プラダを着た悪魔
The Island


2005年12月09日 藤沢 藤沢キネマ88 にて
新しい勤め先の上司がとんでもない奴なのよ、という話だけではなくって


written by ジャックナイフ
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ファッション雑誌ランウェイの敏腕編集長ミランダ(メリル・ストリープ)の第二アシスタントという職にありついたアンドレア(アン・ハサウェイ)ですが、公私の区別なくこき使われてもう大変。ジャーナリストを目指すアンドレアはそれでも頑張っていくのですが、仕事が軌道に乗ってくると、今度は恋人との仲がうまくいかなくなってきます。最初はチャラチャラしたファッションなんて否定的だったアンドレアがきれいに着飾って仕事に飛び回っているのを見て、恋人や友人たちは「あんた変わったわね」と言われてしまいますが、仕事に忙しいアンドレアは、それよりもミランダの無茶な注文をバリバリこなしていくのです。しかし、それでいいのか、アンドレア。

ファッション雑誌の編集長ミランダは、すんごいやり手なんだけど、すごぶる評判が悪くてアシスタントがいつかない。アシスタントと言ったって、ミランダのコーヒーやら、娘の送り迎えとか雑用ばっかし。でも、仕事に対する姿勢と能力はずば抜けているのです。こういう人の下で頑張れば勉強になることも多いだろうけど、ミランダは悪魔のごとくアンドレアをこき使うのです。そこで、アンドレアは頑張って、自分の仕事をこなしていくというと、女性版ビジネスサクセスストーリーになるのですが、この映画では、頑張って成功するという、いわゆるアメリカンドリームの話にならないのです。これは観ていて意外でした。

アンドレアがその仕事ぶりから、ミランダに認められるようになるのですが、そこでアンドレアはミランダに迎合しないのですよ。ミランダを認めながらも、自分はミランダと違う選択をしようと決心するのです。でも、ミランダは決して悪役として描かれているのではなく、長所も短所も併せ持つ人間的なキャラクターが与えられています。完全とは言えないミランダという女性をアンドレアがどう受け入れて、どう拒否するのかというところがドラマの見所となっています。

そして、最終的にアンドレアは自分で選択することになります。このあたりの展開のうまさは原作によるところが大きいのか、演出の賜物なのかはわからないのですが、ミランダを通して学んだことを否定しませんし、ミランダの偉大さも認めた上で、アンドレアが自分の選択をするところをきちんと見せるあたりが見事でした。ラストシーンのミランダの笑顔は、こういう映画の定番とはいえ、うれしい結末になっています。

テレビで有名というデヴィッド・フランケルは、登場人物の全てに嫌悪感を抱かせない丁寧なキャラ作りをして、ドラマのテーマを勝ち負けからうまくはずすことに成功しています。とはいえ、若いヒロインは、ジャーナリストとしての勉強もしてきた優秀で美しい、才色兼備の女性です。我々、凡人からすれば雲の上の人になっちゃうわけですが、その中に凡人も共感できる部分をちゃんと作っているのがうまいと思いました。会社のためでなく、家族のためでなく、自分のために選択をする、その潔さが、ミランダからアンドレアへ継承されていくというお話は、耳に心地よく痛いものがありました。「仕方がない」なんてことは普通の生活の中では存在しない、全て自分が選択しているのだって言われると、確かにそうだよなあって思いますもの。その昔、「デンジャラス・マインド」という学校モノのドラマでも、ミシェル・ファイファー扮する先生が同じようなことを言ってたのを思い出しました。こういうのが自己責任ということなんでしょうね、きっと。

演技陣では、主役のようで脇役のようなポジションのメリル・ストリープがいつもより軽いタッチの演技でドラマを弾ませています。単にコミカルにしちゃうと後半のアンドレアの葛藤が安っぽくなってしまうので、シリアスとコミカルのバランスをうまくとっているという感じでしょうか。アン・ハサウェイは何となく就職しちゃったオープニングから、大きく成長していくさまを魅力的に演じています。彼女の恋人役のエイドリアン・グレニアーが一歩間違えると悪役になってしまうところを善意の人として好演していたのが印象的でした。まあ、とはいえ、このカップル、この先いくつも山谷を越えなきゃならなそうですけどね。


お薦め度×全てのことは自分の選択した結果だという視点に厳しくも納得
採点★★★★
(8/10)
誰も悪役にしないドラマ作りのうまさにも感心するよくできた娯楽作品

夢inシアター
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