written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ラス(ブルース・ウィリス)は39歳のやり手イメージコンサルタント、でもあんまりいい奴じゃなさそうで、仕事の部下にもとってもやな奴っぽいですし、あんまり人間的に誉められないクライアントを相手に仕事してますし。そんな彼の前に突然現れたのは、8歳の時の自分ではないですか。いわゆるタイムスリップして現代に迷い込んでしまったようなのです。8歳の彼は、自分が思い描いていた大人の自分のイメージとのギャップにがっかりして、文句たらたら。ラスにしてみたら、何の因果で、幼い自分にケチつけられたりしなきゃいけないんだって気分です。幼い頃の自分なんて忘れたい思い出しかないのに。
ブルース・ウィリスの最近の作品は、「マーキュリー・ライジング」「シックス・センス」といわゆる名子役との競演という自分に不利な題材に果敢にチャレンジしているという印象でした。この作品もまたしても子役競演ということで、どうなるのかと思ってましたら、これがいわゆるファミリー向けのコメディ映画で、演技合戦とかいうのとは違う、ライトな作品に仕上がっていました。「クール・ランニング」「あなたが寝てる間に」のジョン・タートルトープ監督がいかにも都会のファンタジーというタッチにまとめています。
幼い頃にどんな大人になりたかったかというイメージを持っている人ってどのくらいいるのでしょう。私は子供の頃にどんな大人になりたいなんて望んだことがないのですが、これは少数派なのかしらん。ともあれ、8歳のラスは、39歳のラスが飛行機の操縦もできなくて、家庭もなくて、犬も飼っていないってことが大層ご不満な様子です。そんなこと言われる筋合いはないだろうと思うのですが、子供はわがままです。一方、ラスにとっての子供時代はいじめられて冴えないもので、思い出したくもないものでした。これは私にも理解できます。自分の子供時代を思い出した時に、情けないものと赤面ものしかないので、振りかえるのもイヤになりますもの。でもラスはその不遇の子供時代をバネに高校大学を抜群の成績で卒業したというのですから、ここは三流サラリーマンの私と大違い、今は仕事上では成功者なんですもの。その上、こんな上司に好意を抱くかわいい女性もいるなんて、これのどこに文句つけられることがありましょう。もっと幼い頃の自分に罵倒されそうな大人が山のようにいるのが現実ですから、選りによってラスにこんなことが起こること事態がファンタジーです。そういえば、「クリスマス・キャロル」のスクルージも金持ちでビジネスとしては成功者だったなあなんてことまで思い至ってしまいました。
まあ、ともあれ思うような大人になれない自分の原因は、子供の頃にあったのですから、子供ラスと大人ラスでその責任は半々だということでもあります。そして、二人が一緒になって人生を変えることができるかもしれないと行動を起こすあたりから、話が面白くなってきます。自分の過去を思い出そうと懸命になる大人ラス、一方ヒロインとの仲を修復させようとする子供ラス、各々が相手(と言っても自分なんですが)のためを思うようになるのがうれしい展開です。それが必ずしもベストな結果を生み出すわけではなくても、自分が前向きに立ち向かうことが大事だというのは、よくある話なのかもしれませんが、こういうコメディの中で語られるとイヤミなく受け入れられます。
役者では、ラスの部下で、なんとなく彼にひかれているエイミーを演じたエミリー・モーティマーが、こういうコメディにふさわしく、お色気控えめのかわいいキャラクターで、好感が持てました。また、ラスに振りまわされる秘書役のリリー・トムリンがおかしくて、登場すると場面をさらってしまいます。いやな上司に憮然とした表情で、なんとなく付き合ってしまうあたりが笑いをとります。
しかし、ラストでなぜ子供ラスがタイムスリップしてきたのかというそれなりのタネ明かしがあるのですが、これがかなり減点もので、せっかく誰にとっても未来は無限の可能性があるという話になりかけて、こんな結末はないだろうというもの。そこは劇場でご確認頂きたいのですが、「赤い飛行機が飛んだ時、画面が涙でくもった」おすぎさんのようにはいきませんでした。赤い飛行機が飛んだ時、邪魔だからとっと落ちてしまえと思いましたもの。
お薦め度 | ×△○◎ | ブルース・ウィリスのコメディ演技が楽しい。 |
採点 | ★★★ (6/10) | ラストでかなり減点、いい設定なのに。 |
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