エミリー・ローズ
The Exorcism of Emily Rose


2006年03月18日 神奈川 川崎チネチッタ5 にて
悪魔憑きが原因で死んだ女子大生、悪魔祓いで殺したんじゃないの?


written by ジャックナイフ
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エミリー・ローズという女子大生が悪魔祓いの儀式の後、衰弱死し、その死をめぐって、悪魔祓いを行った神父(トム・ウィルキンソン)が過失致死で告訴されます。その裁判で神父の弁護を引き受けるのが、やり手の野心家エリン(ローラ・リニー)です。裁判の中で、悪魔の存在が議論されることになり、最初は懐疑的だったエリンにも心境の変化が訪れるのでした。そして、エミリーが最後にすがった信仰とは一体どんなものだったのでしょうか。

オープニングが大変静かで印象的です。荒野の中の荒れ果てたたたずまいの家に男が一人やってきます。誰もいないのかと思っていると、中から女性が現れて、男を中へと招き入れます。家の中には、若い男や中年の男女など何人もの人がいて、入ってきた男は検死医であることがわかります。そして、二階の部屋へと案内されます。ここまでの静かな展開がすごく怖いのですよ。ああ、これってすごいホラーなのかな?って思わせるのですが、場面が変わって都会のバーで強い酒を飲んでる女弁護士に話が移り、ドラマは法廷劇として展開していきます。

果たして、エミリーの死は、神父の悪魔祓いによるものなのかが法廷で争われます。エミリーは確かに奇妙なものを見たり聞いたりしているようで、精神科医にも通っていました。しかし、ある時を境に医学療法をあきらめ、神父と信仰の力にすがるようになっていきます。彼女にとっては悪魔にとりつかれたとしか思えなくても、周囲の人間からは、精神的な病気として見えてしまう。証言台に立つ精神科医は、医学的治療を中止したことが死につながったと証言します。しかし、神父自身も悪魔の姿を見、彼女の状態から悪魔憑きであると確信し、教会の許可を得て悪魔祓いを行ったのです。拒食や自傷行為に走る彼女を何とか救おうとし、医学療法も併用しようとした神父ですが、悪魔祓いの後、医学療法をエミリー自身が拒否したことがわかってきて、ラストで示される意外な真実は、なかなかに感動的でありました。

ここからは結末に触れてしまうので、ご容赦のほどを。

エミリーは病気だったのか、悪魔憑きだったのか、映画はそこんところは明確にしないまま終わります。ただ、ラストで示される彼女の手紙から、この苦しみを乗り越えるために、科学ではなく、神への信仰を選択したことがわかります。彼女にとって、悪魔だろうが病気だろうが同じこと、どちらにしても神に選ばれた彼女の試練として受け入れようとするのです。ここで、映画は、悪魔の存在云々よりも、人間が信仰に何を求めるのかという物語にすり替わる(表現よくないけどそんな感じ)のです。ここで、「へえー」と感心してしまいました。私から見れば、単に胡散臭いだけの「オーラの泉」のおっさんも逆境にある人にとっては、癒しや救いになるのかもしれないなあ、ってところに思いが至ってしまったのです。エミリーは神を信じ、神の試練を受け入れることで、死をもって、悪魔に打ち勝つことができたのです。宗教とか信仰ってのは、ギリギリのところにいる人にとっては、時として大きな力になる、だから、神父も命がけで信仰に走ることもできるんだなあってところがなかなかに感動モノだったわけです。

ただ、この映画では、弁護士の身辺でも不可思議な現象が起こったりするというのが、余計なエピソードでした。あくまで、内面世界で、医学と信仰の間の葛藤にしとけばよかったのに、客観的に悪魔の存在が実感できてしまうと、お話の興味が「悪魔は実在するのか」という方向に行ってしまうのです。そして、悪魔の実在については、この映画は結論を出さないので、ホラー映画としてのサービスのつもりが、却ってドラマの腰を弱くしてしまったようです。

そうは言っても、オープニングの荒野の一軒家という絵がまず見事でして、法廷劇の部分は見応え十分で、映画としての総合点はかなりいい線いってます。主演の弁護士を演じたローラ・リニーや神父役のトム・ウィルキンソン以外でも、キャンベル・スコットの検事、メリー・ベス・ハートの判事、さらに証言台に立つ、ヘンリー・ツァーニー、ショーレ・アグダシュルーといった面々が説得力のある演技を見せて、映画の格を上げています。特にエミリーを演じたジェニファー・カーペンターは悪魔憑きなのか精神的な病なのか、そのあたりを曖昧に見せながら大熱演しています。彼女は回想シーンでしか登場せず、それも悪魔に憑かれたシーンばかりで、正気の時に何を考えて行動していたのか、ラスト近くまで示さない構成でしたから、演技的にも大変そうでした。まあ、ホラー映画としてのハッタリ的ショックシーンもあるのですが、全体のドラマは重厚に仕上がっています。

この映画の音楽を担当しているのは、「屋根裏部屋の花たち」「ヘルレイザー」「ザ・フライ2」「ギフト」などでホラー映画では定評のあるクリストファー・ヤングです。この人、B級ホラーからどんどんメジャーに進出してきて、「ソードフィッシュ」「ラピッド・ファイア」のようなアクションもの、「スウィート・ノベンバー」のようなラブ・ストーリー、「シッピング・ニュース」「ワンダー・ボーイズ」といった人間ドラマまで手がける、いわゆる職人さん。この作品では、オーケストラとコーラスによる重厚なホラー音楽を書いており、映画のホラー的なショックはかなり音楽で盛り上げられています。サントラCDもあるんですが、これが不協和音に時々パーカッシブにストリングスが入ってビックリさせるという曲が多いので、夜のBGMには不向きかも。静かな曲もそれはそれで怖いですし。


お薦め度×面白い視点と豪華キャストが見ごたえのあるドラマに仕上げてます
採点★★★★
(8/10)
どうしても視点が超自然の方になびいちゃうのはこのジャンルの宿命か

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