written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
夫をなくして、霊感による占いで日々の生計を立てているアニー(ケイト・ブランシェット)のもとには、暴力夫(キアヌ・リーブス)に泣かされているヴァレリー(ヒラリー・スワンク)とか、病院帰りで時々精神の均衡を失うバディ(ジョバンニ・リビシ)といった問題を抱えた人々が集まってきます。ある日、息子の教師の婚約者が失踪してしまいます。捜査に息詰まった警察は、アニーに彼女の生死を霊感で透視できないかと相談をかけてきます。するとアニーにはある風景が見えてくるのですが、それは彼女にとっても生命の危険をもたらすことになるのです。
霊感ってのは、普段暮らしている人にとっては胡散臭いものです。大体、そんなものにすがる必要なく生きていける筈なんですから。でも、辛い日々を送る人や藁でもすがりたい気分の人にとっては、救いとなったり励ましとなったりすることがあります。ヒロインはそういう霊感カウンセリングでいくばくかの寄付(こういうことを商業的に行うのは禁止されているんですって、この映画の舞台では)をもらって生活の足しにしています。彼女に相談しにくる位ですから、あまり幸せな人たちではないのですが、そんな不幸な人々の相手をしている彼女も実は最近夫を失って子供との関係もぎくしゃくしています。
彼女の霊感はホンモノという設定です。ですから、彼女は失踪した女性に生前出会った時、その女性に「死」のイメージを見ます。日本流に言うなら、いわゆる「見えてしまう人」なのです。そういう人が、自分の能力を他人の役に立てて、かつ人から後ろ指を指されないように生きていくのはかなり大変なようです。変なことを言えば「縁起でもない」と叱責され、予告が的中すれば魔女扱いされてしまうのですから。実際、この映画では、彼女の霊感が殺人事件の現場をポイントすることになるのですが、その結果、裁判に引き出された彼女は屈辱的な質問を受けます。霊感があることをここで証明しろというようなことが言われるのですよ。随分とひどい話です。証人席の彼女に対して、腕相撲チャンピオンに「お前は腕力が強い筈だからハンマー投げでも1番の記録が出せる筈だ」というのと同じ脅しをかけてくるのです。ケイト・ブランシェットはこの理不尽な扱いを受けながらも善意を貫こうとする女性を非常に魅力的に演じきりました。そして、それに加えて、心の中の「夫の死を受け入れられない」という葛藤を見事に表現して、ドラマに奥行きを与えています。
メインのドラマは彼女が透視した殺人事件の犯人探しということになりまして、このあたりは、日本の2時間ドラマとちょっと似たような展開となります。そこだけ追うと確かに土曜ワイド劇場みたいに思えてしまうのですが、やはりそこは曲者を揃えた、役者の緻密な演技を楽しむところだと思います。ブランシェット以外でも、キアヌ・リーブスが田舎町にホントにいそうな荒っぽいキャラクターを好演してますし、グレッグ・ギニアの田舎インテリぶり、ジョバンニ・リビシの病弱危なげキャラ、更に若手のケイティ・ホームス、キム・ディケンズというメンツまで、なかなか見所の多い映画です。
サム・ライミの演出は、ショックシーンをそこそこ交えながら、スリラーというよりは、ヒロインを丁寧に見せる方に重点を置いているようで、ブランシェットあっての映画になっていると申せましょう。ラストのエピローグでホロリとさせるあたりが暖かい余韻を残します。また、舞台となるアメリカ南部の町の雰囲気が印象的で、沼沢地帯の絵が、心象風景とだぶって不気味な空気感を運んできます。イメージカットの多い映画ですが、クリストファー・ヤングが幻想的なホラー音楽をつけて、全体のトーンをまとめているという印象でした。
お薦め度 | ×△○◎ | ミステリーとしてだけ見ると物足りないかな。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 役者のよさで1ポイントアップの見応えのあるドラマ。 |
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