グリーン・マイル
The Green Mile


2000年03月25日 神奈川 平塚シネプレックスシネマ7 にて
3時間をじっくり見せて泣かせる娯楽映画。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


時は1935年、刑務所の死刑囚監房に一人の黒人の大男が送られてきました。男の名はジョン・コフィ、幼い姉妹を惨殺した罪で彼は死刑なのです。看守の主任ポール(トム・ハンクス)は、ひどい尿道炎に悩まされながらも、死刑囚たちに誠意を持って接していました。その房に入れられているのは死刑囚ですから、一人、また一人と電気イスへと送られていきます。そんなある日、尿道炎の状態が最悪の状態の時に、新入りが大暴れして房の中は騒然となります。その時、ジョンがポールを呼ぶのです。何かと思って近づいたポールをジョンは押さえ込んでその股間を握り締めてくるではありませんか。しかし、次の瞬間、彼の尿道炎が完治していたのです。ジョンには奇蹟を起こす力でもあるのでしょうか。

スティーブン・キング原作、脚色、監督フランク・ダラボンという「ショーシャンクの空に」のコンビによる新作ですが、前作が2時間半なら、今度は3時間ですって。よほど長い映画が好きなのかしらん。原作を未読なのですが、大変長いお話らしく、たくさんのエピソードをうまくまとめたダラボンの脚本の評判がいいようです。私は予告編で奇蹟を起こすでかい黒人の死刑囚の話という印象を持っていたのですが、本編を観れば、確かにそれは物語の柱ではありますが、死刑囚監房(その廊下を「グリーン・マイル」と呼ぶのだそうです。)のエピソード集といったところです。なぜ、そういう印象になったかというと、登場する演技陣が皆それぞれに素晴らしい演技を見せてくれているからです。トム・ハンクスはタイトルトップではありますが、各々のエピソード毎に主演者がいて、それぞれが泣かせて笑わせてくれるのです。そして、狂言回し的役どころとして、タイトル2番目のデビッド・モースが映画全体の主演となっているという感じでしょうか。

死刑囚を扱う看守のプライドと思いやりにあふれたエピソードがまず心を打ちます。死刑制度を肯定も否定もせず、ただ自分の職務に誠実である男たちを細やかに描いたドラマとしても見応えのあるドラマになっています。変に理屈をこねずに自分の仕事を自分のできる範囲でベストを尽くそうという姿勢が大変好感が持てます。看守の中には、そうではない卑劣漢もいるのですが、少なくとも主人公たちは、忍耐と寛容を持って死刑囚に接しているようです。死刑囚を興奮させないように、静かに話すなどの心配りは実話なのかどうかはわかりませんが、非常に彼らが紳士であるという印象を持ちました。この紳士であるという設定に説得力を持たせるために、現代ではなく1930年代という時代設定をしたのかなとも思ってしまいました。

各々のエピソードの中には微笑ましいもの、悲しいもの、残酷なもの、様々なものが織り込まれているのですが、ダラボンの演出は、個々のエピソードをことさらドラマチックに盛り上げるようなことをせず、静かに物語を積み重ねていきます。ただし、中盤のもっとも残酷なエピソードのみ、大変ドラマチックな見せ方をしていたのですが、これが実はエピローグへの伏線となっていたというあたりが見事な構成だと申せましょう。

演技陣の素晴らしさは特筆もので、敵役となるサム・ロックウェルとダグ・ハッチソンもきちんと一人の人間としてのキャラクターが与えられ、本当にいそうなとんでもない悪いいやな奴を好演しています。また、出番は少ないながら、囚人役のグラハム・グリーンとハリー・ディーン・スタントンの静と動のコントラスト、刑務所長のジェームズ・クロムウェルの渋い演技、コミカルな部分で味わい深かった看守役のバリー・ペッパーとジェフリー・デマンなど役者のアンサンブルでこの映画が支えられているといっても過言ではありません。トム・ハンクスの奥さんを演じたボニー・ハントは説得力と魅力とを持ち合わせた中年女性を大変印象的に演じました。物語的にはただの脇役に終わってしまいそうな役どころですが、彼女の演技のおかげで見事に血の通ったキャラクターになっています。そして、トム・ハンクスとデビッド・モースはおいしい役どころとは言え、その役に見事に応える名演を見せています。

その物語の面白さと語り口のうまさはお見事なのですが、話が現代へ飛んだあとのエピローグが、個人的にちょっととっつきにくいものがありました。主人公のセリフ、「人は皆、人生のグリーンマイルを歩いている」というのは、結局、みんな死というゴールへの歩みを続けているということになります。普通はあまりこういう考え方はしないです。死刑囚監房という死への門出の場所ならではの言葉なのでしょうが、これを日々実感するのはやだなあって気がしました。


お薦め度×役者のアンサンブルで見せます。
採点★★★☆
(7/10)
でも掴み所のない話なんだよなあ、特にあのラスト。

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