written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
作家のモーリス(レイフ・ファインズ)は、友人のヘンリー(スティーブン・レイ)から、ヘンリーの妻サラ(ジュリアン・ムーア)にどうも男ができたらしいと相談を持ち掛けられます。それを聞いてモーリスはびっくり、だってモーリスがかつての情事の相手だったんですもの。しかし、ある日を境に彼女はぷっつりとモーリスと会うことを拒否していたのです。嫉妬も手伝ってヘンリーは探偵にサラの調査を依頼します。サラにはヘンリーとモーリス以外に第3の男がいるらしいのですが、その正体は果たして誰なのでしょう。そして、サラがモーリスと会わなくなった理由とは?
第二次大戦直後のロンドンを舞台に展開する、夫、妻、間男のドロドロの情事の顛末、なんてのを期待していたのですが、まんまと外されてしまいました。確かにこの間男であるモーリスはエゴイストで下司で嫉妬深いイヤな奴です。だって、かつて自分を振った情事の相手に新しい男ができたのを知って、探偵に調べさせるんですから。でも、その相手の男はなかなか見つかりません。夫のヘンリーは、サラに面と向って間男の存在を問いただすことができず、むしろ、サラへの愛情が十分でない自分を責めているように見えます。サラはまだモーリスに心が残っているのですが、どういうわけか、かつてのように抱き合い愛し合うことを拒みます。モーリスは最初、自分を捨てた女の様子を冷ややかに眺めていたのですが、彼女の心が自分に向いていることを知り、余計めに嫉妬の炎が燃え上がっていき、結局、彼女を探偵に調べさせる一方、自分も彼女に接触していきます。
過去と現在が交錯する構成に、さらに同じ場面を異なる主観で二度見せたりといった手法を使いながら、ドラマは二人の情事の最後に日に集約していきます。監督のニール・ジョーダンが自ら原作を脚色しているからでしょうか。ミステリーの構成をとりながら、崇高な愛のドラマに仕上がりました。前半で身勝手な人妻に見えていたサラがだんだん別の女性に見えてくるところが圧巻です。その一方で、モーリスが無様な未練男のままなのが面白いところで、レイフ・ファインズがこういうやな奴を二枚目として演じているのはさすがに役者です。やな奴なのにきちんとドラマの主役足り得ているのは見事だと思いました。また、登場シーンではつかみどころのないキャラクターに思えたサラを演じたジュリアン・ムーアは、見た目の艶かしさとは裏腹な行動が意外性がありまして、こういうドラマでここまでいいとは思っていなかっただけに、うれしい発見でした。
この二人のドラマの結末は、劇場でご確認頂きたいのですが、半分ネタばれしてしまうと、人間、いざという時には、何かを信じてしまうということ、そして何かにすがってしまうということがこの物語のカギになります。人間は目先の欲望に翻弄されるものですが、その時に天にもすがる一瞬というものがあるみたいです。その時、人は神を見るのかもしれませんし、運命と向き合うのかもしれません。どちらにしても、そこで人は自分でどうしようもないものに対する畏敬の念を持つのです。この映画ではその一瞬を大変ドラマチックにとらえることに成功しています。そして、エピローグで一つの奇蹟を示すことで、その人知を超越した存在に、意志を感じさせるあたりにドラマとしての旨味が出ました。感動とかいうより、「うーん、うまいなあ」と思ってしまいましたもの。
脇役としてのスティーブン・レアは、献身的な夫を好演しました。繊細という感じはないのですが、自分では満たすことのできない妻の心を想う不器用さがよく出ていました。また、意外だったのが、探偵を演じたイアン・ハートがいつものようなキレたキャラクターでなく、ユーモアのセンスも備えた紳士を演じていたことでした。やはり役者さんなんだなあって感心してしまいました。
全編の室外シーンで雨を降らせ、ラストで雨上がりにした演出や、室内のスリリングな構図、マイケル・ナイマンの音楽などの趣向がこの映画を盛り上げています。本を読んだ後の醍醐味のようなものを感じさせる映画でした。
お薦め度 | ×△○◎ | ストーリーとしては小品ですが満腹度高いです。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 脚本、演出、演技、どれも一級品。 |
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