written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ジャック(ニコラス・ケイジ)13年前にロンドン留学したのが縁の切れ目で、それまでの恋人ケイト(ティア・レオーニ)とは別れて、今や金融会社の社長でリッチな日々を送っています。クリスマスイブの晩、コンビニで銃をもった男をうまくなだめたところ、その男が妙なことを言います。「必要なものはないか」「ない」と答えたジャック。翌朝、彼は自分がケイトと結婚して子供を二人もうけて郊外に住むジャックとして目覚めます。何じゃこりゃと思っているうちに、タイヤ販売店に勤める平凡なジャックに馴染んでいくのですが、その中で、ケイトへの愛情も深まっていきます。でもそれは、長くは続かない一瞬のきらめきでしかないことをジャックは思い知ることになるのです。
もしも、あの時、恋人と別れないでそのまま付き合い続けていたら、どんな人生を送っていただろう。クリスマスイブの不思議な奇蹟の物語、新しい形のクリスマスキャロルと言えそうです。仕事は順調、億単位の金を動かす社長ジャックには何も足りないものなどありません。全てが思い通りに進んでいて、望むものは全て手に入る、そんな彼に、天使が仕掛けたいたずらは、辛辣で意地悪で、そしてちょっとセンチメンタルなもの。人生に「もしも」はないはずなのに、その「もしも」の中にジャックは放り込まれてしまいます。これまでの、エグゼクティブな暮らしに比べたら、平凡でつつましくて、仕事だって、彼の野心を満足させるものではありません。でも、そこにかわいい妻と二人の子供がいて、彼のことに親身になってくれる友人もいる、それは、今までのジャックが目を向けたことのないものでした。
彼は人生を誤ったのでしょうか。映画は意外や、そういう描き方になっていません。ただ、彼は、自分が今まで気付かなかったものの値打ちに目を向けるようになるというお話なのです。その一番大きなものは、ケイトの存在です。ティア・レオーニ演じるケイトが共稼ぎの2児の母を大変魅力的に演じています。ジャックとケイトのやり取りは、ああ、ホントに仲よき事は美しきかなと思わせるもので、高いスーツを買いそうになるときのやり取りとか、転職の話しを持ち出したときのケイトの決めゼリフなど、日本もアメリカも大差ないんだなあって、ミョーに納得してしまいました。この「もしも」の世界は全体にコミカルで笑わせるところも多く、「ラッシュアワー」のブレット・ラトナーの演出はテンポよくドラマをさばきました。
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この先はちょっとだけネタばれがあります。
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結局「もしも」の世界は永久に続かないで、ジャックは現実の世界に引き戻されることになります。そういえば、イブの朝、13年ぶりにケイトから電話があったという伝言があったっけ。というわけで、ジャックはケイトに連絡を取ることになるのですが、ここから先が意外で、そしてうれしい展開を見せます。脚本の功績なのでしょうが、ジャックが、ケイトを得るのではなく、新しい自分を手に入れることになる結末は劇場でご確認下さい。ラストカットが素晴らしくて、そのうれしい余韻のまま劇場を出ることができます。そして、「もしも」は過去にあるんじゃなくて、未来の中にあるという当たり前のところに落すあたりのセンスはうまいと思いました。特に、ここで登場するケイトが、魅力的なキャリアウーマンとして登場するのには感心しました、同じだけと別人という役をティア・レオーニが見事に演じきっていまして、そのどちらにも否定的な視線を向けない演出は好感が持てるものでした。
いわゆる、クリスマスの奇蹟の1エピソードになるのですが、そこに落ちつくということが、ラストまでわからないというのが面白い構成です。「要は、××××じゃん。」(ネタバレ回避のためです。エッチなオチではないですよ、念のため。)ということが映画を見終わってやっとわかってくる、それがファンタジーというよりは、むしろ身近に転がっていそうな話というあたりが、この映画の魅力になっています。ニコラス・ケイジの映画の中では、一番後味のよい映画ということになるのではないかな。
お薦め度 | ×△○◎ | ラストカットが素敵な一品、嫌味のない余韻。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 一瞬のきらめきが人生にもたらすものは波瀾? それとも希望? |
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