしょうけれど、日本が明治維新にどういう選択をしてきたのかをわかりやすく描いたドラマというのは、これまで日本でもあまりなかったように思います。

特に誰をヒーローにしていない点も見逃せません。オルグレン大尉は主人公ではありますが、あくまでドラマの語り部としての役割を負っているだけで、彼自身がヒーローとはなりえていないのです。一方の勝元も滅びゆくものの象徴ではありますが、ヒーローとしてドラマを引っ張ることはしていないのです。この一歩退いた視点から描かれるドラマは、叙情的というよりは一種の叙事詩となるのでしょうが、それでも、後半の盛り上がりで相当泣かされてしまいました。このあたりにハリウッドの娯楽映画作りのうまさがあるのでしょう。ラストはそれなりのご都合主義な結末ではあるのですが、エドワード・ズウィックの演出はきちんとドラマを締めくくっています。

映像的には、勝元のいる村のセット、また、CGも使っていると思われる横浜の描写など、見た目の日本については、違和感を感じさせませんでした。シネスコの画面で自然と共存する村を描いた映像の美しさが印象的でした。特に、日本家屋の中を、光の入り具合も含めてシネスコ画面にきちんとおさめたジョン・トールの撮影も見事だったと思います。また、ハンス・ツィマーの音楽が素晴らしく、彼の特徴である、オーケストラとシンセを重ねて、ソロ楽器のようにぶん回す音が今回は少なく、楽器やコーラスを生かした細やかな音作りになっていました。特に、日本の描写だからということで、お約束のような音(琴や尺八など)の入れ方をしていないところが好感を持てましたし、合戦シーンも重量感を失わない音の積み上げが見事でした。

演技陣では、日本人側の渡辺謙、真田広之、小雪などが、日本のドラマよりもおさえた演技で好演しています。もっと、ドラマチックに演じることもできたろうに、役者の腹芸を生かしたズウィックの演出かもしれません。一方のアメリカ側の助演陣にテイモシー・スポールやトニー・ゴールドウィンなどの渋い演技陣を揃えて、トム・クルーズをうまく引き立てています。


お薦め度×日本とか侍とかを置いといて、異文化交流とスペクタクルを見せるドラマ。
採点★★★★
(8/10)
滅びゆく者たちへの視点が当の日本人にとって結構新鮮に映るんですよ。

夢inシアター
みてある記