アイアン・ジャイアント
The Iron Giant


2000年04月22日 神奈川 ワーナーマイカルみなとみらいシネマ1 にて
これって、ちょっと、いや、かなりいい話です、ホント。


written by ジャックナイフ
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時は1957年、ソ連のスプートニクのニュースはアメリカにも、宇宙時代の到来と、共産主義の脅威を知らしめました。そんな時代のある日、空から降ってきた何かがレーダーにひっかかりました。ホーガス少年は家の裏の森で、身長30メートルはあろうかという巨大なロボットと出会います。ホーガスはロボットと仲良くなり、そして、二人は意思の疎通ができるようになります。しかし、政府の役人はそのロボットを他国からの侵略兵器と見なし、軍を巻き込んで破壊しようとするのですが。

大変評判のよいアニメ映画です。巨大ロボットと少年の交流なんて、昔の藤子不二雄のマンガは大体同じような設定ですし、ロボットを動物と置きかえれば、その昔からある「子鹿物語」「黒い牡牛」さらには「E.T.」の同類とも言えます。あまり、新味のある設定とは言いがたいですし、それでホントに面白いのかなあという気もしたのですが、実物を観ると、これがなかなかに面白く、ラストは泣かせてくれます。

まず、時代背景として、アメリカ全体に戦争への危機感が高まっていたらしいことがこの映画の中でも語られます。主人公の学校で上映されている映画というのが、ミサイル攻撃への備えを教えるアニメです。なるほど、アメリカにもそういう時代があったのかという現代史のお勉強にもなります。この時の仮想敵国はソ連を筆頭とする共産主義陣営です。そこへ現れたロボットが敵国の送りこんだ兵器であると簡単に判断されるご時世ではあったようなのです。

このロボットのデザインがいかにも当時のコミックに出てきそうなパッとしない出来なのが妙におかしく、でも親近感が持てました。戦闘モードに入ると今風SFアニメなデザインに変わるのですが、普段の彼はまるでマンガそのものなのです。ちょっとした言葉を話すし、感情らしきものも芽生えてくるのですが、映画は妙にシリアスにならず、タメの演出は抜きにして、とにかくお話の展開でグイグイと引っ張っていきます。また、笑いの部分もくどくないけど、あちこちに散りばめられていて、ロボットをかくまうハメになるスクラップ屋のリアクションの面白さや、ロボットにうまく表情を作らせたあたりのおかしさが印象的でした。また、このロボットは金属を主食とするのですが、空腹になるとお腹は鳴るし、夜はグーグー寝てるし、リアルなロボットとは程遠いキャラクターになっています。最近のロボットアニメのリアルな設定からすれば、今こそ、こういうロボットがセンス・オブ・ワンダーと呼べるのかもしれません。ともかくもロボットの表情がいいんだわ、これ。

項半は軍隊が彼を攻撃してきます。その顛末は劇場でご確認頂きたいのですが、ロボットのとる行動がかなり感動的なのですが、その動機が悲劇的でないというところが大変気に入りました。ヘンな愁嘆場にならないところが、非常にうれしいのですが、その分、余計目にこっちは泣かされてしまいました。そうかー、そうくるかーとわかっていても、泣きが入ってしまったのは、その語り口のうまさにあるのでしょう。エピローグも人によっては蛇足と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、後日談としてあってもよいと思いますし、私は、この映画のラストカットが大好きです。ここも大感動とか大盛り上がりにならないで、さっと終わらせるセンスが見事でした。

登場する政府の役人を狂信的なキャラクターにしたのは、話をわかりやすくするためかもしれませんが、彼だけが人間側のキャラクターで際立ってしまって全体のバランスをこわしてしまったのが、ちょっと残念でした。また、シネスコの横長画面をうまく使った絵作りも印象的でしたし、マイケル・ケイメンによる音楽が、オーケストラをフルに鳴らす重量感のあるもので、どちらかというと淡々と展開するドラマにメリハリをつけています。私が観たのは日本語版で、英語表現を無理に和訳してる印象が強かったのが今イチでした。とはいえ、この映画は子供たちにもオススメの内容です。同じ時代を扱った「遠い空の向こうに」という映画が最近公開されましたけど、どちらも「自分の選択でなりたいものになれる」というテーマを扱っているのが、興味深いところです。


お薦め度×自己犠牲を前面に出してこないセンスがマル。
採点★★★★
(8/10)
ラストの落とし方がうまい、好き。

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